勇者、元魔王の弱点を探る。
今日こそは!と意気込み、山三座分を越えて、サラ嬢の屋敷に着く。
「勇者様!いらっしゃい!またカイさんに会いにいらしたのね!
でも今は、ご飯の材料を買いに行ってるの。帰ってくるまで、サラとお喋りしましょ!」
魔王が留守だと聞き、思わず肩の力が抜けてしまう。
…もしかしたら、魔王の弱点の手がかりが掴めるかもしれない!
「…そうだな、少し、お邪魔しよう。」
「嬉しい!なんのお話がいいかしら……そうだわ!カイさんに寝る時に聞かせてもらった、昔の魔界のお話なんてどう?」
魔界の内情が分かるだなんて、好都合!!
「是非。」
「うふふ!昔むかしのお話…」
とサラ嬢が話を始める。
一人の悪魔のなり損ないと、一人の巨人族の物語。
最初は、お互いに“いけ好かない”と、いがみ合っていた二人。
時には手を取り合い、時には背中を預け合い、やがて二人は、唯一無二の親友となる。
悪魔のなり損ないはとても身分の高い者へ、巨人族は彼を護る騎士として側に仕えた。
……とある戦争で、巨人族は主であり、唯一無二の親友を守るため命を落とす。
彼に自分の娘を託してーーー。
ガチャりと屋敷の扉が開く。
「今、戻ったぞ。…?勇者よ、来てたのか。……なぜ泣いておる?」
魔王が荷物を抱えて、ふよふよと移動してくる。
「…ッ泣い”で、泣い”でなん”かない”!!ズビッ”」
そうだ!泣いてなんかない!これは、あれだ……汗だ!!
「カイさん、おかえりなさい!昨日寝る時に、聞かせてもらったお話を、勇者様にも聞いてもらってたの!」
「ほう、サラは、読み聞かせの才能もあるのだな。流石だ。」
無邪気な笑顔を魔王に向けるサラ嬢と、うんうんと嬉しそうに頷く魔王。
「くっ!!(ズビッ)失礼する!!魔王よ!!今度こそ成敗してやるからな!!」
涙……いや、汗が零れないように立ち上がる。
「勇者様、食べられなかったおやつを、お土産として包んだのだわ。持っていってらして!」
「サラ嬢、恩に着る。では!」
渡されたお土産を奪うように受け取り、そのまま駆け足で扉に向かう。
くそっ、汗で…汗のせいで前が見えにくい!
「?……騒がしいやつめ。」
自分の家に帰ったあと、“高い身分”ってもしかして、“魔王”のことか!?
確か、魔王の腹心も“巨人族”だったような……
三日ほど、オレは知恵熱を出した。