勇者、猫に慰められる。
「ゼェ……ハァ……手加減しろって、いつも言ってるだろ!?」
“いつも”と言うぐらいには、毎回食らってるのか。
……魔女殿、肉体言語すぎないか?
「コホン、気を取り直してルール説明会だ。棚三つ分の本を制限時間内に、整理して片付けること!簡単だろ?」
「“ベルン、毎日やってるって言うなら、この勝負には勝ちな!”」と魔女殿がニカッと笑い、ベルン少年にエールを送っている。
ベルン少年も少し照れくさそうに「“勝つに決まってんだろ!”」と言い返している。
なんだかんだで、仲がいいらしい……
毎回、関節技を決められてるのに。
「勇者様がこれに勝ったら、もう終わりなの?」
「へっ、そんな心配すんなよデカチビ!オレ様が圧勝してやっからよ!」
威張るように言い、魔女殿にスパンッと頭を叩かれているベルン少年。
学習能力……
今回の合図もサラ嬢だ。
「それじゃあ……よーい、はじめ!なのだわ!」
本棚の整理など、ほぼした事がない。
どういう風に整理すればいいんだ?
本の大きさ順か?それとも著者名のアルファベット順?はたまた出版順だったりするのか?
とにかく、始めなければ!とりあえず一冊手に取る。
「なんだこれ……『これ一冊!毎日ごはん』……?魔王、お前……案外、庶民的なんだな……」
「なんだその本は?」
本当に知らないという顔で、本を見る。
この屋敷のものだろう!?
お前が知らなければ、出処不明の本だぞ!?
ちょっと怖いな!?
「あら?そのご本、確か前にジュリちゃんおば様が持ってたような……?」
「……ああ、思い出した、ジュリエットが「“使わないから置いてくね”」と置いていったものだ。」
なんでだろう……想像にかたくないな、その光景。
それから次々に『満足できる!低カロリースイーツ』や『睡眠の質をあげる、おすすめ寝具特集』など、なんとなく持ち主が連想できそうな本が出てくる。
あの二人、他人の屋敷に持ち込みすぎじゃないか?
……そんなことを思いつつ、悪戦苦闘しながら本棚を整理していく。
一番上にあった本を手に取る。
背表紙はない、表には『成長記録』と書かれている……
もしかして、これ魔王がつけたサラ嬢の育児日記か!?
ちらりと魔王とサラ嬢を見る。
二人とも、魔女殿と「“本を捨てるか、取っておくか”」の談義をしていて、こちらを見る気配がない。
理性と好奇心が戦い……好奇心が勝ってしまった。
本の真ん中あたりを開いてみる。
『今代の勇者が、あやつで良かった。』と見えた気がした。
くわしく読もうとすると「“終了ー!”」の声がかかる。
えっ!終了!?まだ終わってないんだが!?
もうそんなに時間が経ったのか?!
ベルン少年が「“オレ様が勝つって、言ったろ!”」と勝ち誇った笑みで、魔女殿とサラ嬢に威張っている。
サラ嬢は「“すごいのだわ!”」と興奮気味に褒めて、魔女殿は「“良くやったぞ!”」とベルン少年の頭をわしゃわしゃ撫でている。
……オレの時よりなんか祝われてないか?
ノーティがオレの足元をぐるぐる回っている。
オレを慰めてくれるのか……
「残念だったな、勇者よ。」
そう言って、オレから本を取り上げる魔王。
「途中で、本を読み出すからだぞ?本を手に取り、中身を確認した後、感傷に浸るのは、所有者の特権だ。」
鼻でフッと笑う魔王。
……クソッ、あの文面がオレの見間違いなのかどうなのかだけ、確認したかったんだが……
書いてあったとしたら、なんでそんな一文があったのか、せめて前後の文が読めていたら……
チラリと魔王を見る。一瞬だけ目が合って『貴様が知る必要はない』と言われた気がした。
なんだよ、それ……
まあ、魔王がそんなことを書くとは思えないが!
―――
「最後の戦いは草むしり!」
全員が外に出て、魔女殿が高らかに宣言する。
今更なんだが、オレにもベルン少年にも実益がない!
魔王の仕事が減ってるだけじゃないか!?
「今頃になって気づいたのか、鈍いな……勇者は。」
いつものように意地の悪い笑みを浮かべる魔王。
うるさいっ!!勢いに流されただけだ!!
「ルールは単純、庭球のコート三面分の雑草を、時間内に抜きまくる!より多く雑草が抜けた者が勝者だ!
あ、雑草の茎部分だけではなく、ちゃんと根っこも抜くんだぞ?」
「オレ様にとっちゃあ、これこそ十八番よ!勝てる気しかしないぜ!悪いな、勇者もどき!勇者はオレ様だぜ!」
「舐めてもらっては困るぞ、ベルン少年。オレも訓練所や街の景観保持のため、しょっちゅう駆り出されている。こちらも負ける気はしないな。」
視線がバチりと合う。
なんで三番勝負しているかも忘れたが、この戦い……
――負けるわけにはいかない!
「泣いても笑っても、これで終いだ!サラちゃん合図を頼むよ!」
「はーい!それじゃあよーい……はじめ!なのだわ!」
もうちょい続きます!




