第二章 13 蟲毒6
「俺はこのまま対人戦闘の実力を上げていく。だが、ゼウス。貴様は俺の多重結界を解くことができるか?できぬだろうな。ハッハッハッハッハ!!」
最後の一人は俺たちに、否、俺にそう言い残すとサキューバスに首を斬られて殺された。
「ーーーー」
「ゼウス。気にする必要はない。幸いにも、重傷者は一人もいないんだからさ。それに、今回、僕たちは負けていない」
「否。ジリ貧だ」
「ジリ貧?」
「亜人の特徴を奴が体に組み込めば、話しが百八十度変わって来る。今回、たくさんの血を回収されただろう。いずれも、俺たちの実力に遠く及ばない。だが、良い所取りをしたら、俺たちは大丈夫でも、他の奴らの危険が更に増すことになるだろう。それは、つまり、次からは死傷者がでるかも知れんと言うことだ」
「そう言うことか。まあ、でも、考えは纏まっているんだろう?」
「ああ。体制を立て直すぞ」
「もちろんさ」
「「「はっ!?」」」
俺が語った内容に全員が声を荒げた。当然と言えば当然だが、千人を超える仲間たちが声を揃えるとは予想外だった。
「お前たちは異空間にずっといろ」
「確かに、僕とサツキなら可能かもしれないが、ゼウスへの負担が計り知れないじゃないか!」
「そうだよ。それに、僕は半日、異空間を広げるのは難しい」
「それなんだが、俺に一つ案がある」
相変わらず、否、先ほどよりも鋭い視線を感じたため、片目を閉じて、サツキに体を向けた。サツキは少し俯かせた顔を上げると俺を見た。
「サツキ。貴様のシックスセンスを説明して見ろ」
「え!?それは、もう、分かってるだろう?」
「説明して見ろ」
「分かったよ。僕のシックスセンスは異空間と現実をリンクさせる。異空間にいる時は現実に干渉できないが、異空間での変化はシックスセンスを解いた時に現実に持って行ける。また、現実にいる者を異空間に無理やり連れて来て攻撃することもできる。とこんな感じで認識してるけど?」
「ああ。間違っていないだろう。だが、もっと細分化して考えて見ろ」
「細分化?細分化って言ってもこれ以上何もできないと思うんだけど」
「サキューバス。分かるか?」
「どうして、僕に聞いて来るかな?まあ、良いよ。僕も辿り着いた。ゼウスが考えていることに」
サキューバスは最初はオーバーに驚いて見せたが、すぐに、顔に自信を漲らせて声を張った。
「一言で言うとグラデーション。つまり、現実と異空間の狭間を刻めってことだろう?」
サキューバスはウィンクして上目遣いで俺を見て来た。だから、軽く頷いて答えた。
「サツキ。貴様は知らず知らずの内に完全に分離していたんだ。だから、体力が半日も持たなかった。例えばだが、異空間に避難したものを見えないようにするぐらいなら、オーラを今の十分の一ほどに抑えられるんじゃないか?」
「で、でも、そんなことは僕、したことないよ?」
サツキは顔を俯かせた。全員の視線がサツキに集まった。サキューバスが俺を見て来た。
具体的なやり方を教えれるだろう?と言いたそうな目をしているな。
「具体的なやり方を教えられるだろう?」
「フッ」
俺は思わず鼻で笑った。だから、鋭い視線を向けられたため、取り繕うことにした。
「できるさ。ちょっと意識を変えるだけでな。貴様の中でイメージを具体的にするんだ」
「イメージを具体的?」
「そうだ。今しているイメージにプラスして情報を付け足すんだ」
「でも、イメージを具体的になんて、そう、簡単にできるのか?」
「フン。得意な奴が近くにいるだろう?」
「得意な奴・・・エレクか?」
エレクは急に名前が挙がって一瞬肩をピクッと跳ねさせた。そして、隣のサツキを一瞬見ると俺を見て両の掌を上に向けて首を振った。
「やれやれ。僕のシックスセンスを熟知していたのか?」
「フン。見れば分かるさ」
