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薬草の魔女、実況する。


二人同時に、食器洗いに取りかかる。

「さあ、始まりました!勇者VSベルン、三番勝負。実況はわたくし“薬草の魔女”と、解説はカイサル!」

おたまをマイクのように持ち、話し出す魔女殿。

「“勇者様もベルンさんも、がんばってなのだわー!”」とサラ嬢が応援してくれてる。

魔王は……腕組み、じっとオレたちの動きを見ている。

どことなく威圧感があるのは、気のせいだろうか?

「洗う食器は、ボウルが大小合わせて四つ、包丁にまな板。それから勇者殿には鍋と泡立て器。

ベルンにはフライパンとピーラーがそれぞれ配置されている!よくこんなに使用済み食器があったな、カイサル。」

「夕餉の準備をしていたからな。お前たちも食べていくだろう?」

「おっ!ありがたいねぇ!お言葉に甘えさせてもらうよ。」

「みんなとお食事できるなんて、とっても嬉しいのだわ!」

三人が話に花を咲かせている。

実況すると言ったのなら、実況してくれないか!?

魔王は、解説ですらない!

サラ嬢は……そのままでいてくれ。


次々に食器を洗っていく。

洗剤の泡がふわりと浮かび、それに釣られてノーティが、オレをパンパンッと叩いたり、ベルン少年の足に飛びついたりしている。

猫の動作そのものでかわいらしいが、威力がかわいくない。

明日はあざになっているんだろうな……と思いながら、食器を洗っていく。

……ノーティ、痛いからやめてくれないか?


「そこまで!」

声がかかる。「“食器を拭くまでが、食器洗いだ”」と魔王に言われ、洗った食器を全て拭いた。

自然乾燥派として、なかなかに疲れるものだった。

「勝者の発表は、審査員のカイサルから言ってもらう!」

さっき解説って言ってなかったか!?

いつの間に審査員になったんだ!?

「今回の勝負、勝者は―――」

オレとベルン少年が、ごくりと息を飲む。

ただの食器洗いだったが……こう言われると緊張してしまうな……

「―――勇者だ。」

「よっしゃっぁ!!」

思わず声が出てしまった。

最近、勝ち負けを決める戦いで、勝てていなかったからとても嬉しい。

ジュリエット嬢との手合わせとか……ヒメーレ殿との決闘とか……

……思い出すのはやめとく。

今は、喜びを噛み締めよう。

「“勇者様おめでとうなのだわ!”」と拍手してくれるサラ嬢と

「“なにが違うんだよ!?”」と魔王に食ってかかるベルン少年。

「吾が見ていた点は三つ。まずは、“泡の細さ”だ。泡が細かいほど、汚れが落ちやすい。」

無意識に泡を作っていたが、そうだったのか……

初めて知った。

「二つ目は、洗い残しがないか。勇者は、ボウルやまな板の使っていない面も洗っていたが、貴殿は洗ってなかっただろう?目に見えなくとも、汚れがあることもある。」

確かに、自分しか触ってないからいいかと思って、使っている面しか洗わないよな。

わかる気がする。

「最後は、食器を拭く効率。貴殿は片手で布巾を持ち、片手で食器を持っていた。」

それになんの間違いがあるのだろうか?

「普通そうじゃあねぇのかよ!」

「布巾で食器を包むように、両手で持つと、表面も裏面も同時に拭ける。」

「「そうなのか……」」

思わず、ベルン少年と声が重なる。

「おい、お前は狙ってやってたんじゃないのか!?」

「いやぁ……拭く勢いが強すぎて、落としたら怖いなと思って……」

ここにある食器は、高そうなのが、ずらりと並んでいる。

だとしたら、調理器材もおそらく高いのだろうなと思って、慎重に拭いてただけだ。

「んだよ、ビビってただけかよ!腰抜け野郎じゃあねぇか!」

ぅぐっ……その通りなので反論できない……

王国特殊部隊と言っても、給料は平均より少し上なぐらいだ。

それから家賃やら何やら引かれたら、残るものは多くない。

もし落として壊したりでもしたら、しばらくオレの飯が、肉なし野菜の炒め物になってしまう!

それだけは避けたい……!


「着いた決着にぐちゃぐちゃ言うんじゃないよ!女々しい奴だね、まったく!」

魔女殿に背中をバシバシ叩かれているベルン少年が黙ってしまった。

図星で黙っているのか、痛くて黙っているのか……

彼の背中も痣になるんだろうな……あとで軟膏でも貸そうかな……


―――

「二回戦め、本棚整理!」

案内されたのは、本がびっしり並んでいる部屋だった。

「か、勝手に他所の本棚を触っていいのか?」

魔王に聞いてみる。こだわりの配置とか、あるかもしれないからな。

魔王を慮るとか、そういうわけではないがな!!

「かまわぬ。そろそろ気分転換に配置替えをしようと思っていたところだ。」

「わかる。」

魔女殿が深く頷く。

「わかるじゃねぇんだよ、ババア!お前は毎日のように“あの資料はどこいった?”つって本棚ひっくり返してんじゃねぇか!

片付けるオレ様の身にもなれ……」

ベルン少年が言い終わる前に、魔女殿が静かに後ろへと回り込み、自然な動作で技を決める。

「イダダダダッ!?」

「キレイな卍固めが決まったァ!」

思わず興奮して大声が出てしまった。

恥ずかしい。

「うむ、流れるような動作だったな。さすがは薬草の魔女だ。」

魔王も感心したように、つぶやく。

「薬草のおば様すごいわ!サラもやってみたい!」

それだと、技をかけられるのは消去法的に

オレになるから絶対に阻止したい。

「やめときな、コツを掴むが大変だし、サラちゃんの保護者が怖い顔して、わたしを見てる。」

「“ここで人生の終わりを迎えたくないんだ、すまないね”」……と言いながらも、緩める素振りを見せない魔女殿。


助かった……

オレは命拾いしたが、ベルン少年の命は風前の灯火だ。

そろそろ離してあげてほしい……


もうちょっとお付き合いください。

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