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その12

「お見舞いに来てくださったのよ」

 ニールセン伯爵夫人が私たちをジョセフィーヌ様の部屋に招き入れると、

「そうですか、どうぞおかけください、オニール公爵家のクローディア様、イーストウッド辺境伯家のドリスメイ様」

 アンドレイ様は抑揚のない口調ながら私たちに椅子をすすめてくれた。


「私たちのことを御存じなのですね」

 ディアは猫かぶりの天使スマイルを浮かべた。

「もちろんです、お二方とも有名人ですからね」


 私は座るより前にベッドへ歩み寄り、ジョセフィーヌの状態を見た。スヤスヤと眠っているように見えるが頬はこけてかなり衰弱していた。それに、なにか違和感を覚えた。


「ずっとこの状態なのですか?」

「ええ、事故から十日、外傷はたいしたことなかったのですが、意識だけが戻らなくて」

 アンドレイは辛そうにジョセフィーヌを見おろした。


 早く目を覚まして、元気になったらまた王妃様の花園へご一緒したいわ。


「俺はお先に失礼します」

 私たちに気を遣ったのだろう、アンドレイは軽く会釈してさっさと退室した。


 アンドレイと入れ違いにメイドがお茶を運んできたので、私たちは室内の小さなテーブルセットに着いた。


「アンドレイは責任を感じているのです」

 ニールセン伯爵夫人はボソッと漏らした。彼女がなにか言いたそうだったので、私はその言葉を拾った。

「責任? 事故はドパルデュー公爵家の馬車が起こしたんですよね」


「ええ、ヴィオレット嬢の買物に付き合わされて行く道中での事故でした。そのヴィオレット嬢をジョセフィーヌに紹介したのがアンドレイだったので、二人を引き合わせたことを後悔しているのです」

 付き合わされてと言う言葉のチョイスが引っかかった。


「でも事故は予見できなかったでしょうし」

 話が読めないディアは眉をひそめた。


「そもそも、ジョセフィーヌは買物など行きたくなかったのですよ、うちのような裕福でない伯爵家では手の届かない高級店ばかり、娘はいつも嫌がっていましたが、気が弱いからハッキリ断れなく、無理やり付き合わされていたのです」

 ジョセフィーヌとヴィオレットは親友ではなかったの? ここでも食い違いが発生している。


「まあ、仲がよさそうに見えましたのに」

 初耳のディアは少し驚いた様子、確かにお茶会で見かけたときは一緒にいたし、仲がよさそうだった。少なくともヴィオレットはそう思っていたはずだ。


「とんでもない、ヴィオレット嬢は娘を侍女くらいにしか思っていなかったでしょう、その証拠に見舞にもいらっしゃいませんし」

 きっと夫人は理不尽な状況を誰かにぶちまけたくてウズウズしていたのだろう。


「妹君のアンジェリカ嬢が一度来てくださいましたが、ヴィオレット嬢は一度たりとも……公爵家から治療費と見舞金は届きましたよ、でも代理の方でした」


「そんな誠意のない対応だったのですか、信じられません」

 ディアの怒り具合、明日には学園中に広まるんだろうな、ドパルデュー公爵家の不誠実な行いと、ヴィオレット嬢の薄情さが……。ニールセン伯爵夫人はそれを狙っているのか?


「アンドレイも辛い立場なのですのよ、ドパルデュー公爵家とプージュリー伯爵家は領地が隣同士で昔から懇意にしていて、婚約の話も出ていたのですが、保留になったままで、身動きが取れなくなっているのです」


「それは変ですね、ヴィオレット様は王太子の婚約者候補に名前が挙がってますよね」

 婚約が調っていることを知っているディアがそれを言うのは意地悪だと思ったが、まだ一般には知られていないので、候補者は候補者のままだ。


「それなんです、ヴィオレット嬢が王太子の婚約者に選ばれなかった時の保険にされているのです」

「まあ、そんな失礼な話!」


「そうでしょう、プージュリー伯爵も気を悪くされているのですが、相手は公爵家ですからハッキリ言えなくて困っていました。彼女が王太子妃に選ばれれば無理強いされなくてアンドレイは助かるのですけど」


「その言い方ですと、アンドレイ様もヴィオレット様をよく思っていらっしゃらないようですね」


「口には出しませんが、態度を見ていると嫌っているのがわかります。貴族に生まれた以上、政略結婚は避けて通れないことは承知しているでしょうが、相手があの性悪令嬢ではね……あ、失礼しました言葉が過ぎましたね」


 ゴーストのヴィオレットは勘違い女ではあるが性悪ではないと思う、でも、立場が違えばそうなってしまうのだろうか。


「ヴィオレット嬢は婚約者には選ばれないでしょう、王太子殿下は聡明なお方ですから、きっと素晴らしいご令嬢を選ばれるはずです、アンドレイの将来が心配でたまりませんわ」


 未来の王太子妃が私だと知ったら、伯爵夫人はどう思うかしら? 素晴らしいご令嬢じゃなくて申し訳ありません。


 私の心中を察して、ディアは笑いを堪えてプルプル震えていた。


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