第一章 05 ナスの悩み
「さて、ツリト君。俺と一緒にエリアフォーアウトの危険地帯に出掛けようか」
話し合いを終えてソーがツリトを誘った。カシャはツリトを必死に引っ張って邪魔したがツリトはソーについて行った。そして、今は、エリアフォーアウトの奥の方に、匂いが濃い方に向かっていた。ツリトはソーに抱えられて浮遊してハイスピードで進んでいた。
「俺の浮遊はサイコキネシス。俺自身のシックスセンスを元に飛んでいるんだ」
ツリトの視線を感じたのかソーは何でもないように語った。実際何でもないことなのだろうが、ツリトは驚くしかなかった。
「速すぎる」
鬼、超人、竜の力を得ているのは伊達ではなくしっかりと反映されていた。
「速すぎる?仕方ないなあ」
ソーはエビ反りした。足と頭が付きそうになるほどだった。そして、ソーは力を抜くとスピードが加速した。
「ウォーーーーーーーー!!」
「ハッハッハこんな風に力を加えると更にスピードが上がるよ」
「どうして、ここまで力を求めたんだ?」
「俺は、俺は、鬼としては落ちこぼれだったからさ。それなのに、鬼の村から抜け出したんだ。そして、このエリアフォーアウトに来て超獣と相対して戦って死にそうになって強くなりたいと思ったんだ。その時、俺は心配してついて来てくれたナンスを危険な目に合わせてしまったんだ。そこから、強さを求めるようになったんだよ」
「そっか。でも、ちゃんとソーは自分の力でナンスを守り切ったんだろう?やるじゃん」
「余り、気にするんじゃないよ」
ツリトは自分を卑下したことに気付いた。
「ごめん」
「謝ることはないさ。寧ろ、謝るのは俺の方だ。ごめんな」
ソーは浮遊を止めた。下を見るとたくさんの超獣たちがいた。それも異形な形をしていた。ペガサスもそうだが、ウサギのように耳が長い熊、クリスタルでできている牛、略してクリスタルカウなどなどがいた。
「どうだい?」
「凄く、殺気立ってる。まるで、何かに怯えているように」
「そう。これより、もっと奥に行くと更に殺気立ってるんだ。ツリト君、シックスセンスは何かな?」
「斬撃」
「そっか。じゃあ、ツリト君。斬撃無しであのクリスタルカウを仕留めれるかい?」
「多分、難しい」
「じゃあ、ツリト君。君の目下の目標は殴り合いでクリスタルカウを倒すこと。それが、できるまで、奥に進むことを禁じる。いいね?」
「・・・・・・」
「いいね?」
「・・・・・・」
「いいね?」
「・・・・・・」
「しつこいな、ツリト君!」
ソーはさすがに叫んだ。でも、尚もツリトは浮かない顔をしていた。
「いいかい。世界は不思議と未知で溢れている。だから、実力が伴わない内に旅に出るのは凄く危険なんだ。俺がさっき話したことを忘れたか?」
「ぬうー、ぬうー、むうー。分かったよ。そのために二人も師匠ができたんだから」
「俺も入れていいんだよ」
「やだ!」
ツリトはソッポを向いて唇を尖らした。ソーはその様子を微笑ましく思いながらツリトを頭を優しく撫でた。
「よしっ、ツリト君。帰りは全速力で帰ろうかな」
ソーが空で膝を曲げて全身を丸めた。ツリトは背筋が凍った。
「分かった。師匠で良いから。それだけは止めてくれ!」
ソーが体を反った時、ソーのサイコキネシスでの浮遊による高速移動が行きよりもかなり速いスピードで飛んだ。ツリトは思わず目を瞑った。
「『爆弾』。筋肉を極限まで縮めて伸ばすことで超パワーを生み出す技さ。俺は、鬼と竜の力もあるから、純超人とは少し勝手が違うんだけどね」
すぐに皆のところに着いた。太陽が真上に来る前には帰ることができた。
「ツリト!」
カシャはツリトが姿を現すとすぐに飛びついて抱き着こうとしたが、ネキにしっかりと抱きしめられていた。
「放して、ネキ!」
「ダメでありんす。ナスにツリトと話す時間をあげておくんなし」
「ダメよ。その女だけはダメよ。ツリトがいなくなった途端にカシャにツリトのことを聞いてきたんだから。絶対にダメよ!」
「ご、ごめんね。でも、ナスにもツリト君と話させてよ」
ツリトは横にいたソーを見た。ソーは軽く微笑むとしゃがんでツリトの顔を見つめた。
「あんまり、同世代の子と話したことがないんだよ、ナスは。ツリト君一緒に話してあげてくれ。俺は昼ご飯の手伝いをしに行くから」
ソーはツリトの両肩を二三回ポンポンと叩くとそそくさと部屋の奥に向かってナンスの元へ向かった。
「つ、ツリト。と、とりあえず、腕に抱き着くのが普通なんだよね?」
「キィィィィィィ!」
カシャが睨め付けていた。ツリトは否定しようとしたが遅かった。大きな瞳をクリッとして可愛い顔つきをしている桃色ショートのナスはオドオドしていたが、既に、ツリトの手を握ってしっかりと身を寄せて腕に抱き着いていた。
「か、カシャちゃん。これで合ってる?」
「キィィィィィィ!」
「なあ、わざとやってるのか?」
「わざと!?うんうん。ナスはホントにカシャちゃんに確認してただけだよ」
