元魔王、薬草の魔女を紹介する。
……猫状態のノーティに、頭に肉球と押し付けられたり、椅子の足をスパパパンと猫パンチされたり
お茶を飲むのを妨害されつつも、サラ嬢とお茶を飲んでいる。
にこにこと楽しそうに笑ってるのはいいが
……サラ嬢、ノーティを注意してくれてもいいんだぞ。
目をランランとさせ、オレに狙いを定めていたノーティの耳が、ピクりと外の方へ向く。
「この気配……そうか、もうそんな時期か。」
魔王が呟いた後、呼び鈴が鳴る。
ふよふよと扉を開けに行く魔王と、それについて行くノーティ。
「よぉ!久しいな、カイサル。常備薬の補充に来たぜ。」
銀色がメインで、赤いアンダーカラーの左側だけ編み込まれた髪に、赤紫色の瞳。
胸まで覆うコルセットと、白いズボン。
ニカッと笑う二十代ぐらいの女性が、右手を上げて入ってくる。
「おいコラ、待てよババア!」
女性の後ろから、深緑からオレンジへと変わるグラデーションの髪色
琥珀色の瞳、そして……同じく、琥珀色のツノが生えている少年が、大荷物を抱えながら女性に噛み付くように声をかける。
……この少年、明らかに魔族だ。
一応、警戒して、持ってきていた剣を握るが……
サラ嬢の手前、戦闘は避けたい。
「お前は何回、『ババアと呼ぶな』と言わせりゃ気が済むんだい!」
ヒュンッと空を切る音がした後、スパンッと頭を叩かれている少年。
――いい音だ。……少し気が抜けてしまう。
「“んなこたァ言ったって、ババアはババアだろ”」とぶつくさ文句を言う少年が、再び頭をスパンと叩かれている。
――素手でこの音が出るとは……!
うん、剣を置いても良さそうだな。
「薬草のおば様、お久しぶりです!後ろの方は……はじめまして!サラは、サラなのだわ!」
「やあ、サラちゃん。大きくなったね、前見た時は、私と変わらなかったのに!」
「“サラ、そんなお豆さんな時はないのだわ!”」とサラ嬢が恥ずかしそうに抗議している。
少年の方は、返事をしようにもノーティに舐め回されている最中だった。
猫の舌ってザラザラしてて痛いんだよな……
魔王と女性は、少年のことなど気にも止めず、サラ嬢に向かって「「“いや、あったぞ”」」声が重ねて言う。
サラ嬢の幼少期の大きさを知っている!?
いや……今も幼少期と言えば、そうなのだが。
「おや、珍しい。客人かい?騒がしくしちまって悪いね。」
「いや、お気にならさず……あの、少年は大丈夫ですか?」
思わず女性の方に声をかけると、「“あれくらい片手で制止できないなんて、情けない”」とため息をついていた。
魔王関係の人物だと、よくわかる。
「一応、紹介しておくか。こやつは“薬草の魔女”サラが、赤子の時から世話になっている者だ。」
「おう!怪我や未病なんかに悩んでんなら、あたしに任せな。すぐ処方してやるよ!」
太陽のように明るい笑顔とは、まさにこのことだろうとお手本のような顔で、手を出してくる……
「すまないが、名前をお聞きしても?」
「あー、そうか……お前さん、人間か。
困ったな……カイサル、この御仁はどこまで“魔女”の知識があるんだい?」
「ジュリエットとオフィリアとは、顔なじみだ。」
「なるほど……“名前持ち”としか、会ったことがないのか。」
「ネームド?」
ネームド……討伐するのが容易ではない魔物などに、ギルドが識別しやすいように、名前をつけたりするらしいが……
「魔女は基本、個体名を持ってはおらぬ。だから、こやつの名前は、“薬草の魔女”だ。」
そうなのか……?いや、だとしたら
「ジュリエット嬢やオフィリア殿は、どうなる。」
「名前は“制約”だ。……ジュリエットやオフィリアだけでなく
名を持つ他の者たちも、自分の身を滅ぼす程の過大な力を、名前に封じている。」
「そして、わたしは封じるほどの力がないから“名無し”ってわけさ!」
ノーティの舐め回し攻撃から生還した少年が「デコピンで巨大岩を砕く“怪力は、あるけどな”」と悪態をつき、「“お、そのデコに“力”を喰らいたいようだね”」と指を弾く動作をする薬草の魔女殿。
……さっき、少年の頭をスパンスパン叩いていなかったか?




