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霊感令嬢はゴーストの導きで真相を究明する  作者: 弍口 いく
第2章 ヴィオレット

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その18

 クリスに抱かれ馬車で運ばれたシータは、最期に二人きりで過ごせて安らかに逝けたのだろうか。


 馬で飛ばして帰った私はクリスたちの馬車より早く王宮に到着した。そしてなぜか用意されていたサイズピッタリのドレスに着替えさせられて、クリスたちを待った。


 シータの遺体は他の犠牲者と共に宮廷内の礼拝堂に安置された。それを聞いて礼拝堂に行くと、棺の前にクリスが膝をついていた。シータのゴーストはもういなかった。他のゴーストの姿もない。みんな迷うことなく天に召されたのだろう。


 私は静かに歩み寄り、棺に横たわるシータを見おろした。

「アデレイド、それがシータの本名だ、墓標にはそう刻もう」

 私に気付いたクリスが言った。

「綺麗な名前ね」


「奴隷の闇市で見つけた時は十一歳だった、奴隷制度は遠くに禁止されているけど、闇では今もまだ横行している。僕より一つ年下の女の子が、痩せこけた汚い姿で動物のように檻に入れられていたんだ」


「殿下に拾われなければとっくになかった命って、そう言うことだったのね」

 シータは私と同い年だったんだ。それを知るとまた涙が滲んできた。


「保護された彼女は僕の役に立ちたいと望んで影になった。たった二年の訓練で任務に着けるほどシータは優秀だったよ、それからずっと僕の傍にいた」

「そんな彼女を私の護衛に付けてくれたのね」


「最も信頼できる影だったからね」

 本当はクリスの傍にいたかったに違いない。

「また泣いてる、君のせいじゃないって言ってるのに」


「これはクリスの分よ、あなたが泣かないから代わりに泣いてあげてるのよ」

 そんなバカげた言葉にクリスは優しい笑みを浮かべてくれた。


「でも、もし君がここに横たわることになっていたら、僕は……」

「シータのお陰よ」

「本当にそうだな、感謝してもしきれない」


 クリスが近衛騎士を引き連れて駆け付けてくれるのが、もう少し遅かったら、私もどうなっていたかわからない。それを思うと、今更ながら体が震えた。


「シュザンヌ様が偽物なのはわかっていたし、正体を見極められないかと思って面会することにしたんだ。でも、偽シュザンヌ様以上に、ドパルデュー公爵の様子に違和感があった。僕が疑っていることを見抜かれて警戒しているのかとも思ったが、危険を冒して僕を足止めしたのには理由があるんじゃないかと気付いたんだ。だからすぐに君を追いかけた、まさか市街地で襲うとは思わなかった、護衛も油断したてただろうな」


 クリスは立ち上がり私を強く抱きしめた。

「ほんと、間に合ってよかった」

 犠牲になったシータの前でそれを言われると、とても複雑だ。


「君を亡き者にすれば、ヴィオレットが選ばれると本気で思ったんだろうか、浅はかにもほどがある。かつてオニール公爵と宰相の差を争った人物とは思えない愚行だ」

 私を抱きしめるクリスの身体は怒りに震えていた。


「捕らえた者たちは下っ端で、依頼主を知らないようだが、犯人はドパルデューに間違いない、必ず暴いてみせる」


 その時、私は気配に気付いてハッと顔を上げた。クリスもほぼ同時にそちらに視線を向けた。

「相変わらず、気配のない方だ」

 訓練を受けているクリスが、こんなに接近されるまで気付かなかったその人は、真っ白なローブを纏った神官だった。


「命を落とされた方がいらっしゃると聞き、祈りを捧げに参りました」

私が持っている神官のイメージって、白髪のお爺さんだったが、彼はまだ二十代前半に見える。蝋燭の灯りに照らされた彼の顔は神秘的な美しさを湛えていた。


「彼は神官のユリウスだ、彼女がイーストウッド辺境伯の娘ドリスメイだよ」

「おや、目が真っ赤ですね、この方たちのために涙を流してくださったのですね、お優しいお嬢様だ」

「そうだろ」

 全然違うのに、私のせいで多くの犠牲が出たことが悔しくて、情けなくて……。


「ユリウスの邪魔になるから僕たちは引き上げよう、明日はシュザンヌ離宮にも捜査が入るだろうし、朝から忙しくなるよ」

「クリスも立ち会うの?」

「ああ、でも君は留守番だよ」


「えー、私も行きたい」

 シュザンヌ様のゴーストが心配だわ、大勢で詰めかけたら混乱されるだろうし、悪霊化したらクリスが危険だわ。


「ユリウスに立ち会ってもらうよ」

 私の危惧を察したのか、クリスがユリウス様に目を向けた。

「私ですか?」

 唐突な申し出に、彼は驚いたようだ。


「ああ、シュザンヌ様は亡くなったのにそれを隠ぺいされて弔われていない。だから魂がちゃんとあの世に旅立たれるよう君に祈りを捧げてもらいたい」

「そういうことでしたら、ご同行させていただきましょう」

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