勇者、魔王の正体に近づく。
依頼された“魔力反応”の件を、王宮魔術団に報告した数日後、
自称“魔力研究家”の魔術団員が家に来て、“今回の魔力反応の原因究明に、繋がる可能性がある”と言われて、我が祖先である、勇者の日記を見せる。
「先代の勇者様って、日記が続かない性格だったですねぇ。三日書いては、五日空き、二日書いては、一週間空いてますよ!魔王を倒した後なんて、書いてない期間の方が多い!」
「それだけ忙しかった、という事だろ?」
「そうなんですかねぇ…あっ、でも魔王の容姿に関しては、ちゃんと書いてますね。なになに?“シルクのような銀の髪に、緑の瞳は、光に当たると赤色に輝くようにも見えた。自分より頭一つ以上大きな体躯に、頭には“シャモア族”の角が生えており、より長身に思えた”ですって。」
「シャモア族?」
「…確か、ヤギの頭を持つ悪魔の一種だったハズですね。」
「魔族の種類か……祖先も俺と同じく、平均より少し高い身長だと聞いた。だとしたら、大柄な魔族なんだろうな……銀の髪に、緑の瞳…そして頭にツノ…?」
「心当たりがおありで?」
「 今回、調査した辺境の地に、その記述されている見た目と似た、竜人族の“メイド”がいたんだ。」
「メイド…ですか?…辺境の地で?狐か何かに、化かされたんじゃないんですか?」
「……確かに、狐に化かされたと、思うぐらいには、美人ではあったが…そんな…」
「へぇ、そんなに美人なら、一目見てみたいもんですね!――ところで、勇者殿?辺境の地には、危険な気配はなかったんですよね?」
「オレが感知できる範囲では、なかったように思う。」
「勇者殿は、その“膜”みたいなものが、“なにか”までは、分からなかったんですよね?」
「本当に“感触だけがある”という感じだったからな。…おい、お前…」
オレの顔が引き攣るのを感じる。
「現地調査に勝るものはナシ!もう一回行ってみましょう!今度は、私もお供しますね!」
「最初から来ていれば、二度手間ではなかったんじゃないか!?」
「私、非戦闘員ですから!」
……爽やかな笑顔で言いやがる。
自称“魔力研究家”―――もとい、ドクトリナと共に、また辺境の地へ向かう。
「確か、この辺りだったような…」
手探りで、見えない“膜”を探していると、身体に“膜”に触れる。
「そうだ、これだ!」
「これって…“目眩しの結界”じゃないですか?」
「目眩しの結界?」
「この結界を張ることによって、魔力を持たない人間や、魔力が弱い魔物とかを弾き出せるんですよ!勇者殿は、“一般の人よりちょっと魔力がある”程度だったから、『少し弾かれるけど、無理をすれば結界内に入れた』という現象が起きたんでしょうね。」
ドクトリナが、憐れんだ目をしてオレに向けて言い放つ。
「オ、オレの勇者の力は、剣術特化なんだよ!しょうがねぇだろ!」
「はいはい、そういう事にしておきますね。」
本当のことを言ってるのに、あしらわれた気がする……
――でも、とドクトリナが続ける。
「これ、勇者殿のやり方、正解みたいですね。弱すぎては、入れない。強すぎると…攻撃されてましたよ。」
「そうなのか!?」
ドクトリナが、オレに向かって、可哀想なものを見るような目で、
「もっと、魔力検知の訓練したらどうですか?」
と言った。
「オレは、大器晩成型だから、いいんだよ!」