元魔王、魔力を注ぐ。
「皆さん、お忘れではないですか?久々登場!ドクトリナです!」
いきなり扉を開け、名乗りをあげるエルフに似た少女。
その後ろから「“おい、せめて呼び鈴を鳴らせ!”」と勇者が着いてくる。
「“いらっしゃいませなのだわー!”」とサラが楽しそうに応対する。
ノーティは人見知りを発動させ、部屋の方へと逃げてしまった。
しばらくは出てこないだろう。
……以前来た時から気になっていたが、気配がエルフではない。いま改めて感知すると独特の魔力だ。
しかもこの顔、よく見れば……どことなく見覚えがある。
「一つ疑問なのだが、貴様なぜ“知識の魔女”の顔をしている?」
サラ、勇者、エルフもどきの順でお茶を入れつつ、単刀直入に質問をする。
「えっ?メイドさん、所長のこと知ってるんですか!?」
「「「所長?」」」
「はい!私が所属している“魔法道具研究所”の所長です!」
「お前、王宮魔術団の所属じゃなかったのか!」
「勇者殿、私の話聞いてませんでしたね?魔術団に貸し出ししている魔法道具のメンテナンス係として、出向中の身ですよ!」
図星なのだろう、勇者は視線を左へと流す。
毎度名前を出していたくせに、正式な所属を知らないとは……勇者よ、そういう所だぞ。
「脱線しましたね、私の顔が所長に似ているかと言うと――」
似ているというか、生き写しのようだが?
「私、所長のクローン体なんですよね!だから似ていて当然!」
……クローン?確か、対象の人物の組織細胞から、その者とまったく同じ人物を作る技術のことだったか?
「なっ……!?へっ……!?えっ……??」
どうやら勇者も知らなかったらしい。
口をぱくぱくと開いたり閉じたりさせている。
まるで、餌をねだる鯉のようだ。
……試しに菓子でも投げてみるか。
「じゃあ、けんきぅしゃしゃん……噛んじゃったのだわ……」
恥ずかしそうに両手で頬を押さえるサラ。
実に愛らしい。
サラのかわいらしさで、世の中が平和になってしまうのではないだろうか?
勇者は、吾が投げ入れたクッキーが詰まったらしく、お茶を一気に飲み干している。
おかわりを次ぐ用意をしておく。
「言いづらいっすよね!“トリナ”で良いですよ!」
ニカッと笑うと、サメのような歯が見える。
やはりあの魔女のクローンなのか。
一口お茶を飲み落ち着いたサラが、もう一度研究者に問いかける。
「……それじゃあトリナさんは、その所長さんと双子ということ?」
「実験の資料的には“同一人物”ですね。まあ、性格は全く似てませんよ!私は所長みたいに、魔法道具バカじゃありませんし!」
「お前は魔力バカだよな。」
「魔力バカ、大いに結構!人間と魔族、全く別の種族が時折見せる、似た波長の魔力。何故なのか、どうしてなのか、私は知りたい!!」
ガタッと立ち上がり、拳を胸元で作る研究者。
「……ということで、元魔王殿にぜひ試してもらいたい実験がッ!!」
キラキラとさせた目で吾を見る。
魔界にいた頃「“欲!大いに結構!”」と知識の魔女もよく言っていた。
あやつを知っている身からすると、とても似ている。主に思考が。
―――
「研究所に新人ちゃんが来たらしく、その子の考案で完成した『波長が類似している者同士なら、魔力譲渡ができる魔石』です!」
外に連れ出されると、研究者が緑色の魔石を手渡してきた。
「カイさんの目と同じ緑色なのだわ!」
そうか、サラには吾の目がこのように見えているのか。
その感性を育ててやらねばな……芸術の才能もあるかもしれぬ。
「何ひとりで感心しているんだ、魔王?」
「口を閉じろ。吾は今、サラの大いなる可能性を感じている。邪魔をするな。」
「今日はやけに辛辣だな!?やるか?!今日こそ決着を付けてやるぞ!?」
「……なに遊んでるんですか?メイドさん、早く魔力を込めてください。」
腰に手を当て、怪訝な顔で吾と勇者を見る研究者。
実験にしか興味がないところもそっくりだ。
サラに「“見てみたいのだわ”」と言われたので、仕方なく協力をする。
「“あ、魔力を込めすぎると爆発するらしいので気をつけてください”」と研究者に言われたので
一応、サラを屋敷の中に見物するように言ってある。
手の中の魔石に魔力を注ぐ。
――パリンッ
ほんの少ししか込めてないのだが、割れてしまった。
……勢いよく込めたのがいけなかったのか?
「あれ?おかしいな……人間だと上手くいったらしいのに……」
研究者が吾の手の中にある魔石をまじまじと見ながら呟く。
勇者が「“壊すな!”」と騒いでいる。
脆い方が悪い。
……次はゆっくり込めてみる。
――パリンッ
二回目も割れてしまった。
先程より大きい魔石だったし、なるだけゆっくり注いだのだが……
「うーん?まだ魔石が小さい?」
割れた魔石を手に取り呟く研究者。
「“一応、国の備品だぞ!”」と叫ぶ勇者。
騒がしい奴め。
……まだ少量の方がいいのか?
――バリンッ!
……五回目だが、また失敗。
だいぶ魔力を注ぐ勢いを抑えているが、まだ駄目なのか?
「これ以上となると、加工前の魔石しか……」
がさごそと異空間収納魔法が施されているであろうカバンを漁る研究者。
「“魔王……お前魔力を込めるのが苦手なのか……?”」
さっきまでギャアギャアと騒いでいた勇者が、本気で心配そうにしている。
……なるほど、これが『屈辱』か。
あとで薬草の魔女に教えてもらった関節技を、勇者に決めるとしよう。
サラも屋敷の中で「“カイさん!がんばってなのだわ!”」と応援してくれている。
サラは本当に優しいな。
「これでダメなら、ダメです。」
そう言って、取り出された魔石は、勇者のふくらはぎまであるような魔石だった。
石というか、岩だな。
「では、お願いします。」
そう言って二、三歩下がる研究者と勇者。
今までの通りゆっくりと魔力を注ぐ。
すると内側から白く光り出し、バチりと電気が無数に走る。
その瞬間――
――バンッッッ
魔石が飛び散り、爆風が巻き起こる。
「なんで、あの大きさの魔石が爆発するんだよ!!」
「すごい!すごい!!元魔王クラスに耐えられる魔石がないかもしれない!新しい発見だ!!レポートにまとめなきゃ!!」
そう言いながら、爆風で彼方まで飛ばされている勇者と研究者。
「あの高さまで打ち上がるとは、本当に人間とは軟弱だな。」
一応、落下するタイミングで発動する風魔法を、二人にかけておく。
サラが心配するからな。
その様子を、いつの間にか屋根に登っていたノーティが欠伸をしながら見ていた。




