第二章 08 蠱毒
「俺は、否、俺たちは・・・」
突如現れた男により、暗闇に飛ばされたのは、自己理解を得意とする人間たちが住む村の人達だった。だから、突如として、結界に囲まれて瞬間移動をされたとき、共通して一つの考えを頭に浮かべた。
「何かのモルモット」
声が響く中、少年は違和感を覚えた。
「俺の声しか聞こえない」
少年は暗闇の中に壁に大の字になって立たされていた。手足には枷が付いていた。
トンッ
突然の足音に少年はオーラを纏おうとした。が、できなかった。
「何故だ!?」
「フン。お前が苦しみから逃れることができたのなら、他の奴らは助けてやろう」
「できなかったら?」
「できなかったら。・・・その時は勝手にしろ」
こうして、少年は目の前の男に注射を刺された後、両方の肩から手先までを綺麗に真っ二つに斬られた。少年はここで、意識を失った。
「ぅう」
「大丈夫かい?ゼウス」
「ここは?」
「分からない。植物は生えているみたいだけど、暗闇だ。どこかに抜け道がないか、これまでに探したんだけど、見つからなかった。って言うより、邪魔された。結界が敷いてある」
「そうか」
「ところで、ゼウス。その腕は何だい?いつの間に、多椀になった?」
「ん?」
ゼウスはサキューバスの視線の先、自分の上半身を見た。腕が十本あった。左右対称にだ。
「もしかしたら、ゼウスのように実験体として利用された仲間は多いんだろうね」
「ああ。間違いない。俺たちは純人間であることに拘り、己の力を最大限に使うことに特化した民族だからな。未確認でそして、新種の亜人を試すのためには勿体ないほどの器だ」
「まあ、と言っても、ゼウスは異常だけどね。クローンの発生を抑止してちゃんと腕だけを生やしたんだから。そもそも、多腕族は四本の腕を扱うことを苦労して衰退して絶滅したほどの恐ろしさがある。全く、君って奴は」
「そんなのは結果論だ。それより、出られそうか?」
「難しいと思う。そうか。大人たちはどうした?」
「多分、より、過激なモルモットになったんじゃないかな?誰一人いない」
「そうか。さて、どうしたものか?」
「ゼウス。自分のシックスセンスを増やしたらどうだ?変速以外にも。この結界を壊すためのシックスセンスとかそういうのをさ」
「うーん。おいおいだな。だが、それにしても、やけに静かだな」
「まあね。僕もそれは疑問に思っていたんだ。他に誰かいないのか?って」
「考えても仕方ないなら、食料探しだな」
「っとに、切り替えが早い奴だ」
十五歳の少年二人は、監禁状態の最中、マイペースを崩さなかった。肝の据わった親友だ。
「意外に食料は充実してるね。水は僕のシックスセンスで手に入れたけど」
「ああ。だが、もうそろそろ、アクションがあっても良い頃合いだと思うんだがな」
「それにしても、良いのかい?ゼウス。同じようなシックスセンスが重複してるけど?」
「構わん」
「全く、迷いが無いね」
サキューバスはゼウスの迷いの無さに呆れた。だが、すぐに体の特徴を生かしたシックスセンスにしたところ、賞賛の言葉しか上がらなかった。
「しかし、ゼウスがそんなのだと、僕が真似できないじゃないか」
「どうして、俺が貴様のためにシックスセンスを決めなければならんのだ?」
「コピーする僕としては面白みがないよ」
「だから、どう・・・、来たか」
「みたいだね。傀儡と化した大人たちだ。弔ってあげようか」
ゼウスとサキューバスの目の前には傀儡と化した大人が五人いた。一人は頭に角を二本生やしたものの焦点が定まっていないのかフラフラとしていた。一人は頭に同じく二本の角を生やしているが、その全身は黒色の鱗を纏っている。一人は頭に同じく二本の角を生やしているが、その全身は緑色の鱗を纏っている。一人はヘニョヘニョと関節が外れているようだった。一人は鋼の、クリスタルの体になっていた。
