第一章 21 ツリトの子孫は狙われる
「お前らはエリアファイブアウトで暮らせ。専門家がいた方がいいだろう」
鬼龍と超龍、超竜がツリトに懐いて鳴いていた。
「また、会いに来るから。じゃあね」
エリアファイブアウトに瞬間移動をさせた。
「さて、報告しに行くか」
ゼウスは先に帰ってネキたちに状況を説明していた。ツリトは寄りたいところがあった。
「ただいま。母さん、父さん。とりあえず、一括り着いた」
ツリトは直接報告しに行っていた。ずっとこの瞬間を待っていたのだから。記憶を遡りゆっくりと思い出を引き出して自然と涙を流した。
「僕は、強く生きているよ。じゃあね」
ツリトは涙を拭って立ち上がり家に帰ろうとした。だが、立つことができなかった。まだ、思い出に、感傷に浸りたかったからでもある。だが、一番の理由は別だった。
「終わったね」
「ど、どうして?」
「うん。絶対すぐにここに来るって思ってたから。ツリトが真っ先に報告したい人はカシャたちじゃないって思ってたからさ」
「そっか。そうか」
「ねえ。ツリト。過去とお別れできた?執着はもうない?」
「おう。もうない。無くなった。さっき」
「そっか。じゃあ、帰ろう」
カシャがツリトを後ろから抱擁するのを止めた。そして、横に並んだ。
「待って」
ツリトはカシャの手を取るとニッコリと笑った。
「どうしたの?」
ツリトはカシャにキスをした。カシャは最初はアタフタしたがすぐに気を取り繕って受け入れた。
「ありがと。ツリト」
「僕は君が好きだ」
「カシャも。カシャはツリトのこと大好きだよ」
今度はカシャからツリトにキスをした。
「おかえり、ツリト君。ホントに強くなってるね」
家に帰りドアを開けると玄関からルリが一直線にダイブして来た。
ツリトはルリを抱きしめ返すと頭をポンポンとした。
「ただいま。うん。魂の熟知。オーラの認識度がかなり上がった」
「そっか。・・・ん?カシャちゃん、どうしたの?顔赤いよ」
「べ、別に?」
「ふーん。ツリト君、先に皆のところ行ってて。ちょっと、カシャちゃんと話したいから」
ツリトはルリに言われるがまま、皆のところに行った。そして、カシャはルリと相対した。
「カシャちゃん。言いたいこと分かるよね」
「うん。ツリトがナスに直接伝えるまで隠す」
「絶対よ。ナスの前でさっきみたいな態度は止めてね」
「うん」
「よし、よろしい」
ナスはピョンピョン跳ねてカシャの頭に手を伸ばした。カシャはしゃがんで頭を撫でられることで絶対に約束を守る意志を示した。
日が暮れて、ゼウスがパーティーから抜け出して、ツリトはネキと二人きりになった。ネキは焼酎を注いで話し掛けた。
「ホームズの言葉を聞いたみたいでありんすね」
「うん。どうやら、イカれてるね」
「みたいでありんすね。孫の顔が楽しみでありんす」
「孫?」
「ええ。孫でありんす。ツリトがカシャと結ばれたことは分かっているでありんす。となると、ツリトとカシャの間にできた子供が神龍の子と結ばれることを期待するしかありんせん」
「もしかして、狙ってる?ホームズの生まれ変わりを」
「さあ、どうでありんしょう?ですが、よく、『悟り』を開きんした。フロンティアの王に一歩近づきんしたね」
「・・・・・・。あっ、そっか。そうだね。うん。これで、専念できるね。僕の目標を具体的に持たないとね。フロンティアの王からゼウスを引きずり降ろそう!」
「フフフ。頑張っておくんなし」
「うん。しかし、どうしようか」
「恋する乙女にはキッパリと言う方が良いでありんす」
「そうか。じゃあ、キッパリ言うよ。ネキ。僕の子孫を狙っても良いよ」
ネキは目を大きく丸くして驚いた。
「独りは辛いだろ」
「では、遠慮なく」
ツリトが一人で温泉に入っていたら、ナスが入って来た。少しの沈黙が流れた。
「ねえ。ツリト君。ナスのこと好き?」
「好きではある。でも、愛してるではない」
ナスは心臓が強く跳ねて息を呑んだ。
「・・・・・・。そっか。ねえ、一回だけキスをさせて」
「できない。引きずるだろ?」
「もう、ツリト以外、ナスは考えられないよ」
「ごめん」
ナスは泣き出した。大声を上げてギャン泣きだ。ツリトの胸を借りて泣こうとしたが、ツリトが肩を掴んで距離を取った。
ナスはいっぱい泣いて涙が枯れ尽くした頃に顔を上げた。腫らした目を開けてナスは宣言した。
「絶対、ツリト君の子孫と結ばれてやるんだからっ!」
ナスは震えながらツリトを見つめた。ナスの惨めにならないための最後の意地のつもりだった。
だが、ツリトの答えはあっさりとしていて、呆気に取られるもので、拍子抜けしてしまうものだった。
「うん。良いんじゃない。でも、もし、僕とカシャの子供が女の子だったらどうするのさ?」
「は?・・・・・・。良いの?って何言ってるの!」
「いや、ホントに構わないよ。夜這いをしないのならね」
「こっ、後悔するよ!」
「にしし」
ナスは顔を真っ赤にしてジト目でツリトを睨んだ。
「いや、ホントに構わない。ネキにも言ったし」
「からかうのは止めてよっ!」
「いや、マジのマジ」
ナスは口いっぱいに空気を溜めて立ち上がった。
「にしし。元気になったね。でも、マジのマジだから」
「もう良いっ!」
ナスは背を向けて温泉から上がり、振り返った。
「本気で狙っちゃうからね」
ナスはツリトにせめてもの抵抗として言った。そして、フラれると分かっていたから常に携帯していたエルフの花を着替えのポケットから取り出した。そして、ツリトに見られながら食べた。
エルフの花は体に影響が出ない。外傷を除いては。ナスは不老不死となった。
さすがにツリトは引いた。だが、すぐに案外良いんじゃね、とも思った。
「多分、ルリも狙ってると思うから、三人で仲良くね」
この言葉は尚のこと、ナスを本気にさせた。
「夜這いでも何でも、結ばれてやるわっ!」
ナスは筋肉を収縮して力を抜くと体の水分を飛ばした。そして、着替えるとわざとに地響きが起こるようにして歩いて帰って行った。
少し時間が経った頃、カシャがやって来た。甘い雰囲気に包まれた。
そろそろ、ブックマークと★★★★★が欲しいってばよ。