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TSURITO-繋げる未来  作者: カバの牢獄
第一章 強く生きたい
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第一章 15 大事な人

「おかえり、ツリト君」


 ツリトがドアを開けて帰るとルリがすぐに抱き着いて来た。朝日が昇り始めた頃にツリトは帰って来ていた。所謂朝帰りだ。ツリトはナスに朝まで酒を飲まされて引き留められていた。だから、ルリはずっとヤキモキしていて起きていたのだ。ルリはラフな緩い寝間着を来ていた。


「もしかして、ヤっちゃった?」

「何を?・・・ヤってない!」


 ルリは大きく胸を撫で下ろした。


「もしかして、ナスを眠らせた?」

「うん。鼻を摘まんで口を押さえて」

「きっ、キスしたの⁉︎」

「してない。手で押さえた」

「そっか。ナスちゃんは鬼だから酒はエネルギーに変わるけど、ツリト君は河童だからね。もしかしたら、気の迷いで一線を越えちゃうかもって」

「そこは大丈夫。アルコールは抜けるから」


 河童は体の特性を生かしてアルコールを抜ける。荒業だが、深く息を吐いて呼吸を止めるだけだ。皮膚からも空気を吐き出すと、代謝の熱が逃げる場所が少なくなり、心拍数も上がる。


 ここで、重要なのは河童の心拍数で河童は極端に心拍数が少ないと言うことだ。河童の心拍数は一分間に十回も行かないのが普通である。では、どうして、そんなことができるかと言うと特別な酸素を作れると言うのと皮膚からも途中で酸素を吸収できる特性があるからだった。そのため、河童の心拍数が上がると普通の人よりも体温上昇をしやすいのだ。


 つまりは、アルコールを蒸留させるのだ。


「そっかそっか。もう、朝だし、朝温泉に行く?」

「うん。眠気覚ましと休息に丁度良いしね」




「「「いただきます」」」


 朝温泉に途中からネキも合流して三人でゆっくりした後、朝食を食べることとなった。先に上がって暇だったツリトが三人分の朝食を作った。と言ってもパンを焼いて蜂蜜を塗ったものと、猪肉と卵を使ったベーコンエッグ的なもの、そして、ネキ特製のスープの残り物だ。ネキ特製のスープはツリトの大好物だが、ツリトは実際に作っているところは見たことない。だから、おそらく、この食材を使っているのではなかろうか?程度の認識しかできていない。


「ツリト、少し焦げ目が付きすぎでありんす。次からはもう少し、魔晶石に流すオーラの量を少なくしておくんなし」


 魔晶石は基本、火、水、風、雷の四つが有名である。そして、火の魔晶石は、よく、フロンティアで使われている。


 ネキは意外と料理に厳しい。今では、ルリにほとんどの料理を任せているが、最初の内はこっ酷く怒られていたものだ。


「うん。僕も焼きすぎだって思ってたから敢えてネキに出した」

「ツリト。今日は寝れないと覚悟するなんし」

「ルリも道連れじゃん」

「何で、ルリまで⁉︎」




「ごめん。待った?」

「おう。まあまあ、待った」

「そっかそっか。じゃあ、行く?」

「まあ、うん」




「わっ!動いた」


 カシャはツリトを膝枕して湖を見ていた。そして、たった今、湖から超巨大魚が跳ね出て来た。

 カシャとツリトがいたのはエリアトゥーアウトだ。河童の村の更に奥にある場所だ。目の前の湖は幻の湖と呼ばれていて超巨大魚がたくさん生息されている。


「ホントだ。いつ見てもデカいな」

「うん。いつ跳ね出て来るか分からないこのドキドキ、凄く良いよね」

「おう」


 カシャがツリトと一緒に湖でゆっくり過ごすのは二年前ぐらいから始まった。四年ほどで、ほとんどの場所を見て回ったこと、ツリトが人見知りで深く周りと関わろうとしなかったことが、この終活をしている老夫婦のようなデートになった理由だった。過去、数回、湖の中に潜って超巨大魚を近くで見たことはあるが、深くは潜ることはしなかった。理由としては超巨大魚が増えたと言うこと、そこまで、面白みがなかったということ、そして、危険度が増したと言うことだった。


