サラ、名付ける。
やっと闘いました。
けたたましい音が鳴り響く。
勇者とヒメーレが戦い始めて、一時間は経っていないはずだ。
「カイサルの詠唱、相変わらず物騒だよね。」
「“何なら、昔の詠唱の方が刺々しかったケド!”」
第5地区の魔王――レイリスが話しかけてくる。
「吾は元々、攻撃魔法ぐらいしか覚えていないのは、貴様も知っているだろうが、レイリス。」
強化魔法や支援魔法は、吾が騎士であり、親友のアーランの役目だった。
アーランが生きていれば、吾が覚える必要などなかったんだが……
必要に迫られて、覚えたものが数種。
サラをなるだけ一人にさせない為に覚えた、転移魔法や、
サラの着替えや、ほつれた箇所を縫うための裁縫箱などを仕舞う異空間収納魔法なども該当する。
レイリスが「“言ってみただけじゃーん!”」とニヤニヤしながら、勇者とヒメーレの戦いに視線を戻す。
ヒメーレが水魔法を撃ち、勇者がそれを剣で弾く。
勇者がヒメーレの懐に入り込もうとするが、風魔法を撃ち、距離をとる。
まさに攻防戦だ。
民衆も「“そこだ!行けー!”」「“赤髪の人がんばれー!”」「メガネの人ー!やれー!」など歓声が上がっている。
屋敷の中にいるサラも「“二人ともがんばってー!なのだわ!”」と応援している。
勇者とヒメーレ、両方を応援するなんて、本当に心優しい子に育っている。
サラの成長を、見守ることしかできていない吾だが、鼻が高い。
最初は魔法の威力や、実践経験の差などを加味して、ヒメーレが優勢かと思っていたが
ジュリエットや、オフィリアとの特訓の成果なのか、勇者も必死に食らいついている。
お互いに“決定打に欠ける”といったところか。
……二人とも、息があがってきているな。
そろそろ最終局面かと、考えている時
“何か”がものすごいスピードで落ちてきた。
地面が割れる様な音、それに伴って舞い上がる砂ぼこり、おそらく人間は聞きなれない“鳴き声”
「“ぐぁっ!?”」「“なんだ!?”」と叫びながらも、
勇者やヒメーレは、落ちてきた時の衝撃をなんとか踏みとどまったようだ。
魔王たちは落ちてきたものを注視する。
民衆は「“どうしたんだ!?”」「“なにが起きたんだ?”」
「“何も見えないぞ?”」「“何か落ちてきたぞ!!”」
騒ぎになっているな。
しかし……この気配は……?
勇者とヒメーレの間に落ちてきた“何か”
砂埃の中、蠢くそれはロープ状のものをパシンパシンとしならせて
ヒメーレ目掛けて当てようとするが、大振りな動きのせいで当たらない。
……自分の力の使い方が、まだわかっていないのか。
と、するとこれは“幼体”だな。
砂埃がはれ、“何か”が姿を現す。
大きさは……サラより一回りぐらい小さい程度か。
金の瞳に猫のような瞳孔はギョロギョロと辺りを見回している。
赤い鱗が体全身を覆っていて、しならせていたロープの様なものの正体は、やはり尻尾のようだった。
――ドラゴンの幼体だ。
「……は?な、なんでこんな所にドラゴンが!?」
どんな時でも騒がしいな、勇者は。
「ドラゴン……この大きさなら……まだ子供でしょうか?」
身体のなかに、ドラゴンが混ぜられているせいか、ヒメーレは冷静だな。
ヒメーレがドラゴンをまじまじと見つめる。
ドラゴンが『グュルルルルルル』と喉を鳴らしながら、ヒメーレへと向かっていく。
突進と言った方が状況的には合ってるかもしれぬな。
周りの民衆たちも、最初こそ動揺を隠しきれなかったが、勇者とヒメーレがドラゴンを
相手にしているのを見て「“そこだ!”」「“あぶなーい!”」「“後ろに回り込んで!”」
など歓声を上げている。いい催しになっているようだ。
屋台の方も先程よりも、賑わっている。
魔王たちも、どうにかドラゴンを自分のものにしたいようで、ドラゴンの隙を伺っている。
魔界のドラゴンは、こんなに愛らしくないから、愛玩用として欲しいのだろう。
幼体なら、躾けるのも容易だしな。
一時休戦して、共にドラゴンに向かっていた二人だが、互いの息を合わせるのが難しかったらしく
攻撃のタイミングがズレている。
それを見逃さなかったドラゴンの大振りな攻撃が見事にあってしまった。
勇者はともかく、打ちどころが悪かったらしくヒメーレまで気絶している。
全く、軟弱な奴らめ。
ドラゴンが気絶しているヒメーレに近づいて、匂いを確かめ、がぱっと口を開けた、その時。
「ドラゴンさんっ!ダメよっ!」
サラが屋敷から出てきてしまった。
ドラゴンは、首を傾げながら『ギュルルル?』と喉を鳴らしている。
腕をばっと広げ、強気にドラゴンを見つめている瞳には、
うっすら水の膜が張り、その足は小刻みに震えている。
――素晴らしい!
