第二章 10 蟲毒3
「これで、僕の力を存分に発揮できる。さあ、ハガネ。どんどん食べるんだ!」
「コキュートス。僕は可哀想に見えて来たんだが・・・」
「何を言っているんだ、サキューバス。武器があった方が今後楽じゃないか。だから、ハガネにはいっぱいご飯を食べてもらってたくさん排出してもらわないと」
「まさか、仲間から拷問されるとは・・・」
コキュートスとサキューバスはハガネにフードファイターのごとくご飯を食べさせていた。全ては武器を作るために。だが、ハガネは既に苦しそうにしていて、口にご飯が残っていた。見かねたゼウスが状況を打開した。
「ハガネ。シックスセンスは何だったんだ?」
「俺のシックスセンスは筋力アップや骨の硬化、みたいな感じで体をデカくすることだったが?」
「そうか。これをデカくして見てくれ」
ゼウスはハガネのうんこ、クリスタルの鉱物を手に取って前に出した。ハガネたちは「「「あっ!」」」と今になって気付いた。。
「そうだ。もし、可能だったら、俺はもう、こんなことしなくてもいいんだ。成長せよ」
見る見る内に大きくなった。
「っしゃっ!!!!!!」
ハガネが人一倍ガッツポーズした。当然だ。結界を破りそうなほど大きく成長して見せたのだから。
「さて、これからはハガネの栄養問題について考えないとね」
「どういうことだ、コキュートス」
ゼウスの問いかけにハガネの鉱物を片手に持ちながらその隻眼を大きく見開いたコキュートスは何でもないことのように語った。
「どうやら、食べたものによって、鉱石は全然変わって来るみたいなんだ。まあ、当たり前って言ったら当たり前なんだけど、どの鉱石でどんな武器を作るかって言うのは大事なのさ。で、僕がハガネを見る限り、ハガネは炭水化物をたくさん食べるべきなんだよね。上質のものを手に入れるには」
「なるほど。当たり前だが、そうだな。俺の健康がこの先の命運を握ると言っても過言じゃないのか」
「うん、そう言うこと。でも、ここには炭水化物はあんまりないし、水もあんまりない。困るよね」
「なるほどね。でも、大丈夫。なっ、ゼウス」
「ああ」
「おいおいおいおい、これは、どういうことだ?」
コキュートスは思わずサキューバスに詰め寄った。周りの皆もサキューバスたちが持って来たものに目を大きく見開いて驚いていた。
「単純な話だ。この結界は人の出入りに特化したものだってことだ。つまり、俺たちは外の皆にサインを送ることができる」
「でも、綺麗に収獲することは難しいんだ。なんたって当てずっぽで手に入れているからさ」
コキュートスたちは一斉に目の前の大量の食材を見た。確かに形が綺麗なものは少なかった。
「当てずっぽ?」
「そう。人の出入りが厳しいし、僕たちは外の様子をいまいち、掴めていない。だから、適当に一定範囲内の土とかをこっちに持って来ているんだ」
「なるほど。それで、当てずっぽか。大変だな。外にサインを送れるって言っていたが、中々に厳しいんじゃないのか、ゼウス?」
「ああ。だが、可能性がゼロってわけじゃない。何度も送ると可能性がその都度上がる」
「プラス思考だね。まあ、でも、今日はぱーっと食べてリフレッシュしようか」
「そうだな」
カナデは今日も歌を歌う。明日に希望を持てない毎日に希望を持つために。
歌は歌詞とメロディーの繋がりだ。心地良いメロディーに歌詞、今の気持ちや未来への希望を言葉に乗せるもの。だから、奏は今日も歌を歌う。
でも、ここ最近は同じ歌をずっと歌ってる。メロディーをアップテンポにしたり、バラード調にしたりとメロディーにアレンジを加えて。だから、飽きも来ないし、何度でも興奮できる。そして、暗い空気を消し飛ばすことができる。
カナデが歌う時の信条として参加型にしない、と言うのがある。理由は単純だ。カナデの美しい声に邪魔を入れたくないから。ノイズを省くためだ。だから、全力で歌ってうっとりしてもらうのだ。
「はい。水。あんまり、喉を酷使しないようにね」
