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姉妹喧嘩と仲直りのオムライス

1. 完璧主義と自由主義


「シルフィード。また昼まで寝ていたのですか? そのだらしない格好はなんですか」


約束通り視察にやってきた姉・エリシアの小言が、ログハウスに響く。 シルフィは頬を膨らませて反論した。


「いいじゃない! ここは私の家なんだから!」 「貴女はハイエルフの王女なのですよ。品位というものが――」 「うるさいなぁ! お姉ちゃんはいつもそう! 正しさばっかり押し付けて、私の気持ちなんて全然わかってない!」


シルフィがバン! とテーブルを叩いて立ち上がった。 エリシアの眉がピクリと動く。


「……そうですか。貴女のためを思って言っているのに。もう知りません」


二人はプイとお互いに顔を背けてしまった。 部屋の空気が重い。ピコとポン太が、オロオロと俺の顔を見上げている。


2. 魔法の赤いソース


「腹が減っては仲直りもできない、か」


俺はキッチンに立った。こういう時は、難解な料理よりも、子供心に響くような料理がいい。 もちろん、肉は使わない。野菜だけで最高の満足感を出してやる。


まずはソース作りだ。 俺は大量の「野生のトマト」を鍋に投入した。 【万能農具】を『ミキサー』にし、トマトをペースト状にする。 そこに「シュガーラディッシュの砂糖」、「果実酢」、そして数種類の香辛料スパイスを加えて煮詰める。 水分が飛び、色が鮮やかな深紅に変わっていく。 自家製『トマトケチャップ』の完成だ。


これさえあれば、あの料理が作れる。


3. 黄金の布団


フライパンで、細かく刻んだ「森のキノコ(椎茸に似た旨味成分)」と玉ねぎ、人参、そして炊きたての「ライ・ス」を炒める。 肉の代わりにキノコをたっぷり使うことで、食感と出汁のパンチを効かせるのだ。


そこに完成したばかりのケチャップをたっぷりと。 ジュワァァァ…… 酸味の効いた甘い香りが立ち上り、白いご飯が食欲をそそるオレンジケチャップライスに染まった。


仕上げは卵だ。 「コカトリスの卵」を贅沢に使い、バターを溶かしたフライパンへ。 ジュクジュク…… かき混ぜるのは数秒だけ。半熟のトロトロ状態で火を止める。


それをケチャップライスの上に、ふわりと乗せた。 まるで、喧嘩した心を優しく包み込む、黄金の布団のように。


4. ケチャップの文字


「できたぞ。特製・野菜オムライスだ」


俺は二人の前に皿を置いた。 黄色い卵と赤いライスのコントラスト。湯気からは、バターとケチャップの甘酸っぱい香りが漂う。


「……美味しそうですが、今は食欲が」 「私もいらない……」


意地を張る二人。 俺は最後に、とどめの一撃を加えた。 オムライスの上に、ケチャップで文字を書いたのだ。


エリシアの皿には『ごめん』。 シルフィの皿には『なかよし』。


「……っ」


二人が息を呑んだ。 あまりに子供っぽい演出。けれど、今の二人には一番必要な言葉だった。


5. 甘酸っぱい涙


「……カイトったら、余計なお世話よ」 シルフィがスプーンを手に取った。 スプーンを入れると、半熟卵が とろり と崩れ、中のケチャップライスと絡み合う。


口に運ぶと、彼女の表情がくしゃりと歪んだ。


「んんっ……美味しい。お肉入ってないのに、キノコの旨味がすごくて……卵がフワフワで……」


エリシアも一口食べ、静かに目を閉じた。 「……懐かしい味がしますわ。昔、お母様がこっそり作ってくれた、甘い卵焼きのような……そんな優しさがあります」


酸味と甘み。卵のまろやかさ。 それは尖った心を丸くする魔法の味だ。


「……お姉ちゃん、ごめんなさい。言い過ぎた」 「いいえ。私も厳しくしすぎましたわ。……貴女がここで幸せそうにしている理由、この味でわかりましたから」


6. 姉の置き土産


二人は涙目になりながら、オムライスを綺麗に完食した。 皿の上の文字は消えてしまったが、わだかまりも一緒に胃袋へ消えたようだ。


「ごちそうさまでした。……カイトさん」 帰り際、エリシアが俺に向き直った。


「妹をよろしくお願いします。……それと、来週の視察ですが、また新しいメニューを期待していますわよ?」


「リクエストは?」 「そうですね……この前、他国の文献で読んだ『ハンバーグ』という料理が気になります。……お肉を使わずに、作れますか?」


エリシアは挑発的に微笑んだ。


「もちろん。期待していてください」


しっかりリクエスト(という名の挑戦状)を残し、姉は満足げに帰っていった。 シルフィは「もう、お姉ちゃんったら」と笑いながら、大きく手を振っていた。

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