表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/45

勇者、空気になる。


サラの昼食を用意していた時、『目眩しの結界』が破られるのを察知する。

「誰だ?……いや、この気配は……“あやつら”か。」

昼食を作る手を止め、サラに“急遽、来客がある”と伝える。

「お客さん?誰かしら?」

「暴食の魔女と、怠惰の魔女だ。」

キョトンとした顔のサラが、来客の内容を聞いて、パァと嬉しそうな顔に変わる。

「ジュリちゃんおば様に、オレルおじ様がいらしたの?嬉しいのだわ!カイさん、お菓子をたくさん用意してね!」

ふんすふんすと鼻息荒く、吾に要望を伝え、

今にも歌い出しそうなくらい、その場を回ったり、扉を確認したりと、忙しなく動くサラ。

―――その時、ベルが鳴る。

“来たのだわ!”と走り出しそうなサラを制し、扉を開く。すると

「魔王よ!今日こそ、貴様を成敗して―――サラ嬢、そんな悲しそうな顔をしてどうしたんだ?」

肩を落として、目に見てわかる“しょんぼり”が漂うサラ。

思わず少し、笑みがこぼれる。

「もう!カイさん、気づいてたのに、サラになにも言わなかったのね!ヒドイのだわ!」

「ふふ、すまぬ。あまりにも愛らしくてな、つい。……しかし、目当ての人物も、来たみたいだぞ?」

勇者が“何を言っ――”とセリフを言い終わる前に、激しい風に巻き込まれる。

「ヤッホー!カイちゃん、サラちゃん!久しぶり!お元気だった?ジュリはね……お腹空いた!」

白髪に赤い眼、褐色の美女―――暴食の魔女、『ジュリエット』が右手をあげて、屋敷に入る。

「ねぇ、なんでいつも、僕も連れてくるの?…店番しなきゃなんだけど。」

左手には、チョコレートブラウンの髪に、紫の瞳の美女―――怠惰の魔女、『オフィリア』が、右腕を組まれていた。

「ジュリちゃんおば様!オレルおじ様!こんにちは、サラは元気なのだわ!」

「もう!サラちゃんってば、“おば様”は付けないでっていつも言ってるでしょ!」

ジュリエットが地面を蹴り、ふわりと空中に浮かび、サラの顔の前で“怒っている”と一目で分かるポーズをとる。

「ごめんなさいなのだわ、ジュリちゃんおば様!」

ニコニコしながら謝るサラ。

――サラは嬉しすぎて、ジュリエットの話を聞いてないな。

「てか、ジュリエット、なんか吹き飛ばさなかった?」

オフィリアの言葉に、ジュリエットが“え?”と言って、四人で足元を見る。

そこには、気を失っている勇者が倒れていた。

「うわぁぁあ!ごめんなさい!誰だか知らない人!」


この程度で気絶とは…今代の勇者はずいぶん軟弱だな。


「―――オレは、一体…?」

「あっ、気づいたのね!ごめんなさい、屋敷の中に入らずに、お話してるのに気付かなくて、吹き飛ばしちゃった!」

目覚めたらしい勇者に、ジュリエットが謝罪する。

「……勇者であるオレを、簡単に吹き飛ばす…貴方は一体…?」

まだ覚醒しきってない意識の中、ジュリエットの正体を聞き出そうとする勇者。

ふむ、そろそろ、自分の立場を分からせてやらねばならんな。

「勇者よ、目が覚めたのなら、そこから退くといい。いつまでも、夫人の“足”を占領するものではない。」

「足…?退く……?」

すると、ジュリエットが身を屈め、勇者に妖艶な笑みを見せ、小声で話す。

「ねぇ、ジュリの太もも…気持ちいい?」

その言葉に、勇者が飛び退く。

ジュリエットが先程とは違い、子供のような笑顔で“わぁお!元気だね!”と飛び上がる勇者を避ける。

「なん…?どっ…?えぇ……?」

「“なんで、どうして”と混乱する前に、膝を貸したジュリエットに、礼の一つでも言ったらどうだ?」

グッと図星をつかれた顔をして、勇者が口を開く。

「す、すまない……感謝する。」

「ぜーんぜんジュリは、気にしてないからいいよぉ!……それより、よくジュリの突進をくらって気絶だけで済んだね!普通の人ならあばら骨何本か折れちゃうのに!―――君はなに?」

ジュリエットの雰囲気がガラリと変わり、勇者が警戒体制になる。

「ああ、“今代の勇者”だぞ。」

ジュリエットが吾と勇者を交互に見て、

「えっ、ウソォ!こんな弱っちそうなのに!?下級悪魔でも倒せそうな魔力量なのに!?こんっっなに弱っちそうなのに!?」

「二回言うな!!」

“そうだ”の意味を込めて、こくりと頷く。

勇者の顔がみるみるうちに、赤くなっていく。勇者より、やかんの方が性に合ってるのではないかと思う。

「今日のところは見逃してやる、覚えてろよ魔王ー!!」

そう言って、全速力で屋敷から出ていく勇者。


「勇者様、お土産を持たずに行っちゃったのだわ。」

「あらら、言い過ぎちゃったかな?」

「この程度で音を上げるなど、軟弱だな。」

「いや、二人厳しすぎ。……てか、僕帰っていい?」

勇者が居なくなった屋敷で、そんなやり取りだけが残った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