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魔王、“魔王”を引退する。


「――これで、終わりだッ!!」

はるかむかし、かの勇者は邪悪な魔王を打ち倒し、人の世に平和をもたらしました。


しかし、勇者は知りませんでした。


勇者が最大の攻撃を放ち、その攻撃で魔王が吹き飛ばされた場所は、高くそびえる山などではなく、

“魔王に降りかかる衝撃を少しでも緩和せんと、その巨体を伏せ、身を挺して支えようとする、巨人族の姿”だったのです。


勇者が立ち去ったあと、絶え絶えに巨人族が話しだします。

「…あ、るじ…“あちら”に、て、貴方を、迎える…準備を…して…まいり、ます…」

魔王は、巨人族の傷を塞ぐために、残り少ない魔力を注ぎます。

しかし巨人族は、多くの血を流しすぎていました。

「…もう喋るな、アーラン。」

「さ、きに…“あち、ら”に…いく、ことを…お許、しくださ…。」

「許さぬ!…許さぬぞ、アーラン……娘は…サラはどうするのだ、産まれたばかりの娘だぞ?親のお前が居なくてどうする…!」

「…最期に、親友…として、頼みた、い…

カイサル…どうか、サラの…成長を、見守、て…―――」

「それは、お前の役目だろう、アーラン…?…!!アーラン!返事をしろ!!アーラン!!」

眠るように息絶え、うずくまった巨人族の身体に、流れ出した血や魔力を糧にして、草木が芽を出し始めます。

「…ッ!…吾に、友の亡骸さえも、弔わせてはくれぬのか…」

その時、ひとしずくの雨が、巨人族に茂る草木に零れました。

魔王を身を呈してかばった巨人族は、魔王が討ち取られたと言われる“霊峰ばしょ”になりました。


魔王が巨人族の家を訪ねると、誰かを抱くように息絶えた女性の体から、草花の芽が静かに顔を出していました。

その腕の中には、小さな赤子が、穏やかな寝息を立てています。

「…子を想う母は、強いな。」

魔王はそう言いながら、寝ている赤子をそっと抱えました。

「…奥方も、アーランが眠る地へ葬ってやらねばな…共に眠るがいい。」

魔王がそう呟くと、寝ていた赤子が目を覚まし、

誰かを探すように、キョロキョロ見回したあと、わんわんと泣きだしました。

「よしよし…泣くな、サラ。……いや、今たくさん泣いて、これからは、笑顔が絶えぬ生涯を送るがいい。」

赤子の泣き声が小さくなっていき、黄色と青の瞳が魔王を見つけます。

泣きそうな笑顔の魔王を見て、赤子は“ほにゃり”と笑いました。

「…吾は、お前の親にはなれぬ。しかし、親友に託されたのだ、吾がお前の父母に代わりに、成長を見守ろう。」

こうして、魔王は“魔王”であることを辞め、巨人族の赤子を育てることにしました。


この物語はこれから数百年後のお話。


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