勇者、自由を奪われる。
「魔王よ!!オレがお前を、封印…いや成敗してくれる!!」
オレは魔王に指を差し、宣誓する。
「あら?勇者様、こんにちは!今日も、カイさんに会いに来たの?」
パァっと明るい笑顔をオレに向けて、挨拶をするサラ嬢と、
「何度も言っている。吾は魔王を退き、今ではサラのメイドだ。」
ため息をつきながら、少し不満そうな顔で、オレを見下ろす魔王。とてもムカつく。
「“元”だろうが、魔王は、魔王だ!覚悟!」
ここで引き下がるわけには―――いかない!
「…サラよ、今日のアフタヌーンティーは、お前の好きなものを取り揃えたぞ。」
「ほんと!!嬉しい!!カイさんのご飯も、お菓子も、みーんな美味しいから好き!あっ勇者様も一緒にいかが?」
「オレを無視して、お茶会を進めるな!…それに、魔王の作ったものなど、誰が食べるものか!」
オレが叫ぶと、みるみるサラ嬢の瞳に、水の膜が張る。
「…無理に、お誘いして、ごめんなさい…ふぇ、勇者様は、サラとお茶をするのお嫌かしら…?グスン…」
サラ嬢の目の縁に、涙が溜まって、今にも零れ落ちそうになる。
言い方が強かったか!?泣かせたかった訳では―――
「泣かなくとも良い、サラよ。……なんと、心優しく育ったのだ…!このような無礼者にも、菓子を振舞おうとしておるのに。…今代の勇者ときたら……お茶を断るだけではなく、サラまで泣かすとは…勇者の風上にもおけぬ。仕方ない、吾がお灸を据えてやろう。」
魔王がオレに向き直る。
「…!!な、何をする気だ!!」
オレは、より一層、魔王を警戒する。
「こうだ。」
魔王が指をパチンと鳴らす。すると、オレの体は勝手に動き出し、椅子へと座る。
ついでに話せない。なんで、話せなくする必要があるんだ!?
「サラよ、良かったな。どうやら勇者様も、お茶を飲みたくなったらしい。」
「……ヒック…勇者様…ほんとうに?…グズッ、嬉しいのだわ!!」
魔王が、ふわりと浮かび、サラ嬢の目に溜まった涙を拭い、笑顔になるサラ嬢。
「うぐーーー!!」
オレはというと、身体の自由が奪われたので、強制的にお茶会に参加することになった。
お茶の香りと、菓子の甘い香りが、オレの鼻をくすぐる。
今のオレにできることは、小さな腹の音が魔王にバレないよう、祈ることだけだった。