勇者、酔う。
サラの生誕祭が終わって幾月が経ち、雪も積もり始めた。
サラと勇者がいつものようにお茶を楽しんでいる。
―――目眩しの結界に、久しく会っていなかった者たちの気配を感知する。
「……吾に用事、とは考えにくい。……サラか?」
突然の来客用に、カップを二つ用意する。
あやつらが到着する前に、二人に説明しておこう。
「サラ、それから勇者よ、今から来客がある。あやつらは、少し気難しいところがあるが……」
「“二人なら上手くやれるであろう”」と言う前に、呼び鈴が鳴る。
「久しぶりね、カイサル。……ジュリやオフィリアから聞いてはいたけど……本当にメイド服を着てるのね。違和感なく着こなしてるお前が、腹立たしいわ。……ラオムもなんか言ったら?元々、用事があるのはアンタでしょ?」
『嫉妬の魔女』リーガンが、挨拶もそこそこに横に立っている第三区域の魔王、アルプトラオム・シャーフの脇腹を肘で突く。
ラオムは、吾が魔王だった頃からよく突っかかってきた。
こやつが羊頭の悪魔で、吾が山羊の悪魔だからだろうか?
まあ、吾は悪魔“もどき”だが。
「……我が主、ディアマント様のご命令でなければ、こんなところに寄りたくはなかったんですが……我が主は、貴様のどこをそんな気に入ってらっしゃるのか……」
そうか、吾に用事であっていたか。
……しかし、昔と変わらず、ぶつぶつと言っているな。
よくそんなに文句があると思う。
本当にこやつは頭の回転が早いんだな。ほんの少しだけ羨ましく思う。
そんなことを考えていると、サラと勇者が、なかなか戻ってこない吾の様子を見に来たのか、ひょこっと顔を出す。
「カイさんのお客様?おもてなしする?サラもお手伝いしたいのだわ!」
率先して手伝いをしてくれる。本当にいい子に育っている。
サラを微笑ましく見ていると
「おや、貴様。巨人族の生き残りである姫に、給仕の真似事をさせているのですか?“メイド”が聞いて呆れますね。“出自の通り”中途半端ですねぇ。」
ニタァと口角をあげているが、目が笑っていない。
リーガンが「“なんで、カイサルが絡むとそうなるのよ”」とラオムを止める。
うんうん、この言い回し、魔王の時が懐かしく思えるな。
「初対面で申し訳ないが、彼にそのような言い方はいかがなものか?」
勇者が、吾とラオム割って入る。
その声色と身体は少し、震えているように見える。
ふふっ、まるで子犬のようだ。
「誰です?自分では仕事が賄えないから、躾のなっていない犬のような方を、使用人として雇っているのですか?」
ラオムと考えていた事が似通っていて、つい声に出して笑ってしまう。
「ふははっ、そうなんだ。犬のように騒がしいんだ。」
「おい、魔王!オレはお前を……!!」
吾の顔を見て、ピシリと固まる勇者。
「んふふっ……?どうした、勇者よ。」
「―――っなんでもないっ!!」
本当に騒がしい奴だな。
「あら、この子が勇者なの?ジュリが、“すごいよっ!?歴代勇者の中で最弱かもっ!”って言ってた子。」
リーガンがそう言うと、勇者がまたしても固まる。
「ジュリちゃんおば様と、お知り合いなの?」
サラがリーガンに尋ねる。そうか、リーガンと会わせてなかったか。
「“立ち話もなんだ、お茶を飲んでいけ”」そう言って、サラと勇者がお茶をしていた場所に案内する。
「改めて、はじめまして。あたしは『大罪の魔女、嫉妬を司るリーガン』よ。こっちの羊頭は『アルプトラオム・シャーフ』魔皇国、第三区域の魔王よ。」
「“私は、長いからラオムって呼んでるわ”」とリーガンが勝手にラオムの紹介も済ませ、お茶をすする。
「大罪の魔女……その、申し訳ないのだが、他の二人は成人の見た目をしていたのだが……貴殿は……」
「ジュリやオフィリアみたいに、“色気のある身体じゃない”って言いたいんでしょ?……言ってもいいかしら?」
リーガンが呟くので、「“ジュリエットもオフィリアも言ってたぞ”」と報告しておく。
「まったく、あの子達ったら……魔女の呪いのことを、知っているものとするわ。
あたしの場合は『退行』相手に嫉妬をぶつけすぎると、子供の身体になっていくの。だから、他の魔女より“少し”幼い体型なの。」
聞いた勇者が少し、申し訳なさそうな顔をしている。
リーガンは、気にもとめずに「“あら、このお菓子おいしいじゃない”」と言ってクッキーを手に取っては食べを繰り返している。
いい食べっぷりだ。
―――
「――そうなんですよ!この方ったらまったく、いつまでもすました顔をして……!」
「わかります!『そんなことも出来ぬのか』って自分の物差しで判断してきて!!」
「いやー!初め『躾のされてない犬』のようだと思っていましたが、こんなに話が合うとは!」
「こちらも『不躾な羊野郎』だと思っていましたが、話してみればわかることもありますね!」
ラオムと勇者が少し赤らんだ顔で、吾の愚痴を言い合っている。
お菓子のクッキーが早々になくなったので、明日のアフタヌーンティーにと用意していた、パウンドケーキに入っていたラム酒に、どうやら酔ったらしい。
……香り付け程度にしか入れてなかったはずなのだが。
「アンタ、ベロベロじゃない。今日はこの辺にして、もう行きましょ?」
リーガンがラオムに声をかける。
……ラム酒が染み込みすぎていただろうか?
いや、サラとリーガンは、平気な顔をして食べていたな。
「“まだまだいけますぞ!”」「“今日は朝まで飲みますよぉ!”」と二人が騒いでいる。
飲んでないだろ、貴様ら。
「ハァ……めんどくさいから、今日はもう帰るわね。」
「ああ、気をつけて行けよ。」
「リーガン様、ラオム様!またいらしてね!」
サラが笑顔で手を振る。
酔っ払い共も気にかけるとは、サラは本当にいい子だ。
「親バカだ、親バカがいるぞ。」
「親バカですねぇ、そんな腑抜けた顔をディアマント様が見たら、なんと仰ることか……」
肩を組みながら、吾に隠れているつもりらしく、こそこそとやり取りをしている。
「お土産ありがとう、ゴネリル姉様とコーディリアにも伝えておくわ。」
リーガンがラオムに手刀打ちをすると、ぬいぐるみの姿に変わり、それを乱雑に持って姿を消す。
今日も、賑やかな日だったな。
……ところで、あやつらは何をしに来たんだ?
手刀打ち▶チョップ
これがほんとの“ラムチョップ”




