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霊感令嬢はゴーストの導きで真相を究明する  作者: 弍口 いく
第2章 ヴィオレット

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その23

 ジョセフィーヌは眠るように息を引き取っていたそうだ。

 葬儀には多くの友人知人が参列して彼女の死を悼んだ。


 その翌日、ヴィオレットの葬儀が身内だけでひっそりと執り行われた。投獄中のドパルデュー元公爵は逃亡の恐れありと参列を許されなかった。


 あの日、王妃の花園で突然倒れて息を引き取ったヴィオレットの死因も、馬車の事故で追った頭部の傷が原因とされた。検死官がそう発表してくれなければ、私が〝黒魔術で呪い殺した〟なんて言われかねなかった。


 私とクリスは少し離れたところからヴィオレットの棺が埋葬されるのを見守っていた。


「王太子殿下が来てくださるなんて、姉も喜んでいるでしょう」

 私たちの姿を見つけたアンジェリカが声をかけてきた。

「こんなことになるなんて、思いもしなかったんです。ちょっと脅かすだけのつもりだったのに、それがあんな大事故に」


「なんの話?」

 唐突な話に、私は眉をひそめた。そして、突然声を出した私に、クリスは顔をしかめた。

「誰かいるのか?」

 そう、クリスには見えていない、アンジェリカはゴーストになっていた。


「アンジェリカがいるの」

「えっ? なぜ妹が」

 驚くのも無理はない、本来なら母親の横で埋葬を見送っているはずなのに、欠席しているだけではなく、亡くなっているなんて。


 私たちの困惑をよそに、アンジェリカは宙を見ながら独り言のように話しを続けた。


「あの日、お姉様が出かける直前、馬に興奮剤を与えたのです。意地悪な姉がちょっと怖い目に遭えばいいと思っただけなのに、思わぬ大事故になってしまって……。御者と馬番は解雇されて、馬は殺処分された、その上、ジョセフィーヌ様とお姉様、二人も亡くなってしまうなんて」

 あの事故はただの不運な事故ではなかったのね。


「それであなたは責任を感じて」

「死をもってしか償えないから……」

 罪の意識に耐えかねて自ら命を断ったのね。


 アンジェリカの身体がぼんやりと光に代わる。

「待って、あなたはどこにいるの!?」


 しかし私の問いに答えることなく、彼女の光は空に舞い上がった。


 事故は偶然じゃなかった。

 ヴィオレットが無意識に蒔いてしまった種により起きた事件・・だった。ジョセフィーヌは巻き添えを食ったのだ。

 そして、ジョセフィーヌの魂がヴィオレットの死体に入ってしまうという奇妙な現象が起こり、さらにややこしい事態に陥ってしまった。


 アンジェリカにはそこまで理解が追い付いていないだろうが、亡くなったのは二人ではない。

 私を狙った襲撃で、シータと護衛騎士三名が命を落としたし、襲撃犯八人も斬り捨てられた。


 そして、自分の家、ドパルデュー公爵家を没落へと導いてしまったのだ。すべてが繋がっていた。


 しかし、その前提には、アンジェリカを追い詰めたヴィオレットのあの性格が起因していたのだ。



   *   *   *



 あれから数週間経ったが、アンジェリカの遺体はみつかっていない。元ドパルデュー公爵夫人は失踪届を出して、一人で親戚の元へ発った。


「なんだかやるせない、最後までなぜ魂の入れ替わりなんてことが起きたのか、真相は究明できないままだったし、消化不良だわ」

「そんな顔するなよ、今日の主役は君なんだから」


 私はクリスにエスコートされて、大広間へと向かう通路を歩いていた。

 広間には国中の貴族だけでなく、近隣国からの来賓の姿もあるだろう。

 今日はルルーシュ王国王太子の婚約発表パーティーだから。


 それにしても婚約発表にしては大袈裟すぎる気もするんだけど、いつの間にこんな大規模なパーティーが計画されていたのか、数日で準備が整う規模ではない、どうやら私には内緒にされていたようだ。


 イーストウッド領地から、父と長兄、次兄も駆け付けてくれた。三人とも不在にして領地は大丈夫なのだろうか?


「どうした? いつもの君らしくないじゃないか」

「緊張してるに決まってるでしょ」

「大丈夫、僕がついてる」


 クリスの傍にいたい、いると決めた。しかし、私が彼の横に相応しい人間かどうかは別だ。


「心配いらないよ、君に意地悪する奴らは排除したから」

「えっ?」

「調べは付いているから、その家には招待状を送っていない」

「それは……」


 あまりの仕打ちだ、これだけの規模で大勢の貴族が集まる中、招待されないと言う屈辱はいか程のものか、お仕置きにしては残酷な仕打ちをサラッとやってのけるクリスと言う人は……。


「君の憂いは僕が取り除くから、安心して僕の隣にいて」

 でも、私に向けてくれる優しい笑みは本物だ。


「ただし、いくら僕でも見えないモノとは戦えないから、出来るなら不用意に近づかないでほしいな」

 シータも同じことを言ったわ、でも彼女の名前を口にすると、涙がこみ上げるので、私はただコクッと頷いた。


 広間の扉が開かれ、拍手と歓声に包まれながら、私たちは会場入りした。


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