勇者、魔王の正体を知る。
結界を通り過ぎ、広い草原に、屋敷と、座っている大きな“少女”が突然現れる。
“少女”がこちらに振り向き、パァっと顔を明るくする。
「こんにちは!この前、来てくれた方と、貴方は…はじめましての方ね!サラの名前は、サラよ!」
元気に挨拶をする“少女”。少し、緊張していたらしく、彼女のおかげで、少し力が抜けた気がする。
「丁寧な挨拶に感謝する。オレは今代の勇者だ、先日、君と一緒にいたメイドはご在宅かな?」
「まぁ!勇者様がお家に遊びにいらしてくれるなんて、とっても嬉しいのだわ!ちょっと、待ってほしいのだわ!」
そのあと、サラ嬢は息を吸い込み、“カイさんーーー!お客さまーーー!”と叫んだ。
…耳がキーンッとする。
「サラよ、そのように大きな声を出したら、喉を枯らしてしまうであろう?それに、淑女は、むやみに大きな声を出してはならぬ。暴漢に襲われた時ぐらいだ。」
そう言いながら、ふよふよと浮き、彼女の顔付近まで来て、こちらに気付くメイド。
「……暴漢か?」
「違うわ!」
思わずツッコんでしまった。
「カイさんに、お客さんよ!おもてなししなきゃなのだわ!」
サラ嬢の言葉に、少し目を綻ばせ、「サラがそう望むのなら」と言ったと同時に指を鳴らす。
すると、どこからか、クロスがかかったテーブルに、人数分の椅子。そして、様々な種類のお菓子が現れた。
「なっ!?どうなってるんだ、これは……?」
「知らぬのか?ただの転移魔法の応用だぞ?」
“転移魔法”だと!?高等魔法の中でも“四大魔法”の一つじゃないか!それの応用だと!?
「竜人族のメイドが、なぜ“四大魔法”の一つである転移魔法が使えるんだ?!」
「なにを勘違いしている?吾は“シャモア族”だぞ。」
シャモア族…?さっきも聞いた気が――
「…銀の髪に、赤にも輝く緑の瞳。そしてシャモア族…?…先代の勇者の日記に書かれている、情報と一致している…しかも、この魔力反応…もしや、あのメイドさんは、倒されたハズの魔王では?!」
そうだ!先祖の日記に出てきて、さっき説明された、魔王の種族名ではないか!
「そんな馬鹿な…!?オレの先祖が、ちゃんと倒したハズだ。おい、貴様が本当に魔王だとしたら、何故生きている?!」
「……魔王であった吾は、あの時、親友と共に死んだ。今の吾は、魔王を退き、今では、サラのメイドだ。」
「「???」」
“今では、サラのメイドだ”???
「カイさんって、魔王様なの?」
キョトンと顔をした“少女”が魔王にそう尋ねる。
「吾は、魔法が得意なだけの、ただのメイドだ。」
魔王が、平然と嘘をつく。
―――高等魔法が使える、ただのメイドがいてたまるか!!