勇者、猫にバカにされる。
魔王を討伐するため、今日もサラ嬢の屋敷に向かう。
扉の前には猫が丸まっていた。
明らかに普通の猫じゃない。
目はこの前のドラゴンを彷彿とさせるような金色、模様は白と赤のブチ。
背中に悪魔の様な羽根が生えている。
……そして、何よりでかい。普通の猫の五倍はでかい。
オレの腰元まであると思う。
「……あの、そこをどいてもらえないだろうか?」
声をかけてみる。
オレを見た猫は、欠伸をして、寝る体勢になってしまった。
退く気はないらしい。
見ていたら、しっぽが上がり地面を叩く。
その動作に少し驚いてしまい、肩が上がってしまった……
「こら、ノーティ。扉の前を塞ぐなと言ってるであろう?」
猫がぱちっと目を開き、立ち上がって声がする方へうろうろする。
オレも声の主を探す。
上からふよふよと魔王が降りてきた。
「ノーティに阻まれて、いつものように入って来れなかったか。」
「“軟弱だな”」と言う魔王。
猫をどかせなかったことに、軟弱も何もないだろう!?
少しムカつきながら、「“この猫はなんだ?”」と聞く。
「ああ、勇者は気絶していたものな。こやつは“ノーティ”。ドラゴンだ。」
???
「猫がドラゴンなわけないだろ、ボケたのか?」
オレの言葉を聞いて、いつもの嫌味のような笑顔を浮かべる。
「貴様こそ、ボケてるのか?人間界で翼が生えている巨大な猫を見たことがあるのか?」
ため息をつきながら、幼子に語りかけるように話す魔王。
バカにしたな!魔王め!!
「た、確かに、人間界にはいないタイプの猫だが、見た目は、まんま猫だろうが!」
ほぼ魔王の言葉を、肯定するようなことしか言えないのが悔しい。
『言い負かされたくない』という気持ちが先行して、口から出てしまった。
少し前から魔王に頭を擦りつけていた猫が、オレをジッと見る。
なんだ……後ろになにかあるのか……?
そっと後ろを向いた瞬間『ギャウ!』と鳴き声が聞こえ、視線を戻すと、この前の赤いドラゴンがいた。
「うぉっ!?」
思わず尻もちをついてしまった。
それを見て「“フッ”」と鼻で笑う魔王。
クソッ!クソッ!クソッ!顔が熱い!
「フフ、ノーティめ。名前に違わず、いたずらっ子だな。」
魔王がドラゴンの喉元を撫で、ドラゴンから『ゴロゴロゴロ』と音が聞こえる。
ドラゴンにまでバカにされるのか……オレは……
少し落ち込んでしまう……
「ノーティ?カイさん?どこにいるのだわ?」
サラ嬢の声が聞こえた途端、先程の猫の姿に変わり、屋敷の中へと入っていく。
彼女がひょこっと顔を出す。
「あ!いた!……まあ、勇者様もいらしてたのね!早く入って?サラとお茶しましょう!」
にこにこと笑うサラ嬢の足元に、『ゴロゴロゴロ』『ミーゥ』『ナァウ』と寝そべりじゃれる猫。
先程までのオレをからかっていた様子はなりを潜め、彼女に甘えている。
……おお、猫が猫を被っている……
「サラが貴様を招き入れようとしている。勇者よ、早く入れ。」
「わかっている!!」
オレの声に耳を立て、それでも興味なさそうに欠伸をする猫がいた。