「全く。恐ろしいな。ゼウスの言う通り、僕のシックスセンスの特性上、具体的なイメージは欠かせない。僕は雷の如く速く動ける代わりに、寸分の狂いも許されないんだ。予めイメージを固めとかないとすぐにあらぬ方向に行ってしまう。壁にぶつかったり、人にぶつかったりとね。だから、僕は、僕のシックスセンスをものにするために、極々当たり前のことからイメージして行ったんだ。呼吸をするには肺を膨らませないといけない。歩くのは右足から、刀を振るなら腰を回すだとかとね」
「そこまで、具体的なイメージをしていたのか?」
「そうだとも。サツキ君。僕は具体的なイメージをするためにかなり、特訓していたのさ。だから、サツキ君も段階を踏めばできる。それに」
エレクはサキューバスを見て言った。
「サキューバスもいるから、一人じゃない」
サツキは大きく目を見開いて俺やサツキ、サキューバスの顔を順番に見た。
「分かった。やって見る!」
「と、決意をしてくれたところ、悪いが、貴様の具体的なイメージをする訓練だが、かなり、段階をすっ飛ばす」
「「「は!?」」」
再び俺に視線が集まった。今度は怪訝な目を向けられた。
「一つ一つやって行くのに越したことはないが、それでは、時間が掛かり過ぎる。今度、いつ、やって来るか分かったものではない。だから、段階をすっ飛ばす」
俺はコキュートスとハガネ、そして、カナデを見た。
「貴様らが協力したら、余裕だろう?」
俺の言葉にカナデは少々、目を見開いて俺を見つめた。
「気付いていたのね。カナデが本気で歌えば、ノイズキャンセルできるって」
「ああ。もちろんだ。やはり、歌手は、曲と歌声だけを聞いて欲しいだろう?」
「全てお見通しなのね。ゼウスの言う通り、カナデは聴覚を支配できる。・・・だけではなく、あらゆる感覚を支配できる」
ザワザワ。ザワザワ。
「まあ、こう言うことだ。これで、この話は終わりだな」
「待て、ゼウス。まだ、話は終わりではない。寧ろこっちの方が遥かに重要だ」
早々に話を切り上げようとした俺に待ったを掛けたのは目を鋭くして睨み付けているサキューバスだ。サキューバスの静止に続いて続々と俺を睨む視線が増えた。
「チッ。折角、皆、忘れてたのに」
「ゼウス。こっちにほとんどの時間独りでいるってのは、僕は、僕たちは賛成できない。納得できる説明ができるならして見ろ」
「はあ」
俺は思わずため息を吐いた。当然、反対意見が出ることは承知の上で提案したが、ここまで、睨まれるとは思っていなかった。
理由を言うのは正直、避けたかったが仕方ないだろう。
「貴様らが弱いからだ」
静寂が流れた。誰もが息を呑んでいた。サキューバスは俺の真意を測ろうと頭を回転させていた。余計な癇癪を起してくれなくて助かった。
「ゼウス。そんなことは皆分かっている。だから、分かるように説明してやってくれ」
サキューバスは俺を見て言った。歯を食いしばり顔を上に上げていた。
仕方ないか。己の強さに自信のある者ほどキツイだろうからな。
サキューバスの他にも、エレク、ショワ、カナデも気付き始めた。だが、気付いているのにずっと黙っていたコキュートスは、その単眼で俺を睨み続けていた。
「ゼウス。君とて万能ではない。必ず、生きれるとは限らないんだよ」
「フン。分かっている。細心の注意を払うつもりだ」
「そうか。僕はゼウスがしようとしていることは止めない。止めるための力がないからね。だから、競争だ、ゼウス」
「フン」
ザワザワ。ザワザワ。
まだ、俺が何をしようとしているのかを気付いていない者はたくさんいる。だから、コキュートスが何と何を競おうと言っているのか、分かっていない。だが、分かっている者は目に闘志を燃やし始めていた。
「ゼウス。悔しいけど、僕はコキュートスに着くよ。だから、覚悟していろよ」
「フン」
皆がコキュートスに近づいて固まり、俺を睨んだ。心が一つに纏まり、俺を睨む視線は先ほどよりも鋭利だ。
「勝負だ。俺が本気を引き出すのが先か、コキュートスが最高の武器を作るのかが先かを」
「望むところだ!」




