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霊感令嬢はゴーストの導きで真相を究明する  作者: 弍口 いく
第2章 ヴィオレット

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最終話

 クリスと私の正式な婚約は、アルフォンス国王陛下から発表してしてくださった。

 そのためのパーティーなので驚きの声は上がらなかったが、内心は、私の方が、とか、うちの娘の方が相応しいのに、と思っている高位貴族もいるんだろうなと思う。


 その後は、クリス曰く、貼り付けたような笑みの人々が挨拶に来た。クリスの笑みも威圧的で十分不気味だったわよ。

 私と言えば、愛想笑いは出来たと思うが、無理をして表情筋が引きつりそうだった。私って自分で思っている以上に小心者だったと実感した。


「未来の王妃はもっと堂々としてなさいよ」

 いつの間にか横にいたクローディアが耳元で言った。

「そう言われても」


「ほら、あの方の娘でしょ」

 ほろ酔いながら談笑しているお父様イーストウッド辺境伯は、国王陛下より堂々としていた。控室で久しぶりに会った時は号泣していたくせに。


「まあ、あなたならすぐに慣れるとは思うけど」

「もっとしっかりしなきゃね、オドオドしていたらバカにされるものね」


「それは大丈夫よ、クリスが誰にもそんなこと言わせないわ、今回だってあなたに嫌がらせをしていた令嬢たちの家は招待しなかったんでしょ」

「そのようね」

「残酷なことをするものね」


「私もちょっとやり過ぎかと思ったけど」

「ちょっとどころじゃないわよ、王家に不要だと言われたも同然なのよ、今後、信頼を取り戻すのに相当な労力と時間が必要になるわ。財力のない家は没落するでしょうね」


「そんなに大ごとなの?」

「あなたに嫌がらせをしたり、濡れ衣をきせようとしたり、妙な噂を流した令嬢方は領地へ帰されたと思うわよ、良縁も望めないでしょうね、娘のバカな言動が家に危機を及ぼしたんだから自業自得だけどね」


「私だってあのままクリスに執着していたら、どんな目に遭わされていたことか、やはり引き際が肝心よね」

 それはお叱りを受けたからよね、いいお父様をお持ちになったわね。


「でもそんなことして、遺恨を残さないか心配だわ」

「甘く見ないで、彼は化け狐よ」

「誰が化け狐だって?」


 私とディアの間にクリスが割り込んだ。

「狸令嬢に言われたくないな」

「まあ、酷い!」


 狐と狸に挟まれて、その日の私は世界一の幸せ者だった。





――エピローグ――


 アンドレイ・プージュリーは本棚を見つめていた。


 ジョセフィーヌが息を引き取ってから一ヵ月、事故から一度も意識を取り戻さず、眠るように逝った彼女の死に顔が脳裏から離れない。訓練で剣を振っている時だけは頭を空っぽにできたが、それ以外は隙あらば彼女との思い出が甦る。他のことで頭を埋め尽くさなければ、とアンドレイは図書室で夢中になれるような本を捜していた。


「なにを探しているんだい?」

 声をかけられてビクッと振り向くと、王太子のクリストファが立っていた。


「殿下」

 クリストファは放課後、王太子妃教育のために王宮へ行くドリスメイとここで待ち合わせしている。今日はクリストファの方が先に着いたようだ。


「脳筋では騎士は務まりませんからね、兵法も学ぼうかと」

「それならこの本が参考になるよ」

 クリストファは棚から一冊分厚い本を抜き出した。


「ありがとうございます」

「騎士を目指しているのか」

「ええ、俺が騎士になることを応援してくれる子がいたんです。その姿を見てもらうことが出来なくなって残念ですが……」


「その子とは、先日亡くなられた……」

 ヴィオレットの名が浮かんだが、同時にもう一人も浮かんだ。


「ええ、ジョセフィーヌ・ニールセンとは親戚で、兄妹のように育ちました」

 ジョセフィーヌの方か、そう言えばジョセフィーヌの葬儀には参列していたが、ヴィオレットの方は姿がなかったことを思い出した。ドパルデュー家の現状を考えれば当然だろうが、アンドレイを慕っていたヴィオレットが不憫だ。


「もしかして、ジョセフィーヌ嬢とはただの親戚以上の付き合いだったのか?」

「ええ、彼女を愛していました」

 ドリスから聞いていた話では、アンドレイには想い人がいるが、ジョセフィーヌはそれが誰か知らなかった。


「幼い頃から妹のように可愛がっていましたが、最近、女性として愛していると気付いたんです。彼女も俺に気持ちをわかってくれていたと思うのですが、面倒な事情があって、それがクリアになればちゃんと告白するつもりでした」


 ジョセフィーヌは気付いていなかった、想い人が自分だとは考えもしなかったのだ。二人は相思相愛だったのに気持ちを伝えあうことはもうない。


〝悲劇だな〟

 ドリスの耳に入れないほうがいいとクリストファは思った。


 クリストファはかける言葉が浮かばず、無言で彼の肩を掴んだ。

 〝わかってくれているはず〟は間違いだ。ちゃんと言葉にしなければ伝わらないことは、クリストファは身に染みている。ドリスメイは全然気付いていなかったし。


 ちょうどその時、入室したドリスメイの姿を見つけた。

「じゃあ、僕はこれで」

 クリストファはドリスメイと共に図書室を後にした。



   *   *   *



「さっきの方、アンドレイ様ですよね」

「ああ、脳筋では騎士は務まらないから勉強するんだって」

「騎士か、ジョセフィーヌが言っていたとおりね、彼、ちゃんと想い人に告白できたかしら」

「どうだろうね、そこまでは聞けないよ、他人が立ち入る話ではないだろ」

「そうね」


 向かい合って座っていたクリストファは、ドリスメイの横に移動した。そして、彼女の耳元で、

「愛してるよ」

 優しく囁いた。


 とたんドリスメイの顔は真っ赤になる。初めての告白ではないが、

「どうしたの、急に」

「急にじゃないよ、いつも想ってる、愛してるよ、言葉に出来る時にちゃんと言っておきたくて」

 言葉にしなくてもわかってくれているなんて思うのは自惚れだ。


「変なクリス、私も、あ、愛してるわよ」

 照れて言いあぐねながら尻すぼみになる。

 クリスはそんな彼女の頭を愛おしそうに撫でながら、

「で、いつ王太子妃の部屋に引っ越してくるんだ?」

「それは学園を卒業して結婚してからってお父様が」


「まだ二年もあるよ」

「たった二年じゃない、その先、二十年も三十年もずっと一緒なのに」

 ドリスメイはクリストファに甘えるようにもたれかかった。


「ずっと……」

 その言葉はクリストファの心にスーッと染みた。

「そう、ずっと傍にいるわ」


   おしまい


最後まで読んでいただきありがとうございました。そして評価、応援、ブックマークなど、とても励みになります。重ねてありがとうございます。

完結詐欺じゃありませんが、また新しいエピソードを書きたくなったら復活するかも知れません。その時はまた読みに来ていただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
一気読みさせていただきました。 きっとこれからも二人は二人三脚でいろいろな事件を解決していくんでしょうね。 あっちの友好国とかそっちの微妙な関係の国とかで。 楽しい物語をありがとうございました。 それ…
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