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霊感令嬢はゴーストの導きで真相を究明する  作者: 弍口 いく
第2章 ヴィオレット

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その8

「そう言えば……」

 私はこれまでのヴィオレットとの会話を思い起こした。


 その時は失礼な奴と思いながらも聞き流していたが、

「思い当たることはあるわ、彼女、かなりの自信家プラス無神経だから思い込みが激しいのかも知れない」

「ただの勘違い女なのか」


 甘やかされて育った貴族令嬢にはそういう子が多いから、気にしていなかったけど、

「こんなことも言っていたわよ、ヴィオレットが迫り続けたら、殿下も心変わりするかも知れない、妖精姫と呼ばれる美しさだから、殿方なら誰でも心揺さぶられるって」


 クリスは端正な顔を歪めて不快感を露にした。美少女に誑かされる軽い男だと言われたようなものだ。

「確かに自信過剰なところは見受けられるな、自分なら絶対僕を落とせると信じている節がある。今日も二年の校舎の廊下をうろついていたし、めげないと言うか図太いと言うか」

 クリスは大きな吐息を漏らした。


「君に嫌がらせをしているのも、彼女の取り巻きかもしれないし、エスカレートしなきゃいいけど」

「大丈夫よ、私には優秀な影がついているんだから」

 それに警告してくれるゴーストもいるし。


「ねえ、ルイーズ嬢を噴水に突き落としたのはシータなんでしょ?」

 シータは王家の影で、私を護衛してくれている女性だ。危ないところを助けてもらったこともある。


 どこからかシータがメイド姿で現れた。

 膝をつき頭を垂れているが、その顔はきっと笑いを堪えていると思う。

「殿下が目には目をとおっしゃったので」

「私、水は被ってないんだけどな」


 シータは年齢不詳だが生徒に紛れても不自然じゃないということは、私とそう変わらないと思う。黒髪に黒い瞳、整った顔立ちで知的な感じの美少女だ。なぜこんな危険な仕事をしているのか詳しいことは知らないが、シータの方は私の生活全般を把握しているだろう。


 シータのことをもっと知りたいし、親しくなりたいと思っているが、彼女はなかなか姿を現してくれない。こうやってクリスと一緒の時は出てきてくれるが、普段は気配さえ感じない。


「でも、君が嫌がらせを受けているのなら、表立って専属の護衛騎士を付けるほうが牽制になっていいかな」

 クリスは腕組みをしながら真剣に考えた。専属騎士って大袈裟過ぎない?


「婚約発表は先送りになっているけど、噂は広まってるからね、最後のあがきをする者を出てくるかも知れないし、心配なんだよ」

「最後のあがき?」

「幼稚な嫌がらせや、つまらない噂話を広めるくらいで済めばいいけど」


 そうね、覚悟はしている。王族に加わるってことは常に危険と背中合わせになるってことなのよね。エブリーヌ様は卑劣な手段で陥れられたし、クリスだって命を狙われた。


「噂と言えば」

 不安な表情を隠せなかった私を見て、クリスは話題を変えた。


「君の一挙一動がすぐ噂になるだろ、色々やらかしてくれるから、父上はけっこう楽しんでおられるよ」

「えーっ? 私なにもやってないわよ」

 ディアもそう言ってたけど、最近は大人しくしてるし。


「王太子妃に一番近い存在の君の噂話で、王族に対する貴族たちの考えが浮き彫りになるらしいよ」

「そんな大袈裟な」

 クリスは意地悪な笑みを浮かべた。


「噂を鵜呑みにするバカ、ネタにして広めるお調子者、利用しようとする策略家、囚われずに真実を見極めようとする慎重派、全く無視する頑固者、てな感じで、反応が面白いそうだよ」


 私、そんなネタにされてるんだ。



   *  *   *



 クリスとのランチが終わると、王太子妃教育に赴く。

 王妃様が直々に指導してくださるのは異例のことだと聞いているが、身重なお体にも関わらずマリーベル様はお相手してくださる。


 王妃様のご懐妊を知ったのはつい最近、まだお腹は目立っていないが、妊娠初期の大事な時期に私なんかの相手をして大丈夫なのかと心配になる。

「いい息抜きになっているのよ」

 だが王妃様はいつも優しい笑みを向けてくださる。


「十二年ぶりの出産は不安だけど、あなたといるとなぜかホッとするのよ」

 なぜでしょう?

「早く正式な婚約者として王宮殿に住まいを移してほしいわ」

 えっ? 王宮に住むのは結婚してからじゃないの?


「シュザンヌ様がなぜ今になってクリスの婚約に口を挟まれるのか、本意をお伺いしようとしても、面会を断られ続けて困っているのよ」

 王妃様の面会を断ることが出来るなんて、シュザンヌ様ってそんなに偉いの?


「それに……」

 王妃様は眉間に皺を寄せた。

「変な噂も流れてて」

 噂を立てられるのは私だけじゃないんだ。


「どんな噂なんです?」

「シュザンヌ様は本当にご健在なのかと」

「どういう意味です?」


「ここ十数年、会った人がいないのよ、遠目に姿は目撃されているんだけど、直接会って話をした人がいなくて、どなたの面会も拒否されるらしいのよ」

 完璧な引きこもりという訳ね。


「本来なら国王陛下の命令で強引にでも離宮に立ち入ることが出来るのだけど、陛下のお母様のアビゲール様はシュザンヌ様が離宮に籠られてから側妃になれられたから、病のあの方からヒースクリフ陛下を奪ったようで負い目を感じられていたのよ、……お気の毒な方だから、アルフォンス陛下も出来るならそっとしておきたかったみたい」


「担ぎ出したのは現ドパルデュー公爵ですよね、シュザンヌ様のご意向だと仰ってるのですよね」

「だから怪しいのよ、陛下が調べさせているけど、シュザンヌ離宮は近くにあっても上陸困難な孤島なのよ」

 王妃様は離宮がある方角に視線を向けた。


 ここからでは見えない王宮の端にあるシュザンヌ離宮、ヴィオレットの大叔母に当たる先代の側妃がひっそりと住む離宮、ヴィオレットのゴーストとなにか関係があるのだろうか?


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