第一章 14 ナスとデート
「はあ、疲れた」
ルリはツリトの太ももの上で体をぐたあとさせた。
「これじゃあ、ホントに子育てみたいだぞ。はい、あーん」
「パクリ。小さいけど、子供じゃないよ。全く」
「はあ。俺の方が戦った時間としては長いんだからな」
「仲が良いでありんすね。お二人さん。それで、ゼウス。どういう教育方針だったのでありんすか?」
「フン。実績があろうに」
「てい」
ネキがゼウスの頭を叩いた。ツリトたちは机を囲んで座っていた。ツリトはクタクタのルリを太ももの上に乗せている。ツリトはルリがただ、甘えたいだけだと睨んでいる。向かい側にはネキとゼウスが座っていた。ゼウスは十本の腕をなるべく小さくして一番下の両腕でご飯を食べたり酒を飲んだりしていた。
「このゼウス。ちゃんと実績を出している。誰よりもな。ツリトが魂を熟知する段階に進んだことにより、肉体の損傷など大したことではない。寧ろ、この先、何回も肉体の損傷が訪れるであろう。となると、何度も死の際まで追い詰めてより、魂の熟知を進めつつ、肉体が酷く損傷した時に、意識を失わないようにする訓練をする方が得策である」
「はあ。なるほど。まあ、確かに実績はありんすが、大丈夫でありんすか?」
どうやら、ネキとゼウスの間でしか知らない何かをネキが心配しているみたいだ。
「大丈夫だ。このゼウス、引きずっていない」
「なら、構わないでありんす」
ネキとゼウスは何でもないことだったように繕って酒を飲んだ。向かい側の席ではルリが大きく口を開いて停止していた。ツリトは仕方なくフォークで刺した肉を口に運んでいた。
「うん。おいしい。ねえ、今度はパン食べさせて」
「はあ、めんどくせえ」
「ツリト君。体洗って」
ルリはツリトがカシャとナスと週に一回ずつ会うことになってから明らかに距離を縮めていた。しつこくツリトのことを聞かれることがなくなったため、伸び伸びしていた。そして、自分の特性をしっかりと理解していた。変に大人ぶるのは見た目的に良くないと割り切ったルリはいっそ、二歳児ほどの健気さで甘えることにしていた。
「はい、腕上げて」
ツリトは最初の内は面倒臭かったが徐々に癒しになっていた。だから、面倒臭がりながらも素直に言うことを聞いていた。
「ツリト君。優しく揉んでね」
そして、ルリは甘えることで自然と気持ち良くなる方法を編み出していた。ルリはツリトに親のような感情がある。それは紛うことのない感情だ。だが、ルリはやはり、恋人、将来の伴侶を諦め切れなかった。だから、ツリトとのこのひと時でその諦め切れていない感情を紛らわしていた。
「あんっ」
「変な声を出すな」
「ツリト。わっちも後でよろしくでありんす」
「やだ」
「洗っておくんなし」
ツリトは顔を真っ赤に染めて先に温泉に浸かっているネキに背中を向けた。そして、ルリの体を洗うことを止めて斬撃で汚れを落とした。そして、ルリを抱いたまま温泉にダイブした。
「可愛いでありんす」
「ぷはっ!いきなり、何するの、ツリト君!」
「気持ち良かったろ?」
「全然」
ルリは頬を膨らましたがツリトが頬を押して空気を出してやった。
「ふふふ。仲が良いでありんすね」
「ごめん、待った?」
「うん。待った。毎回僕を待たすなら家に直接来てよ」
「な、何でそんなこと言うの!ナスのこと嫌いなの?」
「別に嫌いじゃないけど・・・」
ナスは桃色ロングの髪を後ろで括ってポニーテールにしていた。
ツリトは週に一回のナスとのデートに来ていた。ナスとは家の近くの養蜂場の近くのお花畑で待ち合わせをしていた。ナスはわざとに毎回、遅れてやって来て、ツリトに抱き着くくだりをしていた。服装はお互い基本的に長袖長ズボンだ。外敵に刺されたり、毒のある花に触れたりすることが稀にあるためフロンティアでは一般的にそうである。ただ、ある程度、強さのある者は布面積を少なくする傾向にある。ツリトとナスは全然布面積を減らしても良いのだが、減らさなかった。ツリトが嫌がるからだった。ドキドキするというのが理由だった。だから、ナスはせめてもの抵抗として体のラインがよく分かるピチピチの服を着ていた。
「じゃあ、いいじゃん」
ナスはツリトの腕を成長途中の胸に押し付けた。
「ナスだって、超人の筋肉があるんだからね」
ナスは超人と鬼と竜人、そして、ワルキューレでもある。最近は鬼花を食べて鬼神となり、角が二つ生えていた。だから、ナスの筋肉は厳密に言うとルリとは違う。
「う、うん。まあまあかな」
