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霊感令嬢はゴーストの導きで真相を究明する  作者: 弍口 いく
第2章 ヴィオレット

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その6

「ねえねえ、なにを読んでらっしゃるの?」

 翌日もゴーストのヴィオレットに付き纏われた。ウロウロと浮遊しながら私が読んでいる分厚い本を覗き込む。


 今日の授業は午前中だけ、私はクリスと待ち合わせしている図書室で調べ物をしていた。


「なぜ無視なさるの? 聞こえてるんでしょ?」

 聞こえてるわよ、でも静かな図書室で独り言を発するわけにはいかない。

 さすがに家までは着いて来なかったものの、登校するとすぐに私を見つけて寄ってくる。自分の本体はほったらかしで大丈夫なのかと心配したが、きっと話し相手がいなくて寂しいのだろう。


 私はメモを取り出した。


〝あなたは他の人には見えていないのよ、返事をしたら一人で喋っている変な奴と思われるでしょ〟

 走り書きを見てゴーストのヴィオレットは納得してくれたようだ。しかしお喋りはやめない。


「やっぱり、偽ヴィオは変なんですよ、妹のアンジェリカと全然会話していないの、彼女、私が構ってあげないと寂しがるのに、食事が終わるとすぐ部屋にこもるのです、私、あんな根暗じゃないのに」


 〝偽ヴィオ〟と名付けたか、生身のヴィオレットは自分の半身じゃないと思っているのね。


〝あなたの身体に誰の魂が入っているのか、早く突き止めなさい〟

 私は続けて書いた。

「そう言われても、私の姿は誰にも見えていませんし、話も出来ないんですよ、どうやって調べるのです?」

 自分で考えなさいよ!


「ドリスメイ様だけが頼りなのです。それに、ドリスメイ様だってこのままでは困るでしょ? ヴィオレットがクリストファ殿下に迫り続けたら、殿下は心変わりなさるかも知れないじゃありませんか」

「はあ?」

 私は思わず声を出してしまった。昨日の私たちを見てもそう思うの?


「だって、中身はどうあれヴィオレットは妖精姫と呼ばれる美貌ですよ、殿方なら誰でも心揺さぶられると思いますの」

 いやいや、昨日は〝殿下は容姿で選んだりはされなかったのですね〟って失礼なこと言っていたじゃない。確かに容姿だけで選ぶなら、クリスは私よりディアを選んでいるはずだわ。


 それにしてもこの子、昨日もそうだったけど失礼なことを言っている自覚はないのかしら? かなりの自信家プラス無神経。悪気はなさそうだから質が悪いわ。


「あなた! なんてことをなさるの!」

 その時、静かな図書室に甲高い声が響いた。

 それは私に向けられたものだった。三人の令嬢が腰に手を当て、はたまた腕組みをしながら座っている私を見下ろしていた。


「あんまりですわ、ルイーズ様を噴水に突き落とすなんて!」

 ルイーズ様って誰? 他のクラスの人全員は把握していない。それにまたデジャヴ、前にも濡れ衣を着せられかけたことあったわね。それにしても図書室での大声、常識を疑うわ。


 呆れた私が反応に遅れていると、

「図書室で大声をあげてはいけないことくらい、おわかりにならないの?」

 大きな声ではないがよく通る凛とした声が代弁してくれた。


 この日の助け舟はクリスではなくディアが出してくれた。〝私、弱い者イジメが大嫌いですの〟と声高らかに言う、なんとも心強い友だ。


「ドリスメイがなにをしたと言うのです?」

 公爵令嬢の威厳、ディアの迫力に令嬢たちは怯みがちだが、

「先ほど、ルイーズ様を噴水に突き落としたのです」

 令嬢の一人が答えた。


 前の時は〝階段から突き落とした〟だったわね。

「ドリスはそんな面倒なことをする人じゃありませんわ」

「でも、目撃者がいます」

 前回も目撃者はいたけど、クリスに一喝されて引き下がったわね。


 ディアはオーバーに扇をバサッと開いた。

「目撃したというご令嬢、発言は慎重にされた方がよろしくてよ、ご存じないようですけど、ドリスメイには常に護衛がついていますのよ」

「護衛?」

 令嬢たちは顔を見合わせた。


「彼女はクリストファ殿下の婚約者……候補筆頭ですから、陥れようとする卑怯なことを考える者がいるので、王家から護られているのですよ。よく考えて行動なさったほうがよろしくてよ、お家にも影響を及ぼしますから。あなた方、お名前は存じませんが、教えてくださる?」


「私は……名乗るほどの者ではございません」

 令嬢たちは青ざめながら逃げるように去った。


 ディアは溜息を洩らしながら彼女たちを見送ってから、私をキッと睨みつけた。

「このくらいのこと、自分で言いなさいよね」

「ありがとう、でも、私が言っても迫力ないし」

「先が思いやられますわ、未来の王妃様が」

 ディアは私の横に座った。


「なにを読んでらしたの?」

「えっと」

 ディアは開いている本を覗き込んで眉をひそめた。

「黒魔術? そんなことに興味があるの? 意地悪をした令嬢を呪うとか」

「違うわよ」

 魂の入れ替わりがあったとしたら、それを可能にするのは黒魔術でなないかと思ったのだ。


 でも実際、魔術を使える人間はそうそういない。

「そんな本を読んでいたら、また変な噂立てられますわよ」

「読書くらい自由にさせてほしいわ」

「これからはあなたの一挙一動が注目されますのよ、なにをするにも注意しなきゃならないのよ」

「覚悟はしているけど気が重いわ」


「でも、クリスのために頑張るのでしょ、ほら、お迎えですわ」


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