元魔王、不合格を出す。
ある日のお茶時。
バンッと突然開く扉。
「あら?いらっしゃ……」
「うええぇぇぇんっ!!カイ先輩ーーーッ!!」
……ノーティが騒ぎを聞いて、フローリングを滑りながら、奥の部屋へと逃げる。
こういった騒がしいのにも慣れてきたな、と思う今日この頃である。
「貴様が人間界に来るとは珍しいな、ユニ。」
「“ユニ”」と呼ばれた、十六から十八歳ぐらいの少女。
桃色の髪に水色や紫、黄色のメッシュが入っていて、左側に結んである。
目は濃いピンクで、目の周りには星やらハートやらの化粧が施されている。
そして、一番目を引くのは額にある一本の真っ直ぐなツノだろう。
……しかし、ユニ?……どこかで聞き覚えがあるような……?
「持ち場の第六区域を離れるとは、何かあったのか?」
……そうだ!魔界の六人だが七人いる魔王のひとりじゃないか!
慌てて、置いてあった剣を取る。
現役の“魔王”だ……何があるかわからない。
慣れすぎてしまったのも困りものだな……反省しなければ。
「うええぇぇん!もう魔王辞めまぁす!ユニもサラ姫のお屋敷でメイドさんになりたいでぇす!」
……オレはそっと剣を置いた。
こういう時は、だいたい剣が役に立たないからな!
―――
「サラのメイドになるとはどういうことだ?ユニ。」
「はいっ!ユニもサラ姫のメイドになって、無垢な乙女をハスハス……じゃなかった!愛でたい……いや、お仕えしたいのでぇすよ!」
「なあ、欲望が隠しきれてなかった気がするんだが、オレの気のせいか?」
「よわよわ勇者さんが、サラ姫をそういう風に見てるから、そう聞こえただけなんじゃあないんでぇすか?」
カップを持つ手に力が入り、『ミシッ』と音が鳴った。
……こいつのツノ折ってやろうかな。
「本当に、サラを愛でたいというだけが本音か?」
魔王がジト目で、ユニ嬢に再度質問すると、彼女の視線がだんだん泳ぎ出す。
サラ嬢も首をこてんと傾げている。
キラキラとした彼女の目を前にしてもなお、人差し指同士を付けたり離したりを繰り返し何も話さない。
魔王は「“まあ、いずれはわかる事だ”」とため息をつく。
「では、吾が今からいくつか質問をする。それに吾が適切だと思えたなら、サラのメイドになることを許可してやろう。」
意外だな。
「てっきりお前なら『サラが許可をするなら』とか言うのかと思ってた。」
「……勇者も今にわかる、ユニの危険性を。」
―――
「まず一つ。朝、ノックして声をかけたにも関わらず返事がなかった。ユニならどうする?」
そんなの再度ノックするとか……
「ピッキングで扉を開け、ベッドに潜り込んでサラ姫をハスハスしまぁすっ!」
「アウト。」
「不合格。」
「なんででぇすかっ!?」
“なんで”も何もないが!?
「従者なんだから、起こさなきゃダメだろ!?」
「健やかに寝ているサラ姫を、起こすなんて酷いこと、ユニにはできませんでぇすよっ!」
「不合格。」
「ええぇぇんっ!カイ先輩ご無体なぁあ!!」
魔王に泣きつくユニ嬢と、それを見ておろおろしているサラ嬢。
こういうタイプは、心配しなくても大丈夫だぞ。サラ嬢。
―――
「二つ目、入れたお茶がどうやら適温より熱かった。どうする?」
どうするって、冷めるのを待つとか……いや魔王なら入れ直すとか言うのか……?
「そんなの決まってまぁす!紅茶をフゥフゥしてしてあげまぁす!舌をやけどしてたら舐めてあげまぁす!!」
「アウト!!」
「不合格。」
さっきよりも苛立った“不合格”だった。
魔王がパチンと指を鳴らしたら「“何も聞こえないのだわ?”」とサラ嬢がキョロキョロしていた。
聞かせたくないほど、嫌だったんだろうな……
「なんででぇすか!?ユニコーン種の唾液にも治癒効果があるんでぇすよっ!?」
「問題はそこじゃないだろっ!」
「不合格。」
さっきから不合格しか言ってないな……魔王。
続きます。なぜだ……