「っ!」
ナスはツリトに、より力を入れて抱き着いたためツリトは右腕が締め付けられて痛くなった。やはり、改めてナスは鬼であり、竜人であり、超人でもあると認識した瞬間だった。
「ご、ごめん」
「いいよ。そんな気にしなくて」
ツリトが左手でナスの頭を撫でるとナスは顔を赤くして喜んだ。だから、カシャは顔を真っ赤にしながら呻いた。
「キィィィィィィ!」
ツリトはカシャの顔を見て後が大変そうだと思ってカシャに踵を返して逃げることにした。
「ふふふ」「キィィィィィィ!」
ネキは笑っていたが、カシャはやはり、呻いていた。ツリトは背筋が凍りながらも家の外に出た。
「で、何を話したいの?」
「ナスね、ナスね。どうして、ツリト君はそんなふうに強く生きれてるのか聞きたかったの。ナスは、ナスはもし、ツリト君とおんなじ立場だったら、きっとこんなに早くは立ち直れていない」
「・・・・・・僕ね。まだ、立ち直れてなんかないよ。でもね、でもね、落ち込んでいたら、落ち込んでいる姿を見せたら、きっと前に進めないと思うんだよね。それに、パパとママは僕の中で生きてる」
「ナスからしたら十分強いよ。ナスは自分の力を使い熟せる自信がなくて、前に進めない」
ツリトはナスの頬を突いた。ちょっと押すだけですぐに押し返されてしまう。
「僕ね。僕も自信なんてないよ。だから、強くなろうとしてるんだ。だから、自信がないことと前に進めないことを一緒くたに考えるのはダメだと思う」
「ホントにツリト君は凄い」
ナスはツリトに抱き着く力を思わず強くしてしまった。ツリトはオーラを纏って我慢した。ナスはツリトが我慢していたことに気付き、すぐに力を抜いた。だが、ナスの筋肉は超弾力。縮まっていた筋肉が急に伸びたことで、ゴムやバネのように弾性力が働き、ツリトの腕は圧迫されてしまった。ツリトの腕はオーラを纏って強度を上げていても赤くなってしまった。
「ご、ごめん。怪我はない!?」
ナスはすぐに離れてツリトの右腕を見た。ツリトの右腕が赤くなっていたのを見てすぐに目から大粒の涙が溢れた。だから、ツリトは自分から近づいて抱きしめて背中をポンポンと叩いた。
「なるほどね。まだ、体の動かし方を理解できていないんだね」
「うん」
「そっか。だったら、これから、俺を使っていっぱい失敗して練習すればいいよ」
「でも!でもでも、それじゃあ、ツリト君がいっぱい怪我しちゃう」
「ナスは何に怯えてるの?」
「ナスが、ナスが望まない怪我を傷を付けてしまうこと。それで、それで、そのことがずっと心に残ってしまうこと」
「だったら、俺は大丈夫だよ」
ツリトはナスの肩を掴んで距離を取った。そして、体を反らして頭突きをした。ツリトは逆に飛ばされてドアにぶつかった。
「ツリト君!」
「大丈夫。全然、痛くも痒くもない。寧ろ楽しさを感じるよ」
ナスは目を大きく見開いて唖然としていた。気付けば涙は止まっていて開いた口が塞がらなかった。ナスはツリトに近づいてツリトを起こした。ツリトはケラケラしていて平気そうにしていた。だが、立ち上がる時に少しふらついていた。
「嘘吐き」
ナスは笑った。ツリトの無茶に少し心が軽くなったから。だから、ツリトの頬を掴んで引っ張った。
「ありがと」
「いあい」
だが、まだ、力加減を覚えるのには時間が掛かかりそうなナスだった。そんな微笑ましい雰囲気にドアが叩きつけられた音を聞いたネキとカシャがやって来た。
「ふふふ」「キィィィィィィ!」
カシャはネキの気がツリトに引かれている内にネキの腕を押して隙間を作り地面に着地するとツリトにダイブした。
「ツリトは渡さないんだから!」
「ツリト君はナスに(力加減を覚えるのを)付き合ってくれるって言ったよ!」
「キィィィィィィ!」
カシャはツリトに馬乗りになり両頬を強く引っ張った。ツリトはカシャの腰を叩いて参ったの合図を送ったが完全に無視された。
「ふふふ。女たらしの才能がありんすね。よく頑張りんした」
ネキはしゃがんでツリトの体を治癒した。やはり、背中が腫れていた。カシャはネキの治癒終がわるとネキを見て睨め付けた。
「キィィィィィィ!」
そして、ネキの後ろに隠れたナスを見てカシャが威嚇した。
「ツリトの人生はもう縛られてるでありんすね」
すると、ナスはネキの服の袖を掴むと顔を赤くしていた。
「なるほど。面白いことになりんした。カシャ、ナスも混ぜてあげておくんなし」
「キィィィィィィ!」
ネキはカシャの腕を掴んでツリトを守った。すると、カシャはツリトのことなどお構いなしにナスに飛び掛かった。ナスは無闇に力を入れることができなかったため、されるがままに頬をつねられた。
「カシャは大変でありんすね」
「おう。僕ね、昨日からカシャの愛が重くてビクビクしてるんだ」
「ふふふ。そうでありんすか。では、部屋でゆっくりいたしんしょう」
そろそろ、ブックマークと★★★★★、評価が欲しいってばよ。