第二章 06 止血完了
一度壊れてしまった関係をそっくりそのまま元に戻すことは不可能だ。
「じゃあ、ウミはワトソンを寝かしつけるから、ちょっと待ってて」
ウミはワトソンを抱っこして瞬間移動をして家に帰った。
「ホームズ。ワトソンは何を見た?」
「未来。ユグドラシルに眠るパンドラの箱を開けた男、デストロイが星を滅ぼす未来」
「大丈夫でありんすか?」
ネキは太ももの上に座るホームズを軽く抱きしめて聞いた。
「うん。正直、今日のことがなかったら、僕とワトソンは関係を修繕することができなかった。だからさ、ありがとう、ネキ」
ホームズは顔だけ振り向いてネキに笑顔で言った。
「凄い胆力でありんすね」
「しかし、アレだな」
「何?」
「ホームズに、厳しい修業を付けないとダメだな」
「厳しい修業?でありんすか。さすがに、早すぎるでありんす」
ネキは昼間のカラワラとの凶悪人の処刑、魂の研究を思い出しながら言った。
「ああ。だから、丁度良いところがあるだろう?」
「そうでありんすね。わっちとウミが交代で面倒を見んしょう」
「コラッ!勝手に話しを進めないでよ」
手にお盆を乗せたウミが瞬間移動をしてやって来た。ウミはカラワラ、ネキ、僕にそれぞれホットの芋焼酎やミルクを渡した。ウミも芋焼酎を手に取って空いている切り株に座った。夜風に当たりながら、四人は一斉に一口飲んだ。
「悪い。じゃあ、見せてくれ、ホームズ」
「うん」
四人は即席で作った木のテーブルの上にコップを置いた。そして、ホームズに視線が集まるとホームズはオーラを纏ってシックスセンスを使った。
自分の記憶は他人に見せることができる、と意識認識の拡大をしたのだ。
三人は涙を流して、しばらく、唖然とし、茫然とし、絶句した。
こんなのっ・・・!?これをどうして、すぐに乗り越えれたの、ホームズ。うんうん。ワトソンも。ウミなら、あんなにすぐに動けないよ。
これが・・・。ホントにホームズは強い子でありんすね。ですが、よくもまあ、こんな考え方ができんしたね。
いやはや、驚いた。ワトソンの行動も分からんくはないな。
「「「「デストロイ」」」」
「エグイでしょ?」
ホームズは口角を上げて歯を見せて笑った。その笑みは無理をして浮かべたものではないことが分かった。目が、瞳の奥から笑っていた。
「だな。ここまで来ると笑うしかないよな。だが、ホームズの狙いは分かった」
「「狙い?」」
「簡単なことだ。俺も相当性格はイカれてる方だが、ホームズは俺以上だ。正直、俺もこの方法は余りお勧めはしないし、絶対に避ける。だが、ホームズは絶対にやる。何年掛かってもやるだろう。実際に触れ合っているわけではないから、絶対、時間が掛かるが恐ろしい奴だよ。これが二歳児の正常の思考なら、俺はフロンティアの王を間違いなく辞めるほどのな」
「もったいぶらないでよっ!」
ウミはカラワラに焦らされて思わず叫んだ。ホームズとカラワラが笑い出したことすら、理解できないのに、こんな対応されたら、火に油だ。だから、ネキと二人で一緒に責めようと思ったのに。
「ふふふ。そう言うことでありんすか。正気ではないでありんすね」
「ネキまでっ!」
「母さん。僕は変わった性格をしている。シックスセンスの影響で知識量もかなりある。感情もそれなりにちゃんと育っているだろう。怒らないでよ。僕は、このワトソンが見た未来の記憶を元に分析し、限りなく現実に近いイメージをして、イメージの中で仮想体験をする」
「は?・・・ダメよ、そんなの。精神が擦り切れちゃう!」
「僕は、ワトソンが見たこの未来の記憶を見ても、何とも思わないんだ。これは、ワトソンと戦っている時からもそうだったけど、絶対に起こる未来じゃないから。だから、平気なんだ」
「どうして、二人は笑って許してるの!」
「わっちも、ホームズと同様に確証のないものは信じない性質でありんす」
「俺もだな。それに、これぐらい肝が据わっていないと男はダメだな」