自分も恐ろしいのを我慢して、勇者とヒメーレをドラゴンから庇うとは、なんて健気で勇敢なことか!
アーランと奥方もさぞ、“あちら”で喜んでいることだろう!
……魔王たちも、互いに牽制をしすぎて二の足を踏んでいる状態だ。
ならば好都合。
喉に指をあて、拡声魔法で民衆に聞こえるよう宣言する。
『勝敗は決した――勝者は……このドラゴンだ。』
そう言うのと同時に、ドラゴンに拘束の魔法をかける。サラに怪我をさせる訳にはいかないからな。
民衆は「“え、ドラゴン?”」「“戦ってた二人のどちらかじゃないの?”」「“守り神様、やはり麗しい……”」
色々な疑問の声が上がる。
魔王たちの「“俺が貰おうと思ったのに!”」「“私だって欲しいんだけど!”」「“魔皇帝様に献上したかったのだが……”」という言葉を無視をして話を続ける。
『当初、戦っていた二人のどちらかであったが、見ての通り二人とも、戦線離脱している。ならば勝者はこのドラゴンと言えるであろう。』
『“異論があるものは?”』と魔王たちも含め、皆に問いかける。
「“わぁー!新しい守り神様の誕生だ!”」「“ドラゴンが守り神なんて、すげー!”」「“これでまた街が潤いますぞ!!”」
街の者たちの歓声が、地面を揺らすのではないかと思うほど響いている。
魔王たちに向き直り、「“貴様らが声を上げないのなら、このドラゴンは、吾がもらってやろう”」と宣言する。
誰かの舌打ちが聞こえたが……ふむ、異論は無いみたいだな。
「サラよ、このドラゴンに名を付けよ。」
「ドラゴンさんにお名前?」
「そうだ、このドラゴンは、サラの従者になるのだから、サラが名を与えるのだ。」
「わかったのだわ!うーんとね、えーっとね……」
一生懸命、考えているサラを微笑ましく見てしまう。
民衆が「“うぉぉぉ!”」「“守り神様ー!”」「“今日も麗しいー!”」と何やら騒いでいる。
どちらかと言うなら、サラは“愛らしい”ではないか?
「そうだ!二人の決闘を邪魔しちゃういたずらっ子だから、“ノーティ”なんてどうかしら?」
「“素晴らしいお名前だ!”」「“流石だ!!”」「“ノーティ様!”」
ドラゴンは『“キュルル”』と鳴いた。
悪戯っ子か、さすがはサラだ。
名付けの才能もあるとは。
―――
「ドラゴンは持っていかれたが、中々に楽しめた!礼を言う!たまには、ディアマント様に顔を見せろよ。」
「たまにはこういうのも悪くないわね!……でもカイサルってば、オイシイとこ持っていっちゃうんだもーん!ずるいわ!」
「不甲斐ない決闘を見せました……いつか、ちゃんとした勝敗をつけてみたいものです。」
「屋敷の座標覚えたから、たまに遊びに来るね♡」
「あぁ、サラ姫と離れがたいでぇす……私もサラ姫のメイドになりたいでぇす……」
魔王たちがそれぞれ別れの挨拶を述べ、魔界へ帰っていく。
「皆さん!また、いらしてなのだわ!」
魔王たちがいた場所に手を振るサラ。
吾は、足元を見て、ため息をつく。
「いつまで気絶しているつもりだ、勇者よ。」
本当に、今代の勇者は軟弱で困るな。