「次はどっちの方向から跳ね上がるかな」

「僕は左かな」

「じゃあ、カシャは右」


 沈黙が流れた。


「ねえ、昨日、ナスと何時までいたの?」

「朝まで酒に付き合わされた」

「そっか。じゃあ、寝てて良いよ。昼には起こすからさ」

「おう。お願い」


 ツリトはカシャの膝上で深く眠りに就いた。


「あらら、ホントに寝ちゃった。ツリトの話じゃ、多分ナスは酔っぱらってる。きっと千里眼でも見られてない」


 カシャはソワソワして首を左右に動かした。辺りには誰もいない。そもそもツリトが人見知りで誰もいない場所を選んでいたのだから。


「我慢できそうにない。ごめんね」


 カシャはゆっくりと顔を下げてツリトにキスをした。唇が触れ合ってすぐに離れた。顔を真っ赤に染めて誰もいないと分かっているがついつい辺りを確認してしまう。


「もう一回?」


 カシャはまたまた、辺りを確認した。そして、誰もいないことを確認するとゆっくりと顔を下げてキスをしようとーーーー


 パシャッ


 カシャは我に返ってキスをするのを止めた。




「あっ、起きた」


 目を覚ましたツリトの顔をカシャが覗き込んだ。ツリトは思わず顔を赤く染めてカシャの太ももに頬を付けて横を向いた。カシャはそんなツリトの反応を見て嬉しくなった。


「お昼ご飯食べよっ」

「おっ、おう」


 カシャは持って来ていたサンドウィッチを取り出した。タマゴサンドとフィッシュサンドとカツサンドだった。それぞれ二つずつあった。カシャはタマゴサンドを一つ取るとツリトの口元に運んだ。


「えっ、いや・・・」


 カシャはツリトに構わず口に突っ込んだ。


「どう?」

「おいしい」

「そっかそっか」


 カシャはツリトが齧ったタマゴサンドを自分の口に運んだ。


「何で、二つあるのに僕の食べかけを食べるのさ?」

「嫌?」

「嫌ってわけじゃないけど・・・」

「なら、良いじゃん。ファーストタッチが全然違うんだよ」

「それは、僕の食べかけだからで・・・」

「五月蠅い」


 カシャはツリトの口にフィッシュサンドを突っ込んだ。




「食べたね」

「おう。湖潜る?」

「かなり、奥まで進める自信があるの?」

「うん。多分、体力は持つと思う」

「ちゃんと、カシャを守ってね」

「おう。僕がカシャを守るさ」




「ねえ、ツリト。前潜った時より、大きくなってない?」


 ツリトとカシャは湖の中で話していた。


 これは、河童の特性の一つだ。水の中でも会話ができる。河童は水の中に入ると皮膚呼吸で得た水の中の酸素を肺に回し、そして、話す時は直接、骨に響かせるように自動的にシックスセンスが働くのだ。これにより、ずっと水の中に潜れるし話すことも苦にならない。


 もう一つある。暗闇でも視界をクリアに、そして、明るく見ることのできる目になるシックスセンスだ。水深が深くなればなるほど、海の中は暗くなるため、結構便利なのだ。


 河童は水の中でこそ真価を発揮する。


「おう。超巨大魚ね。確かに大きくなってるね。でも、僕たちの目的はこれじゃない。もっと奥深くだ」

「ねえ、危険になった時はすぐに戻るよ」

「おう。今回もお願い」


 カシャのシックスセンスは凝縮だった。小さく圧縮する。カシャはオーラに干渉することができるようになっていた。そのため、ツリトの斬撃の手伝いをすることができる。


「一昨日、ゼウスと修業してかなり成長したからね。きっと行ける気がするんだ」


 カシャはツリトに抱き着いた。腰に脚を回して脇の下に手を回して後ろから抱き着いた。そしてお互いにオーラを纏った。


 ツリトは自己完結型のオーラを消費してカシャも含めて自分と定義して斬撃を纏った。


 カシャは魂を掴めていないため、認識はしていないが、他者完結型のオーラの割合が多くなるように成長していた。自然と他者完結型のオーラを消費してツリトのオーラを凝縮した。