「はあ、もう、勝手にして」
ウミは頭に右手を添えると左手を伸ばして芋焼酎をがぶ飲みした。
「でも、ホームズが限界そうだったら、絶対止めるからね」
「おう。でも、僕とて急いで適応をするつもりはないよ。時間はたっぷりある」
ウミはもう一度ため息を吐くとカラワラとネキを交互に睨んだ。
「二人がホームズに完全に乗り気にさせたんだからね」
カラワラとネキは二人揃ってウミから視線を逸らしてホームズを見た。こういうところを見るとやはり、双子の姉弟なのだと思わせる。
「じゃあ、星のことは分かった。でも、そんなことより、問題は、ワトソン」
「ホームズ。何がトリガーだった?」
「トリガーはワトソンに具体的に未来をイメージさせること。だから、さっきみたいなことが、二度三度起こることはない。もし、次にワトソンが未来を具体的にイメージする瞬間があるとすれば、状況が明らかに進展したときのみだ」
「凄い自信でありんすね」
「当たり前さ。僕はワトソンの兄貴なんだから。誰よりも分かってる」
ああ、ワトソンのことを全部背負おうとしている。
ウミはホームズのその在り方にやりきれない思いを感じて泣きそうになるのを必死に耐えた。そんなウミの感情を悟ってカラワラとネキがウミの手を握った。
「大丈夫だ」「大丈夫でありんすよ」
「俺たちがしっかりと手綱を握るから」
「ですから、もしも失敗しそうになった時は、ウミが無理やり軌道修正しておくんなし」
二人の自信に満ち溢れた表情を見ると、ウミはいつも心を動かされる。
ああ、どうしたって、この姉弟には敵わない。何とかなるって思っちゃう。
「ホームズ。覚悟はあるの?」
「もちのろん。僕が必ずワトソンの心を救って、デストロイを殺す」
「はあ。ホームズ、おいで」
ウミは両手を広げて浮遊して近づいたホームズをギュッと力いっぱい抱きしめた。
真面に会話ができて、実力も確かな愛息子は、時折、忘れてしまうけど、二歳の、ワトソンの双子の兄なのだ。
「絶対に無理しないでね」
「しないさ。時間は余るほどあるんだから」
翌朝。ホームズは先に目を覚ました。ネキ、ウミ、ワトソン、ホームズ、カラワラと並んで寝ていた。
視界に入ったのはいつも通り、ワトソン。だが、そのワトソンの寝顔はどこか悲しそうに見えた。
「おはよ、ホームズ」
ウミは寝ていなかったのか目にクマできていた。横になってワトソンのお腹をポンポンと叩いていた。寝ていなかったのはウミだけではなかった。カラワラもネキもだった。仰向けに寝転び天井の一点を見つめていた。
「うん。おはよう」
「ホームズ。そんな顔をしてたら、ダメ。未来に抗うんだから、前を向かないと。にーっ」
ウミは大げさに口角を上げて歯を見せた。だから、ホームズも両頬を解して口角を上げた。
「うん。バッチリ」
「ちょっと、外、歩いて来る」
「いってらっしゃい」
ホームズはゆっくりと立ち上がるとカラワラも立ち上がった。
「行くか」
「ホームズ。少し手助けをしてやろう」
山頂から、フロンティアの豊かな自然を眺めて、ぼーとしていたホームズにカラワラは少々悪い笑みを浮かべて言った。
「力は使い方。これは正しい。だが、前提条件がある」
「前提条件?」
「自分がどんな力を持っているのかをちゃんと理解しなければならない。だから、そこを助けてやる」
「何をしてくれるの?」
「出でよ、シャトラ」
目の前には二メートル近くある牛人が現れた。体格は大きく引き締まっていた。手には大槌を持っていた。極端に皿の大きさが違うかった。
「ホームズ。オーラを纏え」
ホームズは言われるがまま纏った。すると、シャトラはホームズに触れてたくさんの情報を流した。そして、何度も皿が小さい方でホームズを叩きまくった。体中が痣だらけになった。
だが、
何だ!!???肉体をオーラをシックスセンスを急速に理解して行く。そして、ーーーーーーー強くなっている!?
