元魔王、サラの顔を覆う。
瑠璃の月の刻も終わりに差し掛かる頃、珍しい客人がやってくる。
「カイサルー!やっと遊びに来れたあ♡」
「……レイリス、この時期は一番忙しい時期だろう?仕事はどうした?」
「優秀な部下に任せて、『現地調査』って名目で来ちゃった♡」
サラとお茶を飲んでいた勇者が、気まずそうにしながらレイリスに話しかける。
「貴殿は確か……」
「エーッ!?勇者クンってば、俺のこと忘れちゃったの?ひどーい!」
吾の腕に抱きついていたレイリスがくるりと離れ、勇者に向かって右手を振る。
「じゃあ改めて自己紹介してあげるっ!魔皇国、第五区域担当、レイリス・ウムアルムングだよっ!かわいくって、ちょっぴりえっちな魔王様だよ!得意な座位は……」
「わぁぁぁあああ!!!」
勇者が叫ぶのと同時に、レイリスの頭に勢いよく拳を振り下ろす。
「サラもいるのだぞ、わきまえよレイリス。」
「こんにちは、レイリス様!“ざい”って何なのかしら?」
「座位ってのはね……もがっ」
「気にしなくてもいいぞッ!サラ嬢!」
勇者が慌てて、レイリスの口を抑える。
……それだと逆効果だ。
レイリスが勇者の手をジッと見つめたかと思ったら、ベロリと舐めたらしい。
勇者が「“ギャッ!!”」と短い悲鳴をあげて、手を退けつつ距離をとる。
「“んふふっ!勇者クンの手、しょっぱーい♡”」とからかいながら、距離を詰めるレイリス。
……これがこやつの性分なのだ、いたし方あるまい。
サラの視界に少しでも映らぬように、彼女の顔の前まで移動する。
「サラの教育に良くない。さっさと帰れ。」
「やだやだやだ!帰らない!サラちゃんと恋バナして、勇者クン“で”遊ぶまで帰らないもんっ!」
「今しれっとオレ“で”って言ったか?」
「こいばな?どんなお花なのかしら!」
「サラに恋愛はまだ早い。」
「出た、親バカ。」
「(花ではないのだが……サラ嬢は、そのままでいてくれ……)」
「吾は、サラのメイドだ。」
そんなやり取りをしていると、また違う客人が来る……レイリスよりもっと珍しい。
「カイサル、あのクソビッチいる?……」
「げっ!メラニじゃん!なんで人間界来てんのさ、仕事してろよっ!」
「はぁ!?アンタが魔王じゃないと承認できない仕事も部下に押し付けたから、わざわざ私が来てやったんでしょ!?感謝して頭を床に擦り付けてほしいくらいなんだけど!」
「ハッ!恩着せがましく言ってんじゃねぇぞ、“現場仕事”できなくなった“オバサン”!」
「お前こそ!いい歳こいて、まだ“現場仕事”にしがみついてるだけの老害ジジイだろうがっ!!」
「“やんのか!?”」「“今日こそ決着つけてやるわよ!”」と顔を近づけ、睨み合っているレイリスとメラニ。
下品な言葉が飛び交っている。
……聞くに耐えない。
こんな会話をサラに聞かせるわけにはいかないので、既に二人の声は聞こえぬように遮音の魔法をかけてある。
勇者にはかけてないので、二人の会話を聞いて顔を赤くしたり青くしたりして、情緒が大忙しだな。
―――
「“表に出ろ”」という売り言葉に買い言葉で、屋敷の前に立つレイリスとメラニ。
「今日こそ、アンタの脳内真っピンクの頭に、魔皇帝様直属の実力を刻み込んでやるわよ!」
「いいね、やってみろよ。俺も常々どっちが優秀なサキュバスか知りたかったところだ!!」
「“ネコ”かぶり忘れてるわよ。」
「お前に振り下ろすのは“タチ”だからいいんだよ。」
今にも、殴り合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気が出ている。
貴様らはサキュバスなのだから、もう少し種族に適した対決をした方が良いのではないかと思う。
勇者は、「“現魔王同士の戦い……”」と呟き、緊張した面持ちだ。
こんなくだらぬやり取りで、そんな真剣な顔ができるとは、ある意味感心する。
念の為サラは、屋敷の中で待機、見物をさせている。
「“二人ともがんばれーなのだわ!”」と声援を送り、両手を振っている。
どんな些事でも、全力で応援するとは、なんと健気なことか……!
本当にサラは、良い子に育っている。
何故か続きます。