 これにより、ツリトは勢いの強い斬撃を飛ばせるようになった。そして、深く潜り始めた。


「相変わらず、水圧もだけど、押して来るな」


 ツリトたちは上以外の四方八方から強い水流に押されていた。


「ホント。誰がこんなことしてるんだろ」


 その後も深く深く潜って行き、ツリトは息切れを起こして来た。


「クソッ。深くまで行けたけど、これ以上は・・・」

「もし、もし、この水流の動力源がこの水流自体だったらーーーー」

「何を言いたいの?」

「つまり、オーラとシックスセンスが永遠にこの場所を行き来してるとしたらーーーー」

「ああ、そう言うことか」

「ここは、エリアトゥーアウト。河童の村の更に奥にある場所。つまり、河童の拍手でこの水流は止むんじゃないかな?」

「さすがだね、カシャ」

「後で、御褒美頂戴ね」

「おーーーーーーーーーーーーーーー」

「絶対よ」

「おう」


 ツリトは後で何をされるか分からない恐怖を棚上げして覚悟を決めた。


「じゃあ、お互いにオーラ量はもうほとんどないけど頑張ろっか。僕がオーラ量と質を上げて変質をするね。カシャはそのまま僕のオーラを凝縮し続けて」


 ツリトはカシャのオーラも含めて、オーラ量を増やして分子の大きさを大きくした。そして、剣を握って全ての原子を他者完結型に変えた。そして剣を再びしまった。


「手を握ろう」

「手?」


 カシャは首を傾げながらもツリトから離れて手を握った。


「2人で息を合わせてやるよ」

「うん」


 カシャはツリトと手を繋いでいる手を恋人繋ぎに変えた。ツリトは一瞬ビクッとしたが、それを受け入れた。二人は体を膨らました。そして背中を合わせてお互いの手の甲を合わせた。丁度、ツリトたちが纏っていた斬撃が切れた。


「「行くよ」」


 二人は体を半回転させて合わせる手に空気とオーラを移動させて拍手した。


 水流が止まった。そして、何か透明の膜があるのが見えた。


「ツリト!」


 カシャはツリトの顔を覗き込んだ。


 ツリトは泣いていた。湖の中にいるが間違いなく泣いていた。やがて、声を上げて泣き始めた。


「ツリト?」


 カシャは透明の膜を目を凝らして見た。何も見えなかった。だから、ツリトが泣いている理由を必死に探して一つの推測を立てた。



 ああ、もしかして、最期にツリトの母さんと父さんはこれをしていたのかも。



 カシャは我慢して泣かなかった。ツリトを抱きしめて慰めた。また、水流が復活したが、関係ない。目標には辿り着けなかったが、どうでもいい。カシャはツリトを連れて瞬間移動をした。そして脱いでいた服を置いていたところに戻って更に強く抱きしめた。


「強く生きてるよ、ツリト。だから、いっぱい泣いて。泣いて泣いて泣き枯らすまで泣いて。誰も、いない。いるのはカシャだけ。いっぱいカシャの胸で泣いて」


 空は既に暗く染まっていた。暗い雲の隙間から月明かりが二人を照らしていた。まるで、ツリトとカシャの心が近づいたことを祝福するかのように。




「ツリト、どうしたの?」


 ツリトとカシャは一緒に温泉に入って、疲れを取っていた。だが、ツリトはいつもと様子が違いカシャにくっついていた。カシャに肩をくっつけて手を繋いでいた。


「べっ、別に」


 ツリトは顔を真っ赤に染めてカシャから離れようとした。カシャは手を強く握ってツリトの肩に頭を乗せた。


「良いよ。隠さなくても。ツリトはちゃんと強い。強く生きてるよ」

「でも、ーーーー」

「ねえ、ツリト。カシャね、強く生きることは決して弱さを見せないことではないって思ってるの。ゼウスはあんなに強いけど、ちょっとコミュニケーションが苦ってっぽいでしょ。ネキは朝が弱いし、ルリは、まだ、カシャたち意外と話すってなるとツリトみたいに人見知りする。どんなに強い人でも苦手なことって絶対あるの。だからね、ツリトは母さんのことと父さんのことになると感情が溢れちゃうのを強く生きれていない、弱いって思ってるんだろうけどね、カシャからしたら、その思いは大事な人を強く愛せるって証明で美点だし、何より、ツリトは強くありたいって思いの強さはきっと誰よりも強い」


