あのとき、そばにいた人
校門の前のベンチに座って、涙が止まらなかった。
誰にも見られないように、うつむいて、口を結んだ。けれど、胸がぎゅうっと痛くて、何も言えなかった。
靴が止まる音がして、誰かが近くに来た。
「……大丈夫?」
その声にびっくりして顔を上げると、知らない先輩が立っていた。
やさしい目をしていた。でも、泣いてるところを見られたのが恥ずかしくて、思わず「なんでもないです」って言ってしまった。
でも、先輩は何も言わずに、隣に座った。
ただ、隣にいてくれた。
それだけで、なぜか涙が止まりそうになった。
先輩は、自分のことを少しだけ話してくれた。
昔、いじめられていたこと。
ひとりで泣いていたこと。
話していいって、誰かに言ってほしかったこと。
――それは、まるで、自分の心を読んだみたいな言葉だった。
「だから……話してくれても、いいよ。無理にじゃなくて、いつかでいい」
そう言って、先輩は立ち上がった。
名前も知らない。何年生かもわからない。
でも、たった一言が、すごくあたたかくて、心の奥に届いた。
「……あの、先輩!」
気がついたら、声をかけていた。
「ありがとうございました」
うなずいた先輩の背中が、少しだけ光って見えた。
あのとき、そばにいてくれた人。
あの時間が、自分をひとりにしなかった。
そして、思った。
いつか、自分も、誰かのそばにいられる人になりたいと。