勇者、夢を見る。
ちょっと加筆しました。
先日貰った誕生日プレゼントを整理していく。
一番大きいものはサラ嬢からだ。
『前に読んだ本に、盾を持っている勇者様が出てきたの!勇者様も持っていたらかっこいいと思うので、がんばって作りました。今度、持っているところを見せてほしいのだわ!サラより』
おそらく魔王が代筆したであろう、サラ嬢からの手紙も添えられていた。
盾の形をしている厚紙に、ハートや星の折り紙が散りばめられている。
これを持つのか。
オレは、これを持てるのか?
……「“汚したくない”」という名目で、部屋に置いておこうと思う。
よく見ると紙がもう一枚入っていた。
『サラに“本物の盾にして”と頼まれたので、強化魔法、保護魔法、撥水加工や自動修復機能も付けておいた。ちゃんと装備するように。』
……あの魔王は、なんてことをしやがる!
しかも、機能面だけ見たら伝説級の武具になるぞ!?
白目を剥きそうになる。
頭が痛い。めまいもしてきた気がする。
と、とりあえず今度、屋敷に行く時になったら考えよう。
オフィリア殿からは『僕のお店の招待券』と書かれた紙が十一枚。
なんでも特定の条件を満たした者じゃないと、行けない店らしい。
どんな店だ、売上はどうなっているんだ?
……気が向いた時にお邪魔させてもらおう。
ジュリエット嬢からは『勇者くんを味見してあげる券』
味見して“あげる”ってなんだっ!?
まさか“手解き”的な……
……いや、落ち着け、おそらく言い回しがあれなだけで、“稽古をつけてあげる”とかそんなところだろう。
もっと普通にできないものだろうか?
ラオム殿からは肌触りのいい枕。
『我が盟友へ、魔界で飼育している羊の毛をふんだんに使用した、最高品質の枕を贈ります。どうか良い睡眠を。』
これは一番嬉しい贈り物かもしれない。
寝具も相性があると、話に聞いたことがある。
今日の整理はこの辺にして、さっそく枕を使わせてもらおう!
……この時、オレは枕が入っていた箱の下にある紙に気づけなかった。
―――
枕を変え、目を閉じた瞬間、意思が落ちた。
気がついたら、見知らぬ城の中。
不思議と動揺しなかったのは、これが『夢である』とわかっていたからだ。
『明晰夢』と言うんだったか?初めての体験だ。
俯瞰するような視点で、城の中を見回す。
現在、オレがいる地点は公務室だろうか?
派手さはないけれど、厳格な雰囲気を醸し出す机と椅子が、部屋に配置されている。
だんだん音が近づいてきて―――誰かが入ってきた。
「……俺は怒ってるぞアーラン、お前が俺に“魔王になれ”と言ったから、魔王という立場になったんだ。それなのに、自分は俺の護衛騎士だと?責任を取って、お前も宰相とか相応の身分になれ!」
「お前は皇帝陛下より直々にお話をいただいたのだ、無下にするのはおかしいだろう?……それに自分に不相応な役職など、御免こうむる。」
「俺だって不相応な役職だ!上だの下だのアーランと立場が対等じゃないなんて……俺はただお前と背中を預け合える立場でいい……」
これ、本当に夢か?……なんて言えばいいんだ……“誰かの記憶を覗き見ているような”現実味を帯びている気がする。
しかも、二人のうち片方は、メイド服を着ていないが魔王だ。
……服装だけで、印象がずいぶんと変わるな。
もう一人は、おそらくサラ嬢の父親ではないだろうか?
巨人族のようだし、前にうっすらと聞いた父親の名前が“アーラン”だった気がする。
「“皆を率いる王が、拗ねるな”」とアーラン殿が魔王を嗜めているのぼんやり見ていると、扉からノックの音がする。アーラン殿が「“入れ”」と許可を出し、ぞろぞろと魔族が入ってくる。
「失礼いたします。我らが王に置かれましては……」
「長い挨拶は不要だ。要件だけ申せ。」
「はっ、それでは……ご相談があるのですが……」
見知らぬ魔族たちが一斉に、二人に話し出す。
「“橋の補強をしてほしい”」「“井戸の水が飲めたもんじゃない”」「“屋根から雨漏りしている”」
聞き取れたのは、それくらいだ。
……雨漏りまで魔王に相談するのか。
「一部、王に関係のない話が上がったようだが……」
「わかった、引き受けよう。」
「王よ、何を言っておる!?」
「皆、吾を頼ってきたのだ。無下にはできまい。」
いつもの嫌味な笑顔ではなく、いたずらを成功させたような顔で、アーラン殿を見る魔王。
「“だから、あとの仕事は任せたぞ、アーラン”」と言い残し、颯爽と部屋を出る魔王。
残されたアーラン殿が「“……カイサルッ!!”」と叫んでいた。
……アーラン殿も苦労したんだな。
思わず、共感してしまった。
―――
場面が変わり、魔王とアーラン殿、そしておそらく巨人族であろう女性が、公務室に揃っていた。
聞こえてくるのは、赤子の泣き声だった。
「魔王様!ほら、抱っこしてあげてください!この子も喜びます!」
「いや……吾は……」
「魔王がなにを怖気付いている、カイサル!大丈夫だ、妻も自分も見ている。さあ!」
「“カイさん、一人称が『吾』になってる!”」「“三百年ぐらい前から、やっと日常的に言えるようになってな”」
などアーラン殿と奥方が他愛ない話をしつつ、赤子を抱き上げる魔王を見守っている。
赤子がぱちくりと目を開き、魔王を見ると途端に泣き出してしまった。
「奥方っ!アーランっ!やはり、吾には……っ!」
「あらあら、普段見慣れない顔を見て、びっくりしたのかしら?」
「落ち着け、カイサル。ほら、サラ、おいで。」
そう言って、魔王からアーラン殿へ渡される。
見えた瞳の色が黄色と青だったから、もしやと思ったが―――やはりあの赤子はサラ嬢だったか。
今では魔王に懐いているサラ嬢からは、考えられないな。
奥方も魔王のことを『カイさん』と呼んでいるのか、親子だから真似るのは当然かもしれないな。
長くなったので、切ります。