「むう。ツリト君。今日はエリアファイブアウトに行くよ」
「はいはい」
ツリトはナスと一緒に瞬間移動をした。
「うわっ、風吹いてる」
ナスが砂嵐のためという理由でツリトに抱き着いた。
エリアファイブアウト。竜人の村の更に奥を指す。その土地は一体が砂漠である。
「はあ。これは、面倒だな」
ツリトは自己完結型のオーラを使って砂を避けた。
「もういいよ。離れて」
「元からくっついてたじゃん」
「むう」
ナスはオーラを纏ってツリトとの隙間をゼロにした。
「シックスセンスを使うのはズルだろ」
「ツリト君が悪いんだよ。ぷい」
ナスはソッポを向いてしまった。ナスのシックスセンスは密着だった。ツリトを支えなくても密着できる。しかも、密着している間は相手のオーラを調整できるのだ。
「機嫌直しなよ」
「じゃあじゃあ。ねえ」
ナスは目を瞑って唇を指さした。だから、ツリトは人差し指をナスの唇に当てた。
「はあ。行くよ」
「ちょっと、無視しないでよ」
ナスは肩をゆっくりと落として固い笑顔を浮かべた。
「ようやく、着いたな、オアシスに」
「だね」
「ほいで、畏敬の竜と龍、邪竜と邪龍を近くで見れる」
「だね」
エリアファイブアウトは砂漠が広がっている。だが、エリアファイブアウトの名が知れているのは砂漠だからではない。邪の竜と龍だ。
そもそも竜と龍の違いは何か?
竜はティラノサウルス。龍は中国風。要は、空を飛べるかどうかが大きな違いだ。
竜はエリアファイブインに住んでいる。龍はフロンティアの上、天空に住んでいる。
竜は一つの種類しかいない。龍はたくさんの種類がいる。
共通する点は何か?
神格化される神竜、神龍と呼ばれる存在がいる。
血が特別。
鱗を纏うとオーラ量が増える。
パワーがある。
コモドドラゴンが起源である。
と、このような感じだ。
では、邪な竜と龍はどのようにして生まれてどんな竜、龍なのか?
まず、どうして、暮らしにくい砂漠に竜や龍は集まるのか?
子育てを任せる、あるいは、終わった竜人、龍人たち(かなり、習慣化して常識になっている)が新たな竜人、龍人を作るために迷惑を掛けない最適な場所が砂漠だったのだ。
次に、どのようにして、邪な竜、龍が生まれるのか?
邪なアイデアを竜と龍に投影するのだ。先ほども言ったが竜、龍は血に特別な力がある。他の生物の特徴を取り入れることができるのだ。簡単に言えばフロンティアの生物の特徴を取り入れたらめっちゃパワーアップするんじゃね?精神で邪な考えの元に集まっているのだ。ただ、邪な竜や龍を作る過程で凶暴化することがある。
これらの理由で砂漠より邪な竜や龍の方が有名になっている。
「で、今日も近づかないの?乗らして貰わないの?」
ツリトは人見知りだった。外の世界と余りコミュニケーションを取っていなかった。一つの理由として、幼い時の周りからの心配してくれる目がフラッシュバックしてしまうというのがあった。だからナスは強くはツリトに提案はしなかった。
「うん。遠くから見てる分が一番良い」
「だったら、ナスとイチャイチャしてよ。ルリみたいにさ」
「それは、・・・無理かな」
「照れてるの?」
「てれてないさ」
そして、ナスがツリトに強く出れない最大の理由がこれだった。ツリトはナスの気持ちを分かった上で過度な接触を取らなかったのだ。
ナスはこの態度が気になってカシャとツリトのデートを千里眼で覗いたことがあった。どうやら、ツリトはカシャにもこのような態度を取っていることが分かった。
だから、カシャとの競争のことは安心はしている。だが、ツリトは誰も選ばないのではとも不安になってしまう。
「照れてるじゃん」
だから、この反応はナスの心を凄く安心させるものだった。
「そういえば、最近、ここで普通の竜の血を入れてるんだよね?」
「うん。父さんが竜の力を得たのは実はここだからさ。最近はよく来てるよ」
ナスは手を振られて振り返していた。
「へえ。邪の血は入れてないの?」
「うん。基本的に危ないし、ナスはバンバン戦いたいわけじゃないからさ」
「そっかそっか。何か一匹借りられない?」
「人見知りは直しなよ」
ナスは走って一匹乗ってやって来た。
「超竜だよ」
「これが・・・。凄いな」
字の通り超人の特徴を取り入れた竜だ。
「じゃあ、行くよ。案内してあげる」
「いや、楽しかった」
「うん!」
ナスはツリトに後ろから抱き着いてもらってわざとに揺れることでツリトの反応を楽しんだ。ツリトはそんなことを気にせず乗り心地を楽しんだ。お互いに満足した1日だった。
