サラ、魔法を習う。
「カイさん!私、高等魔法を教えてほしいのだわ!」
勇者がお茶を吹き出す。
吾はパチンと指を鳴らし、吹き出されたお茶を空中に浮かせる。
「高等魔法か……良かろう、どれがいい?比較的覚えやすいのは、天候操作だろうか?」
勇者が咳き込む。
指を動かし、お茶をひとつにまとめ、排水溝へと流していく
「いいの!?」
“嬉しいのだわ!”と今にも小躍りしそうなサラを見て、思わず笑みがこぼれてしまう。
「サラも、そろそろ魔法を習う年頃だろう。いきなり高等魔法は難易度が高い気もしないが、まぁサラであれば、大丈夫であろう。」
勇者が深呼吸をしている、新しい紅茶を、勇者のティーカップに注ぐ。
「大丈夫なわけあるかーーーーーー!!!」
勇者の渾身の叫びが、屋敷中に響いた。
騒がしいヤツめ。
―――
「いいかい?サラ嬢、まず基礎魔法を教えていくよ。」
“何事も基礎が大事だろうが!基礎を飛ばすな!!”と勇者にとめられ、勇者がサラに基礎魔法を教えている。
「はーい!お願いしますなのだわ、勇者様!」
「まずは火魔法、初級だと『フレイム・モスク』」勇者の手から炎が出てくる。
「勇者よ、貴様ちゃんと魔法が使えたのか。」
しかも、魔族が使う魔法とは、魔力構成が違うように見える。
「不得手なだけで魔法は一通り使えるわ!!」
“馬鹿にしやがって”とぶつぶつ言いながらサラにやってみろと促す。
「『フレイム・モスク』!!」
ポンと小さいながらも火種がサラの手から出てくる。
初めて見る人間用の魔法を、一回で習得するとは。
「やはり、サラは筋がいい。」
「確かに…初めて魔法を使うのに、一発で発動させるとは…オレの時は二、三ヶ月かかったのに……」
後半のセリフはあまりにも小声だったので、触れないでやろう。
「さすがサラだ。」
自分のことのように嬉しく思う。
「ドヤ顔で頷くな。(うるさいな、この親バカ)」
「事実を口に出したまでだ。」
「?!おま?!?心を読んだ?!?」
勇者が騒ぐ。
心を読まなくても、顔に出ているぞ、勇者よ。
「勇者様、早く早く!次の魔法は!?」
勇者はサラに急かされ基礎の水、風、土魔法を教えていく。
「勇者よ、雷と氷と毒はどうした?」
「それは上級寄りの中級魔法だろう、さすがに早すぎる。(まず、オレが使えない!)」
「…そうか、この時代ではそうなのだな。リーガンとデズデモーナ、ジュリエットが騒ぎそうだな…」
「どうしてそこで、ジュリエット嬢が出てくる?」
そうか、人間の魔法と魔族の魔法形態も違うのだな。
他の人とは比べられないほどの早さで魔法を習得していくサラ。
「やはり雷、氷、毒も教えた方が良いのでは?」
「うるさい!!!親バカ!!」
「吾はサラのメイドだが?」
「言葉のあやだ!!…フゥ落ち着けオレ…今日はここまでだ、サラ嬢。」
「もう終わりなの?勇者?もっと知りたいのだわ!」
「(オレの教えられる精一杯なのだが……)続きはまた次だ。それでは、失礼するよ。サラ嬢。」
「はーい!勇者様、お土産を持って行ってなのだわ!ふふ、楽しみだわ!!」
その前に、サラに魔族の魔法も教えぬといけないな。
その日の夜
「カイさん、サラはカイさんみたいにすごい魔法いっぱい使えるかしら…?」
「何を悩むことがある。勇者様も言っていたではないか、筋がいいと。」
「サラもっともーっと魔法を使えるようになって、少しでもカイさんの役に立ちたいの!」
その齢で、そのようなことを考えていたのか。
「吾は、サラのメイドだ、サラが吾の役に立つとは、本末転倒ではないか?」
「それでも、私はいつかお嫁に行くのでしょう?一人で、カイさんのように出来るようになりたいの。」
「……離れぬよ、サラが嫁に行こうとも、吾はサラのメイドだ。それともサラは、吾を解雇するか?」
「しないわ!!ずっと一緒に居たいもの!!」
「では、共にあろう。ずっと一緒だ。」
「…ほんとに?」
「吾は、サラに嘘をつかぬ。」
「ふふふ!嬉しい!カイさんおやすみなさーい!!」
サラの額にキスをおくる。
「おやすみサラ、良い夢を。」
―――
サラが眠りについた後、外に出て上空まで浮かぶ元魔王。
「…離れぬよ、わが友アーランの願いだ。
違えぬわけにはいかぬ。
アーランよ、お主の娘は、良い子に育っておるぞ……
……吾でなくアーラン夫妻が生きて居れば……いかん、感傷に浸りすぎたな。」
今日も勇者はサラに魔法を教える。
それを元魔王は、少し眩しそうに見守るのであった。