雨音と自家製コーヒー
1. 【情景】閉じ込められた休日
ザァァァァ……
朝から雨が降っていた。 森の緑を濡らす雨音は、天然のBGMのようにログハウスを包み込んでいる。 今日は畑仕事は休みだ。
「……よく降るわねぇ」 シルフィが窓ガラスに張り付き、退屈そうに呟く。 「ピコちゃんも外に出られないって、ふて寝してるわよ」
俺は暖炉に新しい薪(アイアンウッドの端材)をくべた。 パチパチ と心地よい音が爆ぜる。
「たまには、こういう日も悪くない。今日は家でのんびりしよう」
俺は棚の奥から、とっておきの麻袋を取り出した。
2. 【焙煎】黒い豆の魔力
袋の中に入っているのは、以前ポン太から仕入れた(物々交換した)緑色の豆だ。
『ブラック・ビーンズ:焦がすほどに苦味と香りが増す豆。眠気覚ましに使われる』
「カイト、それ何? 焦げ臭いけど」 俺がフライパンで豆を煎り始めると、シルフィが鼻をつまんだ。
「これは大人の飲み物だ。……見てろよ」
豆が褐色から艶やかな黒へと変わる。 香ばしさを通り越した、深みのあるビターな香り。 俺は【万能農具】を『手回しミル』に変化させ、焙煎した豆を挽いた。
ガリガリ、ゴリゴリ……
静かな雨の午後に、豆を挽く振動だけが響く。 この感触だけで、心が整っていくようだ。
3. 【抽出】琥珀色の雫
挽きたての粉をネル(布)に入れ、沸騰させて少し置いたお湯を、ゆっくりと注ぐ。 「の」の字を書くように、丁寧に。
ポタ、ポタ……
粉がふっくらと膨らみ、濃厚な香りが爆発的に広がった。 それは、雨の湿った空気を一瞬で「カフェ」の空気に変える魔法のアロマだ。
「……なんか、いい匂いかも」 シルフィが興味深そうに近づいてきた。
4. 【喫茶】苦味と甘味の協奏曲
「はい、どうぞ」 俺は二つのマグカップにコーヒーを注ぎ、サイドメニューとして「シュガーラディッシュのクッキー」を添えた。
シルフィは恐る恐る、黒い液体を口にした。
「……にがっ! ……あ、でも……」
彼女は目を丸くした。 「最初は苦いけど、後から不思議な甘みが鼻に抜けるわ。それに、体がポカポカする」
「そこでクッキーをひと齧り」 「ん……! 甘いクッキーと交互に食べると、苦味がちょうどいいアクセントになる! これ、止まらないやつだわ」
俺も一口飲む。 深いコクと、スッキリとした酸味。雨の日特有の気だるさが、すぅっと浄化されていく。
5. 【結末】静寂の贅沢
それから俺たちは、それぞれの時間を過ごした。 俺は異世界の植物図鑑を読み、シルフィは隣で魔法書のページをめくる。 時折、コーヒーをすする音と、ページをめくる音だけが重なる。
会話はない。けれど、寂しくはない。 同じ空間で、同じ香りを共有している安心感。
「……ふぁ。雨の音って、眠くなるわね」 シルフィが俺の肩にコテンと頭を預けてきた。
「少し寝るか?」 「うん……カイトの淹れたコーヒー、美味しかった……」
彼女は空になったカップを抱えたまま、安らかな寝息を立て始めた。 俺は読みかけの本を閉じ、窓の外を見た。 雨はまだ降り止まない。 けれど、この穏やかな時間が続くなら、それもまた悪くないと思った。