 ツリトは必死に流すのを堪えていた涙を大量に流した。折角、落ち着かせていた感情を溢れさせた。




「「ただいま」」


 一時間後、ツリトはカシャの家、河童の村で一番豪華な家に帰った。代々、河童の村の長になったものが住む家だ。マジックミラーのように壁がなっていて、家の中から外の様子をしっかりと確認できるのだ。カメレオンの特徴を取り入れている。実際にカメレオンを巨大化させて作られたような外観をしている。


「おかえり。二人とも。ツリト君、何かあったかい?」

「何にも」

「そうか。若干、いつもよりカシャと距離が近くなってるから、何かあったのかなって思っただけだ。気にしないでくれ」

「カシャ。何があったの?」

「母さん⁉︎」


 カシャとツリトは顔を真っ赤に染めた。ツリトは下を向いて恥ずかしそうにして、カシャは思わず叫んだ。


 そんな二人の様子を見たカーとシャークはニヤニヤと笑った。そして、案の定、遠慮がなかった母、カーが踏み込んで尋ねた。


「どこまでしたの?」

「「してないっ!」」

「照れちゃって。ねえ、シャーク」

「カシャはともかく、ツリト君は珍しいな」


 その後も、少々イジられはしたが、カーもシャークも飽きて晩御飯を食べることとなった。ツリトは晩御飯を食べ終えると眠ってしまった。


「珍しいな。いつも、どんなに遅くても帰ってるのに」

「だね。カシャ、何があったの、ツリト君」

「カシャは詳しくは分からないんだけどね、ツリトの母さんと父さんのことを思い出しちゃったみたい。二人で河童の拍手をしてから、こんな感じなの」

「そうか。河童の拍手を二人で行うのはツリとリットの合体技であの二人にしかできなかったからな。間違いないと思うぞ」

「そうね。じゃあ、カシャ。偉いね。ツリト君をしっかりと慰めてたんだね。ベタベタだったじゃん」

「うっ、うん。カシャね。ツリトが甘えてくれて凄ーく嬉しかった。カシャはツリトの大事な人の中にちゃんといるんだって思ったからさ」

「そうか」「そっか」

「じゃあ、今日は、ツリト君と寝ると良いよ」

「そうね。二人でゆっくりしなさい」

「うん」




「ツリト君の未来はどうだい?」


 シャークは目の前の天狗の面を付けているカーに尋ねた。


 天狗の面は個人の明るい未来を見ることができる。つまり、明るい未来が一つもなければ、未来を見ることはできない。


「また、減った。ツリト君が幸せになる未来が」

「そっか。いつも通り、詳しくは見なくて良いよ」

「もちろん、見ないわ」


 個人の未来を見ると言うことはその未来で対象者以外の人生の結末を同時に見ることとなる。それは、受け入れる準備をせずに見ることとなる。例え、可能性の未来であったとしても。だから、詳しくは見ないのだ。もし、躊躇なく見ることができる人がいるなら、その人はよっぽどの馬鹿か、あるいは、心がないかのどちらかである。


「だが、いずれは見た方が良いかもしれんな」

「うん。でも、どうして、どうして、強くなって来ているのに減っちゃうんだろ」

「もしかしたら、大事な思いにちゃんと向き合った結果なのかもね。だから、将来の伴侶候補が徐々に減ってって感じで」

「そだね。そう思うことにしよっか」


 カーとシャークは有り得ないと分かっている。将来の伴侶候補はカシャとナスしかいないと分かっているから。だが、敢えて嘘を吐く。まだ、ツリトが幸せになる未来があるから。

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