第一章 19 最悪な攻撃
「僕を舐めるよ」
ツリトは左右から回り込んで迫り来るペガサスに似た超獣とゴリラをコンパクト化したような超獣に挟まれた時、鋭い斬撃を心子玉を狙って飛ばした。
ゴリラは掠り傷程度で済み、ペガサスは斬撃を分解することで威力を抑えて後ろに少し飛ばされる程度だった。
ツリトはすぐに追加反撃をするつもりだったが、シヘンは水を手のひらで圧縮した攻撃をツリトの胸を目掛けて飛ばして来た。
ツリトは瞬間移動をしてゴリラの背後を取るとゴリラの心臓の位置に手をやってゼロ距離からの鋭い斬撃を飛ばした。その斬撃は心子玉を捉えていた。
「肉体の強度を上げるだけなら、僕には勝てないよ?」
「フン。やはり、厳しいか。なら、全てを使おう」
ツリトは瞬間移動をしてペガサスの心子玉を斬った瞬間、シヘンは指笛を鳴らした。すると、シヘンの後ろから大量の超獣が現れた。馬のように速く走り象以上に鼻の長い超獣、以後象、千手兎人、八蛇、孔雀、などなどの比較的体積、表面積の大きい超獣が大量に現れた。
「逃げる気か?真正面から掛かって来いよ雑魚!」
ツリトは大声で叫んだ。シヘンが現れないことは分かっている。その上で挑発した。
ツリトが昨日、ネキから超獣は魂の依り代だから、領域内で魂の逃げ場を失くしてシヘンを確実に殺した方が良いと聞いた。その時、何となくだが、領域展開をすると負けると思った。
理由はいくつかあるが、最も大きな理由が戦いの中で一番気が緩む瞬間になる。何が来るか分からない状況で確信できたのはそれだった。だから、
「言ったろ。一直線は無理になるが、綺麗なデスロードを作ってやるさ。簡易領域」
ツリトは全ての超獣が範囲内に収まるように影を伸ばした。そして、魂を斬り刻むまで無数の斬撃を飛ばし続けた。
「さて、何をするつもりだ?」
ツリトは次々と血潮が上がる中、シヘンの魂を探した。
「やっぱり、魂の輪郭も中身も変えてやがる」
シヘンは超獣を作る過程でたくさんの魂に触れた。だから、魂の輪郭を変えることも中身を変えることも容易になっていた。ツリトがシヘンを探していた時、上空から唸り声が聞こえた。その泣き声は間違いなく、龍だった。ツリトは上を見上げた。
「邪龍を作り出したか。これが、超獣の目的か」
邪龍が体を反った。
「この邪龍は超人のような筋力か。反り過ぎ」
頭と尾をくっつけていた。そして、口を膨らませていた。
「『爆弾』。さて、勿体ないことはしたくないな」
『爆弾』。超人が筋肉を極限まで収縮して力を一点に溜めて一気に解き放つ技。それは、かつて、ソーがサイコキネシスをしながら高速の空中移動を行った技。それの龍のバージョン。殺すのは勿体ない。
超人の力を持つ邪龍。超龍と呼ぼう。超龍が大きく口を開いた。
「超龍の咆哮。さて、どんなもんか」
ツリトは笑った。超龍は咆哮を放った。ツリトが作った血の水溜り全体を吹き飛ばす咆哮だ。ツリトは全力の鋭い斬撃を一閃。咆哮に放った。衝突して爆発が起こった。ツリトが煙を空気砲のような斬撃で飛ばすと超龍がしなって尾を地面に叩き落とそうとしていた。
「やれやれ。さすがに、コモドドラゴンの魂を弄るのは至難の業だったか」
コモドドラゴン。竜と龍の元となる生物だ。シックスセンスは丸呑みした生物の特徴を体に反映する。だから、たくさんの魂を融合している。
シヘンは超獣を作る時、自分の魂を複写してその欠片を埋め込んでいる。つまり、超獣は今、操られているが、少し、魂を削ってあげたら、支配されなくなる可能性が高い。ツリトが瞬間移動をしようとした時、衝撃がツリトの全身に襲った。
「っ!?」
ツリトは頭から超龍の尾の攻撃を、前からはどこから来たのか分からない衝撃が走った。その威力は甚大で、咄嗟にオーラの量を増やして練度を上げて斬撃を纏ったツリトを以ってしても大量の血を流すほどだった。
ツリトはすぐに体を治癒させた。
「にしし。いいね。僕も本気が出せそうだ」
だが、超龍もまた、ダメージを負った。尾から大量の血を流していた。傷はすぐに回復されているが唸り声を上げている。
そして、ツリトの目の前にはもう一匹の邪竜がいた。その竜は大きく背中を反っていた。頭と尾がくっついていた。二打撃目を狙っているみたいだ。ただ、
「『爆弾』」
超竜だった。ツリトは超龍と超竜を同時に相手をすることとなった。しかも、ツリト自身が課した枷、シヘンの支配から解放をさせるというタスクをクリアも含めて
