利成君の苛立ち
「フローライト第二十六話」
年の暮れに父から連絡が来て「今年の正月は来れるのか?」と聞かれた。今年は年明けから利成と旅行をすると言ってたら「そうか」とだけ言い、「じゃあ、別な日でいいから一度利成君と来なさい」と言われた。
そしてパリは最高だった。気候は日本と同じで寒かったけれど、利成が連れて行ってくれたのは定番の〇〇〇(観光名所書く)だけでなく、普通の住宅街の街並みや裏道、地元の人が行く店など、通常観光では行かないような場所を案内してくれた。
「何かここにずっといたくなるね」と明希が言ったら利成がすごく嬉しそうに「気に入ってくれて良かった」と言った。
今まで色々あって、こんなにゆっくり二人っきりで利成と旅行ができたのは初めてのことだった。
前の年に翔太と思わぬ再会をして、その後利成が話してくれた翔太のフィルターの話はそれなりにはショックだったけれど、それも知らない異国にいると小さなことのように思えた。
そして日本に戻るとまたいつもの日常に戻る・・・。
「お父さんがね、近いうちに一度利成と来て欲しいって」
一月も後半に入っていたある日の夕食時に明希は利成に言った。
「そう。じゃあ、行こう」と利成が答える。
「利成の行ける日は?」
「んー・・・多分明後日なら行けるかな」
「そう。じゃあ、お父さんに言っておくね」
「うん」
そして夜に久しぶりに利成と実家を訪ねた。二人で明希の実家に来るのはかなり久しぶりなことだった。
「ご無沙汰してます」と利成が父と義理の母に挨拶をした。
「久しぶりだな」と父が少し笑顔を作った。
居間のソファに明希と利成が座り父が向かい側に座った。義理の母がお茶を入れてくれた。
(お父さん、何となく疲れているような・・・?)
明希は久しぶりに見た父を見て思った。
「利成君、忙しいところすまんな」と父は言った。
「いいえ、僕の方こそなかなか顔も出さないですみません」
利成は父の前では「俺」ではなく「僕」と言っている。
「いや・・・」と父がお茶を一口飲んだ。少しお互いに沈黙する。それから父が「利成君に聞きたいんだが・・・」と切り出した。
「はい」と利成が答える。
(何だろう?)と、少し神妙な顔の父を明希は見た。
「まあ、利成君の仕事柄、しょうがないのかもしれないが・・・」
そう言って父がテーブルの下の棚から週刊誌を出した。
(あ・・・)
それは利成の女性遍歴みたいなものが載っていた週刊誌だった。利成は特に表情も変えずにそれをチラッと見た。
「実は、颯斗の嫁が利成君のファンでね・・・」
明希の兄の颯斗は最近結婚したのだ。
「そうですか」と利成が言う。
「こういうのは普段私は読まないし、テレビもそんなに関心もってみないからよく知らなかったんだが・・・」
父はそこでまたお茶を飲んだ。
「二回も子供がダメになって・・・どうなんだろうと思って・・・」
父が語尾を濁した。
「どうなんだろうとは?」と利成が聞いている。
「今後も明希は子供が無理かもしれないし・・・」
父に言われて明希はうつむいた。確かにそうかもしれないと思った。
「利成君は明希とは、今後どうするつもりかと思ってね・・・」
(どうする?)と明希は意味がわからず父の顔を見た
「どうするとは、どういう意味ですか?」と利成が聞く。
「一緒にやっていく気はあるんだろうか?」
(え?)と思う。利成が一瞬沈黙してから言った。
「もちろんありますけど」
「この記事・・・正直親としては複雑な思いでね・・・」
「どの記事ですか?」と利成が言うと、父が週刊誌をめくっている。それから「これ」と言って利成に週刊誌を渡した。
明希が横から週刊誌を見ると、案の定あの利成の女性遍歴だった。
「どうなんだろう?もちろんこういうのが全部ほんとだとは思わないけど、火のないところに煙はたたないともいうだろう・・・」
(あー・・・まあ、そうだけど・・・)と明希は父の顔を見つめた。
「・・・そうですね・・・お父さんは僕にどうして欲しいと思われますか?」
(やっぱり得意の逆質問?)と明希は利成の横顔をチラッと見た。
「・・・もし、こういうのが本当なら明希があまり傷つかないうちに何とか考えてもらえないかと思ってね」
「考えるとは?例えばどういうことでしょう?」
「・・・こういう遊びが今後も続くなら明希を解放してやってくれないか?」
(え?)
