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霊感令嬢はゴーストの導きで真相を究明する  作者: 弍口 いく
第2章 ヴィオレット

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その7

 クリスと落ち合って、私たちは馬車で王宮へ向かった。

 少しでも一緒にいる時間を作るためにクリスはスケジュールを調整してくれる。学業と生徒会に加え、王太子の執務もこなしている彼は超多忙だが、私との時間を大切に思ってくれる気持ちが嬉しい。


 秋も深まり肌寒い季節になったものの、今日は天気が良く陽射しが心地よかったので、庭園のガゼボでランチを御馳走になった。

 王妃様ご自慢の美しい庭園、この場所は王族以外立ち入ることが出来ないので、私たちは誰に見咎められることもなくゆったりと過ごせる。


 やわらかい日差しが咲き誇る花々に降り注いでいるのを眺めていると、お腹がいっぱいになったこともあり眠気をもよおしてしまう。


 あくびを堪えきれなかった私を見て、クリスは笑みを漏らした。

「僕の前で大きなあくびをするのは君くらいだよ」

「ごめんなさい、つい……」

 クリスは私の横に来て、

「枕が必要ならどうぞ」

 と自分の膝を叩いた。


「それって逆よね、多忙で疲れているあなたを、私が癒してあげなきゃいけないのに」

「君が傍にいてくれるだけで癒されてるよ」

 クリスは私が人の心の機微に疎いのを知っているから、ハッキリと甘い言葉を並べてくれる。


 そして甘いキスをくれる。

 だが、今日は短いキスでハッとして、

「ヴィオレットのゴーストはいるの?」

 そうよね、見えないとはいえ、ゴーストにも覗き見されたくないよね。


「いいえ、ここまでは来てないわ、本体からあまり遠くに離れられないみたいなの」

「すっかり懐かれたみたいだし、どこまでも付き纏うのかと心配した」

「そうよね、早く成仏してもらわなきゃね」

 学園ではずっと頭上にいて少々ウザいが、子犬のような目で見られると突き放すことも出来ない。


 ここは静かで落ち着く。

「前から思ってたんだけど、宮廷内にはゴーストが少ないのよね、大勢の人が仕えて出入りしているし、長い歴もあるからたくさん彷徨っているとかと覚悟してたんだけど」


「少ないってことは、いるにはいるんだ」

「ええ、でも私に気付いていないし無害なゴーストよ」

「それならいい、ちゃんと浄化が作用しているんだ」

「浄化?」


「年に一度、神官たちが宮廷内をくまなく浄化するんだ、もっともゴーストが目的ではなく、呪詛の浄化なんだけどね」

「呪詛?」

「権力の頂点に君臨する王族が呪われるのは世の常だよ、呪物が持ち込まれてることもあるし、僕たちは呪詛返しを施されているよ、次回は君も一緒に受けようね」


「呪いと言うことは、黒魔術を使う人がいると言うことなの?」

「黒魔術に悪魔崇拝、邪教信仰、一部にそういう輩が存在するのは確かだ。ドリスのように特別な能力を持つ者もいるだろう、君の能力は絶対知られてはいけないよ、異端者にされかねないから」


 もし、私と同じようにゴーストが見える人が存在するなら会ってみたい気もする。どうやってゴーストたちと折り合いをつけているのか聞いてみたいし、そもそもなぜこんな力があるのか知りたい。


「今、同類がいるなら会ってみたいと思っただろ」

「えっ?」

 クリスは私の表情一つで心の中までお見通しだ、ちょっと怖いんですけど。


「ダメだよ、それでなくても妙なことにすぐ首を突っ込むんだから」

「突っ込むんじゃないわ、意図せず巻き込まれるのよ」

「そうかい? どっちにしても僕の手が届く範囲にしてよね」

 そして、意外と独占欲が強い。


「実は、少し妙な話を聞いたんだ」

 クリスは思い出したように話題を変えた。

「昨日、ヴィオレットのゴーストが言っていたアンドレイ・プージュリー、別のクラスだから接点はないけど、声をかけてみたんだ、ヴィオレット嬢のことで、と」


「同じ学年だったのね」

 私はお会いしたことないし顔も知らない。

「ゴーストのヴィオレットは恋人みたいに言ってただろ、だから、ヴィオレット嬢が僕を追いかけ回しているのは面白くないんじゃないかと突っ込んで聞いてみたんだ」


「ストレートなのね」

「単刀直入に聞けるのは王太子の権力だよ」

 クリスの圧を含んだ微笑みは怖いからな~。


「プージュリーはキョトンとしていたよ、ヴィオレット嬢とは領地が隣同士で幼い頃からの知り合いというだけ。婚約話も出たことはあるけど、その時も家同士の話しで、自分は特別な感情は持っていないと言ってた」

「どういうことなの? ゴーストのヴィオレットの話と違う」

 想い合っている、愛するアンドレイって言ってたのに……。


「さあね、僕も聞きたいよ。でもプージュリーの言葉は嘘じゃない、隠しているふうでもないよ」


 ゴーストのヴィオレットとアンドレイの話に齟齬があるのはなぜ?


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