サラ、勇者を招待する。
「勇者様、あのねっ!サラの誕生日会をするの!ぜひ、来てほしいのだわ!」
いつものようにお茶をしていたところ、突然サラに招待を受け、呆然とする勇者。
なんともマヌケな顔だな。
「サラが直々に書いた招待状だ。受け取るが良い。」
「“ご招待する全員分書きたいのだわ!”」とサラが言って聞かなかったため、いったんサラの大きさで書いてから、圧縮魔法である程度小さくしている。
……昔はミミズが走ったあとのような文字だったのに、今でははっきりと読み取れるようになった。
本当に子供の成長は早い……
そろそろ本気で、学舎を検討しなければならないのか……
後々考えよう。
『こはくのつきのこく、サラのおたんじょう日会をします。ぜひ来てください!』
「すまない……“こはくのつきのこく”とは何時だろうか?」
「「え。」」
思わずサラと声が重なる。
子供なら学舎で習うことだ、勇者ともあろう者が学舎を出てないわけがない。
ともすると……
「……もしや、人間界と魔界では、“刻”の呼び名が違うのか?」
「“こく”?」
「魔界では日が沈み、日が昇る。それをある程度まとまった期間で区切る。」
「それは人間でも同じだ。」
「そのまとまった期間を総称して、魔界では“刻”と呼んでいる。」
「へぇ、そうなのか。人間界では“月”だな。」
「お月様に見立ててるの!?とてもステキなのだわ!」
にこにこと嬉しそうに笑うサラ。
やはり、素晴らしい感性だな。芸術家という道もあるかもしれない。
「おい、帰ってこい親バカ。」
「何回も言っている、吾はサラのメイドだ。」
「はいはい、こっちだって何回でも言ってやる『言葉のあや』だ。」
最近、勇者の反応が落ち着いているような気がする。
……今度ノーティでもけしかけてみるか。
「それで、“こはくのつきのこく”とやらは何時なんです?サラ嬢。」
諦めたように溜息をつき、サラに尋ねる勇者。
……あとで勇者の背中にマタタビでも仕込んでやろう。
「えーっと……いち、にぃ、さん……あと七回寝て起きたらなのだわ!」
「七回……来月の十一月がお誕生日なんですね、おめでとうございます。何日かをお伺いしても?」
「?」
サラが首を傾げ、勇者も釣られ、それを見たノーティも首を傾げている。
思わず、ふっと笑ってしまった。
そうか、人間は“刻”を更に細かくしているのか。
「“琥珀の月の刻”なら何時来てもいいぞ。毎日やっているからな。」
「はぁっ!?毎日!?こういうのは一日じゃないのか!?」
「前にも言ったであろう?“街に娯楽が少ない”ともう何百年も前から、サラの誕生日は街の祭りと化している。」
「……昔、同僚が言っていた『辺境の地とは思えないぐらいの祭り』とは、サラ嬢の誕生祭のことだったのか。」
ここ三百年ほど、サラの瞳の色でもある『黄色と青のリボンを家に装飾する』やサラの髪色の『花を街全体に飾る』など
祭りが賑やかだなとは思っていたが、どうやら派手な部類らしい。
「それは“誕生日会”ではなく“誕生祭”の招待では……?」
「都合がつかない者もいる、そのために一日ではなく全日“誕生日会”なのだ。」
「“なるほど……?”」とぶつぶつ首を傾げている勇者を、ランランとした目で狙いを定めているノーティ。
念のため、薬草の魔女からマタタビを買っておいて正解だった。
「どうせ、毎日のように来ているんだ。素直に頷けば良い。サラへの贈り物を忘れるなよ、勇者。」
“いつもより少し強めに”見つめたせいか、勇者が少し怯んだように見えた。
この程度で怯むとは、先が思いやられる。
「わかっている!……招待、ありがたく受けたいと思いま……うわあああ!!」
「“あっノーティ!”」とサラが止めるまもなく後ろからノーティにのしかかられる勇者。
「良かったな、サラ。勇者様も祝ってくれるようだ。」
「うん!とっても楽しみなのだわ!」
「和やかに話してないで、ノーティをどかしてくれぇぇええ!!」
まったく……自力で抜け出せないとは、軟弱な奴め。




