勇者、魔王に決闘を申し込む。
サラ嬢に誘われ、いつものようにお茶を飲んでいると、屋敷の呼び鈴が鳴った。
魔王がふよよと扉を開けに行く。
「カイサル様!突然の訪問をお許しください!オフィリア様はこちらにいらっしゃいますか!?」
「オフィリア?いや今日は来てないぞ。店に居ないのか?」
「はい……ベル様に店番を任せて、どこかにお出かけしていると聞きまして、てっきりこちらかと……」
扉の方へひょこっと顔を出す。
魔王と親しげに話している男性……人間か?
気配は人間なのに、オレの勘が人でないと告げている。
まあ、魔王と似たようなツノが生えているからというのもあるが。
先程まで美味しそうにケーキを頬張っていたサラ嬢も、気になるようで、こちらにやってきた。
「カイさん、そちらの方はお客様?お客様ならお茶の用意をしなきゃなのだわ!」
「いえ、連絡もなしに訪ねて来た者ですので、お構いなく……」
「サラがお茶に誘っている。ヒメーレよ、飲んでいけ、その間に探知魔法でオフィリアを探してやろう。」
「そこまでしていただく訳には……」
「吾の入れた茶が飲めぬと言うのか? 」
威圧的な上司みたいな言い方になっている魔王。
元々傲慢な言い方をしているが、なんだかいつもよりも上から目線に磨きがかかっている気がする。
「……いただいていきます。恐れ入ります。」
あんな風に言われたら、折れてしまうよな。
わかるぞ。
「“サラもおもてなししたいのだわ!”」と言って、魔王と一緒に、サラ嬢もキッチンへ行ってしまったので、初対面の二人っきりというのは、だいぶ気まずい。
「別のお客様の応対もしていたというのに、申し訳ない……カイサル様のお客様も、ご迷惑おかけしてすみません。」
「あ、いえ、こちらこそ……」
なんなんだ、この人……?やたら腰が低い……
魔王関係の人物は、だいたい威圧的な者たちばかりだったから、調子が狂う……
「そういえば、自己紹介がまだでした!ヒメーレ・ホイルズーセと申します。“魔皇国、第四区域の魔王”をしております。」
「あ、ご丁寧にありがとうございます。
オレは王国特殊部隊所属で、今代の勇者でもあります……」
ん?いま“魔王”って言ったか?この人??
「今代の勇者様!カイサル様は、勇者の友人もいらっしゃるんですね!顔が広い、流石だ!」
「いや、友人では……」
友人ではない、友人ではないが……
お茶を飲み、土産を持たされて帰宅するという、今のこの関係を適切な言葉にできない。
それより、気になることが二つある。
「大変不躾ですまないのだが、貴殿は人間か……?その……なんというか、気配が……違ったら申し訳ない。」
「さすが勇者様、ご推察の通り、自分は人間ではなくドラゴンと吸血鬼、そして人間のキメラです。
ベースが人間なので、混乱されたでしょう?」
キメラ……
キメラって動物や魔物を人為的に配合した幻想種の一種だよな!?
倫理に反すると、王国では禁忌の一つだったはず……
「何故、キメラに……?」
「ああ、いや、友人のドラゴンと吸血鬼の三人で歩いていたところを
一般通過イカレ科学者に、魔改造されましてね。」
「“お恥ずかしい話です、アッハッハ”」と軽く笑っているヒメーレ殿。
一般通過イカレ科学者ってなんだ!?それはもう一般ではないだろ!
しかも内容が全然軽くない。重い、重すぎる。
それこそ、ドラゴンの体重よりも重いだろう。
いかん、頭が痛くなってきた……
さっさともう一つの気になることを聞こう。
「あの、先程“魔王”と言ってましたが、魔王……あいつも魔王なのでは……?」
「何度も言っておるだろうが、吾は魔王を退き、今はサラのメイドだ。」
サラ嬢と共に、魔王が戻ってきた。
「はい、カイサル様が引退した後、魔王に就任しました。いわゆる“後任”というやつですね。」
就任制度……
魔王が辞表を出したんだろうか……?
「おじ様が、魔王様なの?」
首を傾げるサラ嬢。
「こら、サラよ、相手の年齢や立場が分からぬ時は、“お兄さん”もしくは“お姉さん”と言うように教えたであろう?」
「そうだったのだわ!ごめんなさい、お兄さん……」
魔王に怒られて、しょんぼりとしながらヒメーレ殿に謝るサラ嬢と、「“いいですよ、いいですよ、お嬢さんから見たらオジさんですから”」と大人の対応をするヒメーレ殿。
……魔王に、ヒメーレ殿の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいな。
「勇者も飲んだ方がいいのではないか?その騒がしいのが少しは、マシになるやもしれぬ。」
フッと鼻で笑いながら、オレの前に新しいお茶を出す魔王。
「なんだと!?」
「やはり騒がしいではないか。」
睨み合うオレと魔王を、「“仲良しさんなのだわ!”」「“そうですねー”」と緊張感なく見守るサラ嬢とヒメーレ殿。
なんだか、やる気が削がれてしまった。
「コホン、脱線したが、ヒメーレ殿は魔王ということで間違いないか?」
「はい、そうですね。」
「ならば、貴殿も討伐対象だ!覚悟してもらおう!」
ヒメーレ殿にビシッと指を指す。
「はい、では“決闘の申し込み”ということでよろしいですか?」
ヒメーレ殿が慣れた手付きで、懐から手帳を取り出す。
「あ、ああ。そういう事になる……のか?」
「そうですね……今月と……来月の頭までは予定が詰まっておりまして……中頃以降でしたら、承れます。」
「それじゃあ、近くなったらまた、連絡するという形で……」
「はい、かしこまりました。」
ヒメーレ殿が手帳にさらさらと書き込む。
こんな事務的に“決闘依頼”をしてのは初めてだ。
「ヒメーレよ、オフィリアが探知魔法にかかった。
どうやら店に戻っているみたいだぞ?」
「えっ!本当ですか!?」
ヒメーレ殿はお茶をくびーっと一気飲みしてから「“ごちそうさまです”」と言ってカップを置く。
「カイサル様!ありがとうございました!お嬢さんもおもてなしをありがとう。勇者様!また後日、連絡をお待ちしております!」
そう言って、屋敷からばたばたと走り去っていった。
オレはその背中をポカンと見つめることしか出来なかった。
……美味しそうに、お菓子を頬張るサラ嬢はいいとして、お前は座ってくつろぐなよ、魔王。




