勇者、生誕祭に行く。
「“お祭りとっても素敵だから、勇者様も見てほしいのだわ!”」とサラ嬢に勧められ
屋敷に向かう前に街の様子を見に行く。
「辺境の街『シエンテ』へ、ようこそ!」
「今日は、この街の守り神様の生誕祭だよ!さあ、お花をどうぞ!」
「マグナ様と同じ髪色の花だよ!」
マグナ様……?サラ嬢とは違う誰かなのか?いやでも……
街の人に、とりあえず尋ねてみよう。
「そこの人、すまない。“マグナ様”とはどなたのことだろうか?」
「この街の守り神様のことさ!私達からは見えないけど、丘の上にお屋敷があって、年に二、三回ほどお姿が見れるよ!」
「丘の上に住んでるのは……」
「もしや、守り神様は民衆に名前を明かしてないのですか?」
うおっ!びっくりした。
にゅっとオレの後ろからドクトリナが顔を出す。
「そうさ、はるか昔から、もう一人の守り神様のベラ様が
『吾は、巨人族の娘を守護する者だ。娘を守護するついでにこの地も守ってやろう。しかし、我らの名が残るのは、他の魔を呼びかねない。だから好き勝手に呼ぶがいい。』と
言い伝えが残っていて、街の人達は皆、幼い守り神様を“マグナ様”そして、麗しい守り神様を“ベラ様”とお呼びしてるんです!」
「“ちなみに街の名前は、マグナ様のファミリーネームなんだとか!”」と嬉しそうに教えてくれた街の人。
魔王が言いそうなセリフだな……
そして、サラ嬢のファミリーネームは、シエンテというのか……
「もしかして勇者殿、“初めて知った”とかそんな感じですか?」
ドクトリナがオレの顔を覗き、小声で聞いてくる。
「サラ嬢は、自らファミリーネームを名乗らなかったから……」
小声で返すオレに「“はぁ”」とわかりやすく溜息をつくドクトリナ。
わ、わざわざファミリーネームを聞き返すのもおかしいだろ!!
「というか、ドクトリナも来るなら、オレにも声かけろよ!」
祭りを一人で回るのは、少し肩身が狭いんだからなっ!!
―――
「噂には聞いてましたけど、街全体でお祭りってすごいですねえ!」
「ああ、祭でよく見かける串焼きや、くじ引きの屋台から、よくわからん屋台まである。“マグナ様焼き”……リボンの形をしたおやつじゃないか?あれ。」
「“マグナ様型抜き”……こういうのこそ、型抜きしやすいリボンの形にすればいいのに、なんでちゃんとサラ殿の顔なんでしょうか?」
「“マグナ様絶賛!海鮮焼き”……絶対、サラ嬢は食べてないだろ。まず、魔王がチェックするから食べさせないと思う。」
おそらくサラ嬢の目の色に因んだ、青と黄色の電飾が飾り付けられている屋台を抜ける。
すると突風が吹き、家々に飾られていた花たちが紙吹雪のように舞う。
「あれ?やっほー!勇者くん!お祭りデート中?」
振り向くと、ふわりと降り立つジュリエット嬢と……ジュリエット嬢に似た少女。
「ジュリもねー、デート中なの!ねー♡」
にこにこと少女に笑いかけ、少女は恥ずかしそうにこくんと頷く。
――っいけない!訂正しなければ!!
「デ、デートじゃありません!たまたまそこで会って……」
「そういうんじゃ全然ないんで、やめてもらえます?」
「えぇ〜つまんなぁい!」
本当に違うから、そうなんだけど……
だけど、もっと、こう……言い方があるだろ……
……少し寂しいとか思ってないぞ!!
「と、ところで、そちらの少女は?」
「むっふふ〜!よくぞ聞いてくれました!この子こそ、ジュリ最愛の娘ちゃん!『お菓子の魔女』だよー!」
「“と言ってもまだ見習いだけどね!”」と満足そうに娘を紹介し、彼女を撫でまわすジュリエット嬢。
こ、子持ちだったのか……そんな風には全然見えないから、てっきり独り身だと思ってた。
「役職名ではなく“お菓子の魔女”が、お名前なんですか!?」
興味津々でジュリエット嬢や、娘さんに声をかけるドクトリナ。
そうか……オレは前に『魔女には基本、名前がない』ことを教えてもらったが、ドクトリナは知らないのか。
知識において、こいつの知らないことをオレが知っていると思うと、優越感に浸ってしまう。
「……なに、気持ち悪い顔してるんですか?勇者殿。好みの美女でもいました?本当に気持ち悪いんで、少し離れてもらえます?」
「おい!さすがに傷付くぞ!」
「わぁお!仲良しさん!」
こんな奴と仲良くなんかない!!
目尻がうっすら濡れている気がするが、気のせいだな!
……オレはそんなひどい顔をしていたのか……?