空は夕日が落ちて少し暗く染まり、星明かりも見えていた。ツリトはバネのある竜鱗を叩いて超竜に感謝を伝えた。超竜は小さく唸ると走って仲間たちの元に帰って行った。
「何か、素っ気ないな。もっと感触を楽しみたかったのに」
「じゃあ、ナスの体で楽しんだら。竜鱗纏うよ」
「超竜じゃないんだから、鱗は固いだろ」
「むう」
ナスはツリトの頬に手を触れて密着させた。そして、竜鱗を纏ってゴツゴツを感じさせた。
「止めてくれ」
「まだ、足りないか」
ルリはジャンプしてツリトの腰に脚を回して密着し、おでこも密着させた。息がお互いに当たる距離になってルリはツリトの目を見た。ツリトは目を泳がせていた。
「感じてくれる?」
ルリは精一杯の甘える声で話し掛けた。ツリトの顔が急速に熱くなるのを感じて、ナスも顔が熱くなって来た。ナスは意を決してキスをしようとした時、ツリトの顔が膨らみ、鼻と鼻が先にぶつかった。
「ちゃ、ちゃんと好きだから」
「それは、カシャちゃんも、ネキもルリもでしょ?」
「まあ、うん」
「仕方ない。一緒に温泉に入って」
「密着するなよ」
「じゃあ、シックスセンスを使わなかったら良いの?」
「まあ、良いよ」
「やった。じゃあ、行こっ!」
「ツリト君。体洗ってよ」
ルリは裸のままツリトに抱き着いて耳元でとろけるような声で囁いた。ツリトは体を膨らませて隙間を作り離れると斬撃で体に着いた汚れを飛ばした。そして、先に温泉に入った。
「照れないでよ」
ナスもツリトの腕を組んでゆっくりと座った。ナスはツリトの腕を発展途上の胸で挟んでいた。ツリトは顔を背けてナスは少し俯いている。そして、少しの沈黙が流れた。
「ねえ、ツリト君。ナスとカシャ、どっちが好きなの?」
「僕は、・・・今は、迷ってる。と言うより答えが出てない。やっぱり、エリアフォーアウトの問題が解決するまで完全には気持ちを切り替えられない。でも、ちゃんと、二人の愛を飲み込んで消化しようと思ってる。どっちが僕の中に残るかは分からないけど」
「二人とも残っちゃったらどうするの?」
「そしたら、競争するしかないんじゃない?でも、絶対、差はあると思うから、そんな心配はしなくても良いんじゃないかな」
「じゃあ、ナスは今の内にいっぱいアピールしないとね」
ナスはシックスセンスを使ってツリトに密着した。ツリトは無理やり立って温泉から逃げようとしていたため、見ないようにしていたものを触った。
「もう少し浸かろうよ」
「じゃあ、シックスセンスを止めてくれ」
「止めたらツリト君のどこに触れても良いの?」
「ダメなところはダメに決まってるじゃん」
「良いじゃん」
「ダメ」
「ツリト君も触れて良いからさ」
「次言ったら上がるからな」
「むう」
ナスはツリトへの過激なアプローチを泣く泣く止めた。
「お帰り、ナス、ツリト君」
「晩御飯の用意はもう出来てるわ」
ツリトとナスがナスの家に帰った時、ソーとナンスが出迎えた。ソーとナンスも週に一回ほど会うぐらいだった。ソーがツリトの師匠から降りたのは誰も触れないようにしている。ソーはまだ、魂を熟知する段階に入っていなかった。ワルキューレの力で変に魂を知ったのが仇となっていた。魂の輪郭は掴めているのだが、その更に奥、中身まで吟味できる段階になかった。そもそも、魂の輪郭を掴めているのも、ワルキューレの力で一度死んだとき、ナンスに魂を掴まれるからだった。
「ありがとう」
「ツリト君。食べるよ」
ツリトとナスが横に並び、向かい側にソーとナンスが並んで机を囲んでいた。
「ツリト君。エリアファイブアウトはどうだった?」
「超竜に乗って来たよ」
「超竜か。超人と竜人の特徴両方を持っている俺でも融合させた超竜の特徴を体に入れようとするのは多分死んでしまうんだよなあ」
「そうなの?」
「ワルキューレの力で一回死んだら負担は無くなるけど、耐性が上がるわけではないんだ。それに、俺は後天的に身に着けてるし、元は鬼だから、体の適正と言うのもあるんだよね」
「なるほど」
「鬼竜は?」
「多分無理。鬼の力を竜に移すために色々しているらしいからね。と言うか、邪竜は俺にはできない。ナスなら、もしかしたら・・・ってところかな」
「へえ。はい、あーん」
「パクリ。嬉しいけど、ルリとおんなじ扱いされるのは嫌」
「しまった。昨日の癖が!?」
「わざとだよね⁉」
「さあ?」
食事の前に重い話をしてしまったツリトは場を和ませた。少々フライングをしたが「じゃあ」と合図した。
「「「「いただきます」」」」