「ちょっとお父さん。それは私の問題だから」と思わず明希は言った。
「お前は昔から言いたいことも言えずに我慢してるだろう?こういうのも全部飲み込んで我慢してるんじゃないのか?」と父が言ったので明希は驚いた。
(お父さん・・・)
父は明希のことを見ていないようでいて見ていたのだろうか?明希は父の口から初めてそんな言葉を聞いた。
「我慢は昔のことだよ。今は違うから」と明希は答えた。
「そうか?それならいいけどな」と父が言った。
「お父さん、僕は明希と別れる気もないですし、こういう記事は基本的に全部嘘だと思ってくれませんか?」と利成が言った。
「・・・それならいいが・・・」と父はどことなく思わせぶりな口調だった。それから「私もだんだん歳を取ってきたらわりと心配性になってな・・・」と続けた。
結局その後は話がうやむやになった。父がどう思うとこれは夫婦の問題だった。帰り際父が「明希、身体気をつけろよ」と言った。明希は「うん、わかった」と答えた。
「利成君、明希を頼むな」と父が最後に玄関先で言った。
「もちろんです」と最後に利成が笑顔で父に答えていた。
「もう、お父さんったら呼び出すから何かと思ったら、お姉さんに何か言われたのかな」
帰りの車の中で明希は言った。
「さあ・・・」と利成は特に表情も変えない。
(あの週刊誌・・・私はネットで見たけど・・・)
あれを見た時はしばらく立ち直れなかったけれど、特に利成を問い詰めたりはしていない。そんなことをしても意味がないと思ったからだ。どこからどこまでが本当でどこからどこまでが嘘なのかなんて利成しかわからないし、多分、利成は本当のことを言う気はないだろう。それにそれを知ったところで明希も利成と別れようとは思えなかった。それは利成自身が明希とは別れる気など毛頭ないということを知っていたからだ。
(だけど・・・ああ、やっぱり・・・)
悶絶しちゃう・・・と、あの週刊誌を蒸し返されてちょっと落ち込む。
利成は車を運転しながら終始無言だった。マンションの部屋に戻るとソファに座って「明希、煙草ある?」と言った。
「煙草?あるけど・・・」とキッチンの引き出しから煙草と灰皿を持って利成の座っているソファの前のテーブルに置いた。
「あ、ライターいるね」と明希はもう一度キッチンに戻ってライターを持って来た。利成は普段は煙草を吸わないが、本当にたまに吸う。その時の為に煙草は常備してあった。
利成が煙草をくわえて火をつけている。
(何だか不機嫌そうだな・・・)
明希は立ち上がってダイニングテーブルの方の椅子に座ってパソコンを開いた。利成に来ている色んなメールもチェックするのも明希の仕事だった。
「明希」とメールをチェックしていると呼ばれた。
「ん?」とパソコンから目を離さず言ったら「こっちきて」と言われた。明希が顔を上げて利成の方を見ると「早く」と言われる。
「何?」と利成の隣に座ったらいきなり唇を押しつけてくるようにキスをしてきた。煙草の味が明希の口の中に広がる。利成はまだ煙草を持ったままだ。
「利成、煙草、危ないから置いて」
唇が離れると明希は言った。利成は煙草を灰皿に押し付けるとまた明希に唇を重ねてきた。
(・・・?)
酔ってるわけでもないのに何だろうと思う。舌を押しこまれてしつこく口づけてくる利成。
「週刊誌を叩きつけられるとはね」と唇を離すと利成が言った。
「・・・・・・」
「明希は聞かないんだね?本当かどうかって」
「・・・あれは嘘でしょう?」と明希はわざと言った。
「そうだね」
「じゃあ、聞く必要ないと思って・・・」
「そうか・・・明希のお父さんを悪く言って申し訳ないけど、ああいうやりかたされるとちょっと苛ついたよ」
(あ・・・)と思った。どうやら利成は相当苛ついているようだった。利成はこういうことを少しの苛つきだけではけして口に出さない。
「ごめんね」と明希は謝ると、利成が「何で明希が謝るの?」と言った。
「自分の父が変なこと言ったから」
「明希が謝ることないよ」
「でも・・・」
「明希、俺は明希だけなんだから」と利成がまた口づけてきた。
(んー・・・それはちょっと無理があるんじゃ・・・)と口づけられながら思う。
唇が離れた時に立ち上がろうとしたら、利成に腕を引っ張られた。それから明希の耳の辺りを舌でなぞってからなめまわしてきた。ベッド以外ではされたことがなかったので、少し驚いて明希は言った。
「利成、どうしたの?」
「ん・・・」と更に利成の舌が明希の首筋をたどる。
ソファの上に座ったままの明希の身体を利成がたどり、スカートの中に手を入れられて履いていたタイツと下着を脱がされた。
「利成?ちょっと・・・」と明希は明かりの下で恥ずかしくなる。それにこんな風にベッド以外で利成が求めてくることは初めてかもしれない。
利成の舌が明希の敏感な部分を刺激してくる。指も入れられてソファを汚してしまいそうだった。
「利成・・・・・・汚れちゃう・・・」
「いいよ」と利成が明希の顔を見つめながら指を動かしてくる。
(もう・・・恥ずかし・・・)
明希が顔を隠すと利成がその手をよけた。
「明希の顔見せて」
そういいながら指を動かして来る利成。明希はだんだん耐えられなくなってきた。
(あ・・・もう・・・)
「ダメ・・・」と利成の手を押さえると、利成がその手をよけてくる。
「このへん、いいでしょ?」と利成に言われてだんだんじっとしていられなくなって身体をよじった。
(利成って・・・こんなだったの?)
「あ・・・」と声が出て明希はまた利成の手を押さえた。
「もう・・・」と言ったら利成が指が更に奥に入ってきて「あっ」と利成の腕を押さえたまま明希はイってしまった。
ビクビクとけいれんしている間に利成が舌をはわしてきて、明希は「あ、ダメ・・・」と身体をよじったら両足を持ち上げられてズボンと下着をおろした利成が明希の中に入ってきた。
ソファの上で、利成が思いっきり突いてくる。明かりの下だし恥ずかしくてそばにあったクッションに手をのばして明希は顔を隠した。
奥まで何度も突かれて明希はまただんだんイキそうになってくる。
「あ・・・もう・・・ダメ・・・」と思わず声を出すと、利成が余計に奥を突いてきた。
「あっ」とまたイってしまった。それから利成もそのまま明希の中に果てた。
「・・・もう・・・汚れちゃった・・・」
明希が言うと「明希、だんだんいい感じになってくるね」と利成が嬉しそうに言った。
「もう・・・」
だんだん過激になってくるんですけど・・・。と利成の顔を見た。
「何?」
「・・・何でもない」
「明希、ほんと最近色っぽいよ」
「・・・・・・」
(あー・・・まあ、いいか)とすっかり機嫌の直った様子の利成を見て思う。
とりあえず利成のあの女性リストは心の奥底に沈めておこうか・・・。




