勇者、誘いを断る。
「おーい!ちょっといいか?」
鍛錬中の休憩中、同僚に呼び止められる。
「どうした?急務でも入ったか?」
「お前、マジかよ……普通忘れるモンかね?まあ、いいや。着いてこい!」
「おいっ!せめて要件を言え!」
連れてこられたのは、王城の警備に携わる者たちが暮らしている寮の食堂だった。
オレは他で部屋を借りているので、たまにしか入らない。
新しい食事の試食でも、食わせて貰えるのだろうか?
同僚が扉を開くと、パァンという破裂音と共に紙吹雪が舞う。
「「「お誕生日おめでとうー!!」」」
他の同僚や、よく立ち寄るギルドの受付嬢などが笑顔で出迎えてくれる。
「……へ?」
「“へ?”じゃないのよ。お前、今日誕生日だろ。」
「もう!自分の誕生日も忘れちゃったんですか?」
「“勇者の生誕祭を国をあげて祝うには、実績が少なすぎる”って財務部に一刀両断された“今代の勇者”様!アハハハ!」
「うるさいっ!笑うなっ!」
近隣に出た魔獣や、国所有の鉱山を寝床にしてしまったドラゴンなどを討伐しても“勇者単体で討伐したわけではないですし……”と一蹴され続けている。
だとしても“勇者”としてオレを持ち上げているのは国なのだから、そこは融通をきかせてほしいところである。
「……ここ数ヶ月、午後からよく出かけてるだろ?ならさっさと捕まえて祝った方がいいと思ってな!簡単だが、祝わせてもらうぜ!」
「“イェー!”」「“フゥー!”」「“おめでとう!”」と祝いの言葉や指笛が鳴り響いた。
「お前たち……ありがとう!」
ロウソクが灯っているケーキを差し出され、一息で吹き消し、人数分に切り分けられ、少し細くなってしまったケーキを食べる。
「……美味いな。」
――美味いんだが、どうしても魔王が作ったケーキが脳内をよぎる。
いやっ!せっかく作ってもらったのに、こんなことを考えたら失礼だ!
「だろ?ギルドの受付嬢ちゃんが、お前のために頑張って作ってくれたんだぜ?感謝しろよっ!」
「ほら、受付嬢ちゃん行って行って!」
「ちょっと!押さないでくださいよ!」
「オレのために……わざわざすまない。ありがとう、とても美味しいよ。」
「いえっ、そのっ!お菓子作りは、小さい頃から好きだったので……喜んでもらって良かったです。」
顔を赤くして、視線をキョロキョロと動かしている。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「えっ!いやっ違うんですけど……その……」
「ん?」
幾分か下にある彼女の目線を怖がらせないように、なるべく優しく聞く。
“ひゃっ”っと短い悲鳴をあげ、余計顔が赤くなってしまった。
周りから「“がんばれー受付嬢ちゃん!”」「“顔だけはいいもんな、あいつ”」「“俺らの華がっ!”」声援などが聞こえてくる。
……誰だ、顔“だけ”って言ったやつ。
「あのっ!」
彼女が意を決した様に顔をあげる。
「良かったら、今日の夜……食事でも……いかがですか?」
彼女の顔の赤さにつられて、オレの顔も熱を帯びる。
……ケーキまで用意してくれたのに、夜までとはさすがに申し訳ない。
「誘ってくれてありがとう……しかし、午後からの用事を終わらせてからとなると、遅くなってしまうので、今回はすまない。今度、オレから誘ってもいいだろうか?」
騎士団や冒険者たちに人気の彼女を、独り占めするわけにもいかないからな!
「……はい。」
しょんぼりとする彼女の顔を見ると、魔王に注意されて落ち込むサラ嬢を思い出す。
彼女と重ねてしまって、なんだか、微笑ましく思えてしまう。
……今日のアフタヌーンティーの菓子はなんだろうか。
「“お前、今日ぐらいは用事すっぽかせよ!”」「“だから、彼女できねぇんだよっ!”」「“いい人止まり野郎!”」
周りの同僚たちから、肩パンやら肘打ちやらを食らう。
オレに恋人ができないこと、いま関係ないだろっ!
―――
「いらっしゃい、勇者様!……あら?今日の勇者様、なんだか甘い香りがするのだわ?」
同僚にしつこく「“彼女と食事行ってやれよ”」という制止を振り切り、サラ嬢の屋敷に来た。
なんなんだ、あいつら……食事ならいつでも行けるだろうに……
「そんなに香りがするだろうか?先程、ささやかな“誕生日会”を開いてもらってね。そのせいかと……」
自分の匂いを嗅いだあと、サラ嬢を見上げる。
するとキラキラした目でオレを見ていた。
「……?サラ嬢?」
「お誕生日!勇者様、お誕生日なのね!お祝いしなくっちゃなのだわ!ねっ!カイさん!」
「“紫水晶の月の刻なのね、覚えたのだわっ!”」と今にもくるくると踊りだそうなサラ嬢。
「勇者の生誕の日なれば、国を上げて祝われそうなものだが……?」
またこの説明をしなければならないのか……
自分で言うにはあまりにも虚しすぎるから、言いたくないんだが……
このまま黙っていても、強制的に口を開くことになるだろうから、さっさと言って開き直るに限る。
「あっはっはっ!勇者としての実績が足りないから、国の方で祝わないとは!」
大きく口を開けて笑う魔王。
くそっ!開き直るにも、やはり羞恥心が勝つ。
先程と違う意味で顔が熱い。
サラ嬢は、よく分かってないようで、頭に“はてな”を浮かべているのが見える気がする。
そのまま純粋でいてくれ。
「“クァッ”」とノーティが欠伸をしたのち、伸びをする。
わかりやすく“興味がない”の意思表示だ。
「ふふっ……哀れな勇者のために、人肌脱いでやろう。」
「“出来合いのものしかないが、致し方あるまい”」と呟き、指を鳴らす。
いくつかの長机に白いテーブルクロスがかけられ、長机の前に椅子が整列し
その上に、“出来合い”と言うには少し豪勢な料理がいくつも並ぶ。
色とりどりのサラダ、鳥の丸焼き、肉団子、唐揚げ……鶏肉料理多くないか?
最後に、食器が各椅子の前に揃って動きを止める。
「一応だが、招待状も出しておいた。」
いつの間に……?
「運が良ければ、来るだろう。まあ来なくてもサラには祝ってもらえるのだ。感謝しろ、勇者。」
「お前はこんな時でも一言多い!」
「うふふっ!仲良しさんなのだわ!さあ、お誕生日パーティを始めましょう!」
―――
それから続々と招待状を受け取った者たちが集まり、次の日の朝まで騒ぐ羽目になった。
部屋に戻り、オレが目を覚ますと、部屋に所狭しと置かれたプレゼントの山があった。
せめて消耗品であってくれと願うオレであった。
……機会があったら、お礼をしよう。




