表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/52

勇者、日常を噛み締める。


魔王の過去を追体験してから、数日が経った。

なんとなく気まずくて、サラ嬢の屋敷に行けていない。

ラオム殿の『初回限定』というのは、本当らしくあれから魔王の過去を見ていない。

なんなら夢も見ず、快眠だったりする。

……それでも、喉の奥に引っ掛かりを覚えるような日々が続いていた。


―――

「勇者よ、魔王討伐はどうなっておる!」

玉座の手すりを『ガンッ』と叩く国王。

国王との内密の謁見で、ついに魔王のことについて言及されてしまった。

……しかし、魔王の過去を見たせいで、オレの中に迷いが生じている。

周りに支えられ王として奮起し、やっと安定してきた時に初代勇者……オレの先祖が、己の力を誇示するために、一つの国をめちゃくちゃにした。

――オレは、許せなかった。

魔族であるから悪なのか?人間だから正義なのか?

誰かに危害を加えることもせず、ただ、サラ嬢と共に平穏に暮らしているだけの“メイド”を討伐することに意味はあるのだろうか?


「報告書にもあるように……今の魔王は、魔王ではなく、一介のメイドとして過ごしており、こちらの国を脅かす可能性は極めて少ないと進言いたします。」

「散々、『討伐は順調だ』と言っておったのに、報告しが停滞してきた途端に『討伐する必要性はない』だと?」

「“わしを騙していたのか!?勇者!!”」と声を荒らげる国王。


「いえ、決してそのようなことはなく……」

下げていた顔を、王の許しもなく上げる。


「――自分の心を、偽りたくないのです。」


―――

「……で、紛争が止まない地域に配属される。と……貴様は、愚かだな。」

ため息をつきながら、お茶を出す魔王。

事実上の“国外追放”を言い渡されたオレは、滅多に来れなくなるからと、意を決してサラ嬢の屋敷に出向いて、前のようにお茶を飲んでいる。

「会えなくなるの……?嫌なのだわ!もっと勇者様とお茶して、お話して、一緒に遊びたいのだわ!」

スカートの裾を掴み、ぽろぽろと涙を零しながら、『イヤイヤ』と首を振るサラ嬢。

――それだけで、オレの心は幾分か救われたような気がする。


「泣かないでくれ、サラ嬢。会えなくなるわけじゃない、今までみたいに頻繁には来れないだけだ。休みの日には、必ずお茶を飲みに来るよ。」

“休み”があるかは、わからないが……そんなことは、口が裂けても言えない。

「そうだな、休みがわかったら、文を書け。転移魔法で迎えに行ってやろう。それに、サラの字を書く練習にもなる。」

「“それならいいだろう?サラ”」と魔王はふわりと浮かび、サラ嬢の涙を拭う。

いつものように、「“親バカめ”」と言いかけてやめた。

サラ嬢への“甘さ”の中にオレが含まれていることに、なんとなく気づいてしまったからだ。

……気づかなければ良かったのにな。


―――

魔王のことを知っているのは、オレと国王、それから数名の権力者だけだ。

「国王か、近しい者がお前を討伐すべく……別の勇者だれか、もしくは部隊が編成されるのかもしれない。」

魔王のことは心配していない。心配なのは、サラ嬢と街の人々のことだ。

魔王を『守り神』として崇めているのだ、何かしら被害を受けるのでは、と少し不安になる。

「問題ない。最近のサラならば、己の身は己で守れるだろうし、街の人々も案外強かだ。」

……たしかに、何百年も元が付くが魔王を崇めているんだ、杞憂だと思いたい。

「それに、他の者ならば、吾は倒せぬ。」

「“どういう意味だ”」と言おうと開こうとした口を、魔王の人差し指で押さえられる。

寂しさや、慈しみやをまぜこぜにした様な笑顔になり


「吾を打ち倒すのは、お前なのだろう“勇者”?」


呆然と魔王の顔を見ていると、いつもの嫌味な顔に戻り、嫌味っぽく言う。

しかし、それが“嫌味”に聞こえなかったオレは、どうにかなってしまったんだと思う。

顔が熱くなって、口角が勝手に上にあがるのを感じ、必死に下げる。

今のオレの顔は、見せられたものではないだろう。

「“自分おれの親友を頼む”」アーラン殿の言葉がずっと頭にチラついていた。

“よしっ”と声を上げ、両頬をパチンと叩く。

「そうだ、オレは“勇者”だ!お前のことなんて、よろしくされても困る!」

魔王は、何の話かわからないと顔を傾げる。

それもそうだ、これはオレとアーラン殿しか知らないことだ。

「(オレは、勇者だ。魔王と親友にはなれない。だが……)」

好敵手ライバルにならなってやらんこともない!」

その言葉を聞き、目を少し見開いたあと


「百年早いぞ。」


―――前に見た、十人中十人が見たら顔を赤く染めるような笑顔になった魔王。

「うるさいっ!」

赤くなった顔を誤魔化すために大声を出す。

「うふふっ!やっぱりカイさんと勇者様は、仲良しなのだわ!」

目尻の涙を拭いながら、サラ嬢が笑う。

後ろ足で頭を掻きながら、こちらをチラリと見たあと、またそっぽを向くノーティ。

「“騒がしい奴め”」と少し優しい顔つきで、お茶を入れ直す魔王。


これがオレの日常である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