「どうだ?今までにない感覚だろう。それが、成長をするという感覚だ。おまけだ。出でよ、ハイラ」
今度は弓矢を背負った龍が現れた。龍はホームズに触れた。
今度は・・・全ての強度が上がってる!?
「よし、もういいぞ、シャトラ、ハイラ。だが、今日から結構、こき使うからな」
牛人と龍は嫌そうに背中をのけ反っていたが、カラワラが撫でると消えた。
「ホームズ、どうだ?」
「うん。確実に強くなってる。それに、ほら」
ホームズはシックスセンスを使わずにオーラを消費するだけで肉体を治癒して見せた。
「さすがだな。これは個人差が出るんだが、ポテンシャルが高いからか、かなり、強くなっている」
「個人差?」
「ああ。理論上では俺の全ての式神を合わせればいくらでも強くなれる。だが、限界値と言うものは存在する。だから、二歳のホームズがここまで強くなったのはポテンシャルの高さをそれだけ表しているんだよ。まあ、俺の子だからな」
「やっぱり、凄いね、父さんのシックスセンスは」
「当たり前だ。正直、俺とホームズのシックスセンスを上手いこと組み合わせればどこまでだって強くなれるが、それはしない。強い奴を探すシックスセンスの持ち主がいたらマズイからな」
「父さんは底上げしないの?」
「俺は十分に上げている。それに、力が強すぎると言うのも困りものでもあるんだぞ」
「どう言うこと?」
カラワラは足元に落ちていた手のひらサイズの小石を拾った。それをホームズに投げ渡した。
「オーラを軽く纏って投げて見ろ。全力で。確か、前はあの滝が流れているところの崖まで届いていなかったよな」
「えっと、うん。じゃあ、投げるよ」
ホームズは軽くオーラを纏い、投げた、はずだった。石を握りつぶしてしまった。
「力加減の調整が難しくなるんだ。今はこれぐらいで済んでいるが、力を付け過ぎると更に難しくなる。だから、力の使い方を極めるには力を抜くことも極めないといけないんだ」
「なるほど」
ホームズは足元の石を握ってオーラを軽く纏って投げた。一直線のライナーが崖にめり込んだ。鉱石に当たったのか甲高い音が響いた。
「まあ、こういうことだ。さて、朝日も、まあまあ、昇って来たし帰るか」
「うん」
「「ただいま」」
カラワラの後に続いてリビングに入ったホームズはいつもの癖で足を止めていた。だから、ワトソンが静かに椅子に座っているのを見て心がギュッとなった。
「遅い。もう、とっくに出来上がってたよ」
ウミがカラワラに顔を近付けてジト目で睨んだ。
「悪かった。じゃあ、食べよう、ホームズ?」
カラワラはホームズが足を止めていたのを気付いたふりをして話し掛けた。
「ああ、ごめん」
ホームズはいつも通りワトソンの隣に座ろうと足を運ばせるとワトソンは隣のネキに抱き着いて顔を埋めた。
視線も合わない。
ホームズはこの変化に心臓の鼓動が速くなった。バクバクと胸を打つその音に唾をごくりと飲んだ。
「ホームズ。今日はウミの隣で食べよっか」
いつの間にか、目の前でしゃがんでいたウミがホームズの両頬を押し潰してグリグリした。そして、ホームズにだけ聞こえる声で優しく話し掛けた。
「笑って。大丈夫。きっと、すぐに、ワトソンと仲直りできる」
「ホント?」
「もちろん」
ホームズは目を瞑って大きく深呼吸をした。そして、目を見開くと、ワトソンはカラワラとネキに挟まれて座っていた。
「我慢だ。僕がワトソンの想像を遥かに超えて、昨日までみたいに、昨日まで以上に仲良くなるんだ」
「よしよし」
ウミはホームズの頭をクシャクシャに掻いてから抱っこするとワトソンたちの向かい側に座り、隣にホームズを降ろした。
ウミの「せーの」の合図で皆、手を合わせた。ワトソンの目元は腫れていた。今朝もいっぱい泣いたのだろう。それを見て、一度、心臓が強く跳ねたが、今度は、上手いこと取り繕った。
「「「「「いただきます」」」」」




