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霊感令嬢はゴーストの導きで真相を究明する  作者: 弍口 いく
第2章 ヴィオレット

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その21

 翌日、再びシュザンヌ離宮に捜索が入り、横領の証拠書類が多数発見された。


「ドパルデュー公爵は本来優秀な人物なんだよ、かつて宰相候補になったくらいだからね。領地経営も順調で利益も上がっていたし安泰だった。娘を王太子妃にするためにシュザンヌ様の亡霊を担ぎ出さなければ、横領が発覚することもなかったのに、バカなことをしたものだ」


「なぜそこまでしてヴィオレットを王太子妃にしたかったのかしら」

「権力だろうね、父親のように権力を手にしたかったんだろうな」

「王太子妃の父親って、それ程の権力を手に入れられるモノなの?」

「王族の後ろ盾があれば信用は申し分ないし事業もし易くなるだろう、立ち回り次第で利権を得ることが出来るだろうな、でも僕を甘く見過ぎているよ、僕が勝手を許すはずないのに」


 ドパルデュー公爵はクリスが切れ者だと知らなかったのかしら?

「あ、今、僕のことを腹黒だと思ったろ」

「えっ、そんなことは……ちょっと思ったかも」


「ドリスみたいに裏表なしじゃ国は治められないよ」

「と言うことはアルフォンス陛下も?」

「ああ、僕以上に真っ黒だよ、それに母上だって」

「えー、あんなに優しそうなのに」

 王族、怖っ!


「ヴィオレットの正体はまだわからないけど、彼女の行動が変わったことで、父親に野心が芽生えたんだろうな。それまでは僕に、王太子妃の座に興味を示さず、親の思い通りに動かなかった彼女がいきなり変わっただろ、それで欲が出たんじゃないかな、大人しくしていればシュザンヌ様の件も露見しなかったのに」


「ドパルデュー公爵家はどうなるの?」

「裁判はこれからだけど、有罪となれば王家を謀った罪は重い、爵位はく奪の上、領地も召し上げられるだろうな」

「ヴィオレット様やアンジェリカ様は?」


「ベルモンド家と違い、家族は全く関与していなかったから罪に問われることはないけど、親戚筋に身を寄せるとしても、この先、辛い生活を強いられるだろうな」


 王都から離れるとしたら、もうゴーストのヴィオレットとも会えなくなるだろう。真相を究明できずに終わるなんて、消化不良もいいとこだけど、ゴーストのヴィオレットもあきらめて成仏してくれることを祈るわ。


 ドパルデュー公爵が逮捕されたことで、私はようやくイーストウッド別邸へ帰ることを許された。



   *   *   *



 翌日は学園に登校した。

 するとさっそく、

「ドリスメイ様! 大変な目に遭われたのですね、もう大丈夫なのですか!?」

 ゴーストのヴィオレットが飛びついてきた。


 えっ? どうして?

 ドパルデュー公爵家は今、大変なことになっているはず、生身のヴィオレットが登校しているはずないし、ゴーストのヴィオレットにはもう会えないと思っていたのに。


「ずっとアンジェリカに付いててあげたの、あの子が誤解していたのはショックだったけど、まだ子供だから私の真心が理解できないのもしょうがないわ、もう少し大人になって振り返れば、ああ、あの時の姉上は本当に私のことを思っていてくれたんだってわかってくれるはずだわ」

 どこまでもポジティブな人だ、それも才能かしら。


「私が身体を取り戻せたら、直接、噛み砕いて説明してあげるのに、悔しいわ、偽ヴィオはアンジェリカには無関心だし、ほんとなに考えているのかわからない」


「お父様だってそう、あんな偽物のシュザンヌ様に騙されるなんてお父様らしくないわ、私はすぐに偽物だとわかったわよ、だって所作が生まれつきの貴族じゃないのは一目瞭然なのに」


 ゴーストのヴィオレットは父親が騙されていたと信じているようだ。悲壮感がないのは、裁判で無実が証明されると思っているからだろう。でも、そこはちゃんと訂正しておかなければならない。


 私はゴーストのヴィオレットと話をするために、王妃の花園へ行った。





 しかしそこには先客がいた。


「ヴィオレット様?」

 ゴーストのヴィオレットが言うところの偽ヴィオだった。


「どうしてここへ? あなたの家、大変なことになっているのではなくて?」

「ええ、だからお別れに来たのです、私は母方の親戚を頼ることにしましたから王都を離れます、二度と戻ることはないでしょう。だから最後に王妃の花園を見ておきたかったのです」


「王都を離れる? あなたが」

「仕方ないでしょう、ドパルデュー公爵家はもうお終いですわ」

「そういう意味じゃなくて、他人の身体に入ったまま、自分の身体から離れるのかと」


「なにを言っているの?」

 ヴィオレットは驚きの目を向けた。

「ここで王妃様とお話したのはジョセフィーヌ様だったわ、ヴィオレットじゃない」


 ゴーストのヴィオレットがそこにいるのはわかっていた。出来るなら聞かせたくない話だが、これを知らなければ、死んだはずの自分の身体が生きて動いている謎を解き明かせない。


「あなたはヴィオレットの姿をしているけど、ジョセフィーヌ様なんでしょ?」

「バカなこと言わないで!」

「ヴィオレットとはたくさん話をしたのよ」

 ゴーストのヴィオレットだけど。

「別人だと気付かないはずないのよ、むしろ、家族が気付いていないのが不思議なくらい」


「そんなこと、ありえないでしょ」

「そう、ありえないから戸惑っているのよ、なぜこんなことになっているのか、本当のヴィオレットの魂はどうなっているのか」


「私がここにいることは言わないで」

 ゴーストのヴィオレットがすかさず言った。

「信じ難いけど、あなたが言うように中身がジョセフィーヌなら、なぜ私の意に反することをしたのか、本当のことを知りたいの、私の前では言いにくいでしょ」


 真実は知らないほうがいいかも知れないけど……。


 偽ヴィオは一つ息をついてから観念したように、

「あなたとヴィオレットが親しかったなんて、知りませんでしたわ」

「認めるのね、あなたはジョセフィーヌ様だと」


 偽ヴィオ、基ジョセフィーヌは首をうなだれた。

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