「人のすることとは違うな」
「全くだ。ゼウスはまだ慣れていないだろう、どの体。だから、僕が行く」
サキューバスは一歩前に進むと空に手を広げた。そして、手を握るとその手には一本の刀が握られていた。その刀は光の刀だ。実体がない。だが、その光はあらゆるものを焼き尽くさんばかりに燦々と輝いていた。
「さて、まだ、自我はあるかい?」
五人は首を振った。多少の自我はある。だが、それを乗り越えることは不可能だと判断した上での質問への否定。サキューバスはその事実を感じて意識を研ぎ澄ませた。
「悪いね」
サキューバスがオーラを纏い大きく踏み出したとき、サキューバスのお腹に強い衝撃が走った。黒色の鱗を纏っている男による、衝撃の瞬間移動だ。
「なるほど、暗いし、オーラが安定していなかったから分からなかったが、神竜の血を入れたのか。となると、緑色は神龍の血を入れたことになる。やれやれ。困ったものだね。ゼウス。早速使わして貰うよ」
「フン」
サキューバスは体にハートの紋様を刻んでお腹の腫れ上がった怪我を治した。ゼウスに鼻で笑われたことには非常にムカついたが、それは、後だ。
「僕は、今のところ、コピーしたシックスセンスを三つまで同時使用可能なんだ。だから、死んでもらうよ」
サキューバスは刀を一閃振り下ろした。その一振りは洗練されていて誰もが鍛え上げられたものだと直感的に分かるものだ。それほどの威力を伴った光は伸びて五人の魂を燃やした。
「安らかにお眠り」
サキューバスは刀を空の鞘にしまった。そして、それぞれの遺体に近寄った。
「やはり、過剰摂取だな。龍は無理に神龍まで、竜も無理に神龍まで、鬼も鬼花を体が壊れるまで、これは、超人か、最近、できた、筋肉の弾力がもの凄いとか言う、そして、これに至っては、何だ?」
「ホントにね。こんなにクリスタルだらけの人なんて見たことない。それに、多分、普通の刀では斬ることのできない」
「だが、一番、分からないことがある。多種多様な亜人を作るこの実験、最終的なゴールが分からんな」
「最終的なゴール?」
「ああ。仮に、たくさんの亜人を作ることが可能になったとして、これを行なった張本人は何がしたいのか?ということだ。色んなものをミックスするのはあまりにもお粗末だろう?」
「そういうことか。でも、僕はミックスすることはお粗末ではないと思う。確かに、一つのことを極めなくても、例えば、イチゴを食べるとき下の熟したところだけを食べて、新しいものを食べる、みたいな感じでさ。美味しいとこどりできたら一番良いじゃないか」
「趣、風情と言うものを分かっていないな、サキューバス。綺麗な花というのは汚い花があるから映えるのだ。美味しいとこどりをすれば、素晴らしさなど欠片も分からんぞ」
「うーん。確かに。悪いことを知って初めて良いことが分かるのは分かるなあ。ってことは、首魁は僕程度の賢さってことか?」
「否、サキューバス程度以下のバカだ」
「ねえ、僕のことを悪く言ってる?」
「さあ?」
「はあ。君って奴は」
「っ!サキューバス。準備ができた。とりあえず、仲間を増やすぞ」
「はあ。君って奴は。ホントに凄い奴だ」
ゼウスは一つ目の結界を怪腕、順応することで破った。
「全く。末恐ろしいガキだな」
「デストロイ様。どうしましょう?」
王様が座るような椅子に足を組んで頬杖を付いて座っているデストロイは片膝を立てて座っている目の前の二人の男に視線を向けた。
「今は、大量に作れ。大量にキメラを作って黄金比を見つけろ。そして、失敗作を上手く利用してモルモット達の更なる強化、否、ゼウスとサキューバス以外は殺しても構わん」
「「ハッ」」
さて、追加で何重にも結界を張る必要があるな。根比べか。面白い。ゼウス、カラワラ。
俺が、必ず、この星を滅ぼしてみせる。
デストロイは不敵に嗤った。




