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短編 A氏の苦悩

作者: 矢野たつ

A氏は悩んでいた。

不動産が多い街に住んでいるからだ。

最近街で流行っているのは、空中建築。

何もない場所に建物を建てられるというのだから、大都市に集中しようというもの。

アパートの上にマンションが、マンションの上にタワマンが、タワマンの上にタワマンが。

そのうち成層圏に突入するのではと思う勢いだが、上部は本当に酸欠らしい。おおこわ。

バカとなんちゃらは高いところが好きとはいうが、ここまで高くなると、流石にバカもなんちゃらも嫌がり始める。それでも住むのは本物の貧乏人か、アホのどちらかだ。


このままでは街が崩壊する、日陰やインフラやらめちゃくちゃになる、とやっと危惧した総理が規制をかけたがもう遅い。

なんせ建築なんて、プレハブみたいなお家を、工場でポコポコつくってから置くだけなのだから。マインクラフトよりもずっと早い。規制がかかるや否や、最後っ屁の如く建築ラッシュが始まり、あふれる住居、押し寄せる居住希望者。


そして日本の主要都市・・・特に特にひどいのは東京(美しい街の光景などはもはや見る影もない、建屋のジャングルである)

美しい日本のうん大都市というのは、もはや夢物語。建築制限をさっさとかけた京都だけはややマシかもしれない。大阪の雰囲気だけは前と大きくは変わらない気がするが。もともと騒がしい上に、ネオンの光が目にうるさいため、夜になると、都会の昼間よりもずっと明るい。


かくいう私は東京の一角に私は住んでいる。

一角、と行っても、恐ろしいことにドブ川の真上である。

私は時折玄関から小便などしてみるが、真上の住人の目線が気になり気持ちは晴れない。小便したのにすっきりしない。どこを歩いても日陰、日陰。

ああ太陽が恋しい。

田舎にでも引っ越そうか、と悩むが、田舎に住むにも「日照権」「上空権」を確保するためにはなんせ金がいる。

線路沿いでなく、駅チカで、静かで、太陽もあって、ビル風ではない爽やかな木々の風・・・と望むなら、宝くじを当てて秋田にでも住むしかない


川から海へ、ゆっくり流れ行く小便の運命を想う。そのときひらめきが走る。

そうだ、私もいっそ海に出てしまえばいいのでは?


空中建設の妙技。

私は急いで古いイカダを購入し、その上に、プレハブ小屋を置いた。

そして私は小屋の日陰に当たりながら、オールを漕いでゆっくりと大海へと旅立つ。

もう日本が見えなくなるほど、太平洋側に漕ぎ出し、しっとりと汗をかいて疲れた頃、私はプレハブ小屋へ上がって眠った。

何年ぶりの日向ぼっこ。何年ぶりの海風。何年ぶりの、何年ぶりの。


カヌーは放っておいても海を進み、私はゆっくりとアテもなく進む。いや、アテもなく遭難した。

そのうちGPS以外は電波もヘチマも届かない大海へと進み、一生日本には戻れないかと思った。しかし私にはさらなる妙案があった。これでちょいと進路を変えてやろう。


私は、海の上に小さなおもちゃの小屋を建てた。いや、置いた。

そしてその家を、くるりと回す。

そして


せ      

か    

い は ま わ る ぐ る り と


海は、空に向かって流れ行く。

あぁ、地上の人たちは。空中に住む人々は?


天は地に。

地は天に。


すべてが逆転してしまった。


私がおもちゃの家ごと、

勢い余って、地球を回転させてしまった。



A氏は悩んでいた。


しかし、もう遅い。

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