表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/52

勇者、誘いを断る。


「おーい!ちょっといいか?」

鍛錬中の休憩中、同僚に呼び止められる。

「どうした?急務でも入ったか?」

「お前、マジかよ……普通忘れるモンかね?まあ、いいや。着いてこい!」

「おいっ!せめて要件を言え!」

連れてこられたのは、王城の警備に携わる者たちが暮らしている寮の食堂だった。

オレは他で部屋を借りているので、たまにしか入らない。

新しい食事の試食でも、食わせて貰えるのだろうか?

同僚が扉を開くと、パァンという破裂音と共に紙吹雪が舞う。


「「「お誕生日おめでとうー!!」」」

他の同僚や、よく立ち寄るギルドの受付嬢などが笑顔で出迎えてくれる。

「……へ?」

「“へ?”じゃないのよ。お前、今日誕生日だろ。」

「もう!自分の誕生日も忘れちゃったんですか?」

「“勇者の生誕祭を国をあげて祝うには、実績が少なすぎる”って財務部に一刀両断された“今代の勇者”様!アハハハ!」

「うるさいっ!笑うなっ!」

近隣に出た魔獣や、国所有の鉱山を寝床にしてしまったドラゴンなどを討伐しても“勇者単体で討伐したわけではないですし……”と一蹴され続けている。

だとしても“勇者”としてオレを持ち上げているのは国なのだから、そこは融通をきかせてほしいところである。


「……ここ数ヶ月、午後からよく出かけてるだろ?ならさっさと捕まえて祝った方がいいと思ってな!簡単だが、祝わせてもらうぜ!」

「“イェー!”」「“フゥー!”」「“おめでとう!”」と祝いの言葉や指笛が鳴り響いた。

「お前たち……ありがとう!」

ロウソクが灯っているケーキを差し出され、一息で吹き消し、人数分に切り分けられ、少し細くなってしまったケーキを食べる。


「……美味いな。」


――美味いんだが、どうしても魔王が作ったケーキが脳内をよぎる。

いやっ!せっかく作ってもらったのに、こんなことを考えたら失礼だ!


「だろ?ギルドの受付嬢ちゃんが、お前のために頑張って作ってくれたんだぜ?感謝しろよっ!」

「ほら、受付嬢ちゃん行って行って!」

「ちょっと!押さないでくださいよ!」

「オレのために……わざわざすまない。ありがとう、とても美味しいよ。」

「いえっ、そのっ!お菓子作りは、小さい頃から好きだったので……喜んでもらって良かったです。」

顔を赤くして、視線をキョロキョロと動かしている。

「どうした?具合でも悪いのか?」

「えっ!いやっ違うんですけど……その……」

「ん?」

幾分か下にある彼女の目線を怖がらせないように、なるべく優しく聞く。

“ひゃっ”っと短い悲鳴をあげ、余計顔が赤くなってしまった。

周りから「“がんばれー受付嬢ちゃん!”」「“顔だけはいいもんな、あいつ”」「“俺らの華がっ!”」声援などが聞こえてくる。

……誰だ、顔“だけ”って言ったやつ。


「あのっ!」

彼女が意を決した様に顔をあげる。

「良かったら、今日の夜……食事でも……いかがですか?」

彼女の顔の赤さにつられて、オレの顔も熱を帯びる。

……ケーキまで用意してくれたのに、夜までとはさすがに申し訳ない。


「誘ってくれてありがとう……しかし、午後からの用事を終わらせてからとなると、遅くなってしまうので、今回はすまない。今度、オレから誘ってもいいだろうか?」

騎士団や冒険者たちに人気の彼女を、独り占めするわけにもいかないからな!


「……はい。」

しょんぼりとする彼女の顔を見ると、魔王に注意されて落ち込むサラ嬢を思い出す。

彼女と重ねてしまって、なんだか、微笑ましく思えてしまう。

……今日のアフタヌーンティーの菓子はなんだろうか。

「“お前、今日ぐらいは用事すっぽかせよ!”」「“だから、彼女できねぇんだよっ!”」「“いい人止まり野郎!”」

周りの同僚たちから、肩パンやら肘打ちやらを食らう。

オレに恋人ができないこと、いま関係ないだろっ!


―――

「いらっしゃい、勇者様!……あら?今日の勇者様、なんだか甘い香りがするのだわ?」

同僚にしつこく「“彼女と食事行ってやれよ”」という制止を振り切り、サラ嬢の屋敷に来た。

なんなんだ、あいつら……食事ならいつでも行けるだろうに……


「そんなに香りがするだろうか?先程、ささやかな“誕生日会”を開いてもらってね。そのせいかと……」

自分の匂いを嗅いだあと、サラ嬢を見上げる。

するとキラキラした目でオレを見ていた。

「……?サラ嬢?」

「お誕生日!勇者様、お誕生日なのね!お祝いしなくっちゃなのだわ!ねっ!カイさん!」

「“紫水晶の月の刻なのね、覚えたのだわっ!”」と今にもくるくると踊りだそうなサラ嬢。

「勇者の生誕の日なれば、国を上げて祝われそうなものだが……?」


またこの説明をしなければならないのか……

自分で言うにはあまりにも虚しすぎるから、言いたくないんだが……

このまま黙っていても、強制的に口を開くことになるだろうから、さっさと言って開き直るに限る。


「あっはっはっ!勇者としての実績が足りないから、国の方で祝わないとは!」

大きく口を開けて笑う魔王。

くそっ!開き直るにも、やはり羞恥心が勝つ。

先程と違う意味で顔が熱い。

サラ嬢は、よく分かってないようで、頭に“はてな”を浮かべているのが見える気がする。

そのまま純粋でいてくれ。

「“クァッ”」とノーティが欠伸をしたのち、伸びをする。

わかりやすく“興味がない”の意思表示だ。


「ふふっ……哀れな勇者のために、人肌脱いでやろう。」

「“出来合いのものしかないが、致し方あるまい”」と呟き、指を鳴らす。

いくつかの長机に白いテーブルクロスがかけられ、長机の前に椅子が整列し

その上に、“出来合い”と言うには少し豪勢な料理がいくつも並ぶ。

色とりどりのサラダ、鳥の丸焼き、肉団子、唐揚げ……鶏肉料理多くないか?

最後に、食器が各椅子の前に揃って動きを止める。


「一応だが、招待状も出しておいた。」

いつの間に……?

「運が良ければ、来るだろう。まあ来なくてもサラには祝ってもらえるのだ。感謝しろ、勇者。」

「お前はこんな時でも一言多い!」

「うふふっ!仲良しさんなのだわ!さあ、お誕生日パーティを始めましょう!」


―――

それから続々と招待状を受け取った者たちが集まり、次の日の朝まで騒ぐ羽目になった。

部屋に戻り、オレが目を覚ますと、部屋に所狭しと置かれたプレゼントの山があった。

せめて消耗品であってくれと願うオレであった。

……機会があったら、お礼をしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