「分かってる」
歌い終わると毎回、誰かが水をくれる。それほど、奏の歌は必要で不可欠なものになっていた。生きる糧になっていた。士気も上がるものだった。
だから、水を差すようにして現れる実験の失敗作になってしまった人を見ると凄く憂鬱になってしまうのだ。
現れた男はまたしても、竜人になれなかった者だ。
ああ、また、歌いたくない歌を歌わないといけない。
カナデは一直線に駆けて男の前に現れるとサシの状態になった。自然とカナデ以外は逃げていたのだ。だから、心置きなくできる。
「ごめんね、領域展開」
カナデと男だけの空間になった。カナデはシックスセンスで楽器を生み出した。この楽器で奏でる音は嫌いだ。だが、攻撃手段はこれしかないのだ。
カナデは破滅の歌を歌った。不協和音しか奏でない気持ち悪くて耳を塞ぎたくなるような歌だ。これで、精神と肉体を壊して行くのだ。
男は限界を迎えて倒れ、そして、死んだ。
そんな毎日を送っていると、楽しい歌を歌っていないとやってられない。喉を多少酷使してでも、切り替えないと心が落ち着かなくなる。カナデたち、監禁メンバーには武闘派の子があんまりおらず、十五歳のカナデが一番最年長だった。だから、皆を守らないといけない。体のケアはしてもらっている。だが、そろそろ限界が近づいて来ていた。
ここ最近は失敗作が二人に増えてより、迅速な初手が求められるようになった。だから、三人も来た時には思わず心が折れそうになった。
「せめて、全員で一人ぐらいはなんとかしようぜ」
いつも、水を用意して、申し訳なさそうにしている子が声を上げた。自分の分の水を渡していた少年だ。カナデが心配しないように、毎回別の子に配らせていた。だから、思わず、涙が溢れて零れた。
その少年はまだ十歳と幼く、戦闘能力は高くない。それなのに震える足を前に踏み込んで声を上げたのだ。それを見てしまうと三対一を行わないわけには行かなくなる。少年の心に動かされて、戦闘が不得意なのに前に出ようとする子たちが増えて来た。
嬉しい。凄く嬉しい。だが、無茶は無茶だ。勝てるはずがないのだから。だから、奏は奏でる。力を与える歌を。気持ちを高揚させてオーラ量を増やし、質を上げる歌を。例え、一人一人のシックスセンスが炎であったり、氷であったり、ふかふかベッドであったり、水を甘くするものであったり、マッサージであったり、と頼れないものであっても。あれ?何か、ムカついて来た。何で、誰も、近接戦闘向きのシックスセンスを持っていないの?それに、生活に特化し過ぎでしょ?と思わず湧き出そうなのを必死に堪えて歌う。彼ら、彼女らが、突進するだけで倒せるような力を与えれるまで。歌って歌って歌うのだ。
でも、今日の相手は一筋縄では行かなくて前の失敗作よりも、動きが滑らかになっていた。
ああ、ヤバいヤバいヤバい。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
不協和音の歌を歌おうかと思った。だが、今のママじゃ、皆を巻き込んでしまう。どうすれば、どうすれば、どうすれば・・・。
この時の思考は後に振り返っても危ないと思った。でも、その時、それが一番最善策だって、思った。
仲間がマズイ攻撃を受けそうになった時、そのちょっとの間だけ、大量に不協和音を鳴らす。ほんの、零点霊霊霊霊霊何秒の時間だ。だが、そこで、たくさん弦を弾く。転調だ。
極々短時間による転調は、敵味方関係なく全員に影響をもたらした。全員の動きにキレが無くなって行く。このままジリ貧、体力勝負かと腹を括った時、救世主が現れた。
大勢の援軍だ。一際目立っていたのが、腕を十本生やした男を先頭に現れたその集団を見た時、もう、大丈夫だって思った。だから、奏は奏でた。仲間たちを危険人物三人から離すメロディーを。
そこからは一瞬だった。青髪をした男が一瞬で三人の首を斬った。
カナデたちの日常に大きな希望が舞い込んで来た瞬間だった。