「にしし。最高に面白いね」
ツリトは瞬間移動をして超竜に横から触れた。超竜は尾をツリトを払うようにして体を捻った。だが、ツリトが斬撃を飛ばす方が早く、超竜の魂だけを削った。超竜は苦しんで唸り声を上げた。その瞬間、超竜ごと、ツリトを狙った超龍の咆哮を放とうとしていた。
「っとに。バカかよ」
ツリトは鋭い斬撃を一閃、超龍の魂を目掛けて飛ばした。
ツリトは斬る対象を選べるように成長をしていた。
ツリトが飛ばした斬撃の一閃は超龍の魂を削った。超龍は唸り声を上げた。
「さて、追いかけるか」
ツリトは瞬間移動をして奥に逃げたシヘンを追おうとした時、奥からたくさんの千手兎人が現れた。
「うん。いきなりの戦力ダウンか?」
ツリトが斬撃を飛ばそうとした時、千手兎人の魂が燃えた。
「何だ!?魂が燃えてるのに、魂の熟知が進んでる?オーラの、分子の、原子の認識度が上がってる」
あり得ないことだ。死に行こうとしているのにオーラの認識度が上がっているのだから。
「とりあえず、今はそんなことより、弔ってやらねえと。簡易領域」
ツリトは影を伸ばして魂を斬る斬撃を無数に飛ばした。先ほどは肉体を斬り刻んで心子玉を斬っていた。だが、今回は肉体を斬り刻まずに直接、心子玉を斬る斬撃だ。
斬る対象の選択。
当然だが、通常よりも多少多い斬撃を飛ばす。今ぐらいのならば、何度来たって体力は持つ。ただ、
「もし、邪竜どもの魂も燃やしていたらーーーー待てよ、燃やす。そう言うことか」
なぜ、千手兎人の魂の熟知が進んでいたのか。それは、魂が燃えていたから。そもそも、シヘンの成功作だから。否。一番の理由は魂の価値の低下だ。魂の容量が減ったことにより、認識度が上がったのだ。魂を分母、認識を分子とする分数掛ける百=オーラの認識度と考えると分かりやすい。ツリトはずっと分子を上げる努力をしていたが、シヘンは超獣たちを分母を減らすことで認識度を上げさせていたのだ。これにより、千手兎人は時間が経てばすぐに死ぬが爆発的な力を手に入れていたのだ。
ツリトは増々、シヘンを嫌いになった。そして、憤怒した。ツリトは斬撃を纏うと別の斬撃で自分を押して、シヘンに一直線に向かった。その間に見えた超獣は殺しながら。
「ああ。クソッたれ。どこまで命を冒涜すれば気が済むんだ!」
ツリトがシヘンの元に辿り着いた時、たくさんのシヘンがいるように思えた。だが、実際にツリトの視界に映ったのは角の生えた先手兎人だった。ただ、その見た目は今までのものと違い赤く染めていて大量の血を流していた。そして、先手兎人の足元を走ってシヘンは再び逃げた。
「クソッたれ。鬼の力を落とし込むために自分の魂の割合を多くしたのか」
ツリトが簡易領域を展開しようとした時、魂が燃えた。そしてたくさんの先手兎人が両手で挟もうとしたり、上から叩き潰そうとしたり、ジャンプして踏み潰そうとしたりを一斉に行った。たくさんの樹が風圧で粉々に砕け、そして枝や砂もツリトに目掛けて飛んで来た。
「っとに、鬼の力は凄いね」
ツリトは自身に纏う斬撃を細かく、そして、最大限にしながら、空気砲のような斬撃で先手兎人のもたらした攻撃を緩和させた。ツリトは無傷で済み、大ジャンプをしていた先手兎人よりも上空に瞬間移動をして浮遊した。
「楽にしてあげるさ。今も内臓は壊れては治しているのを感じる。いきなり、角を二本生やしているんだ。ナスですら、かなり時間を掛けて鬼神の力を手に入れたってのに」
ナスは十歳の時に鬼神の力を手に入れた。鬼花を二輪目喰ったのが十歳の時だった。花弁を切り分けて少しずつ食べて力を得た。ナスの体は純鬼ではないが、耐久力は並外れている。そのナスがゆっくりと体に慣らしたものをおそらく一瞬にして体内にいれている。余談だが、ナスの頭に二本の角を可愛くないからと言って頭に閉まっている。
ツリトが斬撃を飛ばそうとした時、先手兎人たちの魂が燃えた。
「ああ、マズいね」
ツリトが斬撃を飛ばした時、二本の角が削れて、先手兎人のオーラ量が増えて、肉体の強度を上げた。
「ああ、酷い。酷すぎる」
ツリトが一匹目の先手兎人の魂を斬った時、爆発した。その爆発は連鎖的に広がり大爆発を起こした。ツリトはその瞬間、空気砲のような斬撃で炎を上空に飛ばして山火事を止めた。自身を襲う炎は纏っている斬撃で消し飛ばした。
「この爆発のために鬼の力を与えて、魂も燃やしたのか。このまま、ジリ貧で逃げ続ける気か?」
ツリトは瞬間移動で上空に移動した。シヘンはコモドドラゴンに無理やり超獣たちを食わしていた。いずれも、鬼になることを失敗して死んでしまったものだ。どうやら、死んでも体の特徴を自身の体に反映できるようだ。
ここで、鬼花を食べた生物が鬼になるメカニズムを語る。鬼花は簡単に言えば強靭な肉体を手に入れることができる。鬼花のエネルギーを体で循環させることにより、超パワーを出すことができる。決して体外にエネルギーはもれない。では、エネルギーがどこに保管されることによって死者が出るのか?答えは簡単、普段は魂に纏わり付いている。つまり、鬼花を食べて死ぬと言うことは、魂を喰われると言うことだ。鬼花は魂を一度、本気で喰おうとする。失敗すれば、喰うのを諦める。ただ、もう一輪、鬼花を喰った時、二輪の鬼花のエネルギーが魂を喰おうとするのだ。つまり、鬼神は二輪の鬼花のエネルギーに魂を耐えた鬼のことを言うのだ。
で、何が言いたいかと言うと、鬼花が一度魂を喰った後、どうなるのか?と言うことだ。
答えはーーーー
「キィァァァァァァァァァァァァ」
魂はコモドドラゴンのものしかないが、その魂にたくさんの鬼花のエネルギーが纏われた。そして、肉体は超獣たちの特徴を得た。鬼龍となった。ただ、鬼龍はシヘンに先にシヘンの複製された魂の欠片を融合させられていた。
「全く。やれやれ。厄介この上ない」
ツリトはこの鬼龍も助けることに決めた。
だが、その前にシヘンにこれ以上の超獣を作ることを止めなければならない。ツリトはシヘンに魂を斬る斬撃を放った。すると、別の超獣と場所が入れ替わった。
「はあ」
思わずため息が出た。
「やれやれ。前哨戦を永遠にしなきゃならんとは」
鬼龍がツリトに咆哮を飛ばした。それは、ノーモーションでの咆哮だった。にも拘わらず、先ほどの、超龍の咆哮よりも強く速い。
「にしし」
ツリトはオーラ量を増やして鋭く大きな斬撃の一閃でその咆哮を真っ二つに斬った。
「危ない危ない」
ツリトは鬼龍に付着しているシヘンの魂の欠片を削った。そして、シヘンの真ん前に瞬間移動をした。シヘンは再び超獣を作っていたが、ツリトはもう待つことを止めた。
シヘンの魂を狙った斬撃を無数に飛ばした。やはり、ツリトとシヘンの間に超獣が次々と入ってシヘンを庇う。やがて、死体の山が積み重なった。ツリトは死体の山を空気砲のような斬撃で飛ばして全ての超獣を斬り刻んだ。死体の山に囲まれて、ツリトとシヘンが向き合った。
「さて、前哨戦。デモンストレーションが終わった。いよいよ、本番だな」
「フン。全ての超獣を殺したか。どうして、俺が戦わないと行けない?」
「は?」
「よくよく、考えて見ろ。俺は超獣を作り出していただけだ。俺自体が人間を傷付けたことはほとんどない。俺はただ、超獣を作っていただけだ」
「はあ。もういい。お前を殺す」
「悪いが無理だ。俺が全ての超獣を失わせてまで、お前と戦った理由。それは、確実にお前を殺すため以外ない。死んでくれ」
シヘンが瞬間移動をした瞬間、地面から強い衝撃を受けた。オーラだ。河童の拍手のように体内のオーラを弾かない。あれは、空気とオーラを圧縮するからできる技だ。ただのオーラをぶつけられた。ただ、シヘンが複写した魂も直接ぶつけられた。
ツリトは内臓が潰れるほどの衝撃を食らい、意識が失ってしまいそうなほど魂を揺さぶられた。
大ダメージだ。
ツリトは地面を見た。銃身が異様に長い大きな銃の銃口が向いていた。そのトリガーは砂袋の重りによって放たれていた。
クソッたれ。たくさんの超獣を僕に殺させたのはこのためか。
シヘンはずっとこの瞬間を待っていた。超獣は簡単に殺されると踏んでいた。だから、昨日からなるべく多くの超獣を作った。理由は簡単だ。死んですぐの生物は体内のオーラを輩出するのに時間が掛かる。つまり、オーラが霧散して一人一人のオーラを正確に把握できなくなる。そのため、地面に仕掛けがあったことに気が付かなかったのだ。
シヘンは瞬間移動をして銃を握った。銃は見る見る内に小さくなった。そして、構えた。
「さすがは、デストロイ様だな。このエージソンシリーズインフィニティーアルファー『神速のライフル』の攻撃に全く反応ができていなかった。食らえ。俺の勝ちだ」
絶望的な状況だ。だが、ツリトは笑った。
「にしし」
「フン。こんなものいつもの修業と比べたら大したことではないな。ツリト」
上空でずっと見ていたゼウスもまた、笑った。