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TSURITO-繋げる未来  作者: カバの牢獄
第一章 強く生きたい
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第一章 13 ゼウスVSルリ

「ねえ、ネキの見立てだとどっちが強いの?」

「そうでありんすねえ。パクッ。うーん。間違いなくゼウスの方が強いでありんす。ですが、アイデア次第では全然、ルリにも勝つ可能性はありんす。今回は先に体を貫通した方が勝ちというルールでありんすから。ゼウスはルリの三倍近くの体格がありんす。ルリからしたらいくらでも貫通できるところがありんす」


 ツリトはネキの話を聞きながら紅茶を啜った。そして、葡萄のタルトケーキをフォークで刺して口に入れた。


「おいしいね」

「まあ、ルリが作りんしたけどほとんど、わっちが指示したでありんすから」

「ふーん」




「ああ、どうしよう」

「やるぞ」


 ルリは震えながらゼウスに相対していた。


 勢いで言ったけど、実際、ツリト君が全然嫌がってないから、ルリが首を突っ込む必要はなかったんだよね。でも、ツリト君の前で啖呵を切っちゃったからやるしかない。


 ルリは大きく深呼吸をした。そして頬を叩いて気合を入れた。


「よし、勢いで頑張ろう」


 ルリは考えるのを止めた。


 だって、マイナスの方に考えちゃうんだもん。


「では、いざ尋常に」

「「勝負」」


 ルリとゼウスは勝負の合図と共にオーラを纏った。ゼウスは上から三番目の右手で左手の手のひらを殴ってルリを引き寄せた。ルリはヌルッとした液体を体に纏うと同時に上空に高速でヌルッとした液体を飛ばした。


 このまま勢いで行く。


 ルリはゼウスに等加速度で一直線に引き寄せられた。と同時に体を膨らませて背中の後ろで両手の甲を合わせた。ゼウスはルリが手を叩くギリギリまで右足を引いて上から五番目、一番下の右腕を引いて腰の入ったストレートを放つ準備をした。距離が縮まって行く。ほんの一瞬だが緊張が走る。先に動いたのはルリだった。ルリはヌルッとした液体をゼウスに飛ばした。ゼウスはそのヌルッとした液体を減速させた。だが、その得体は徐々にスピードを上げてゼウスに迫って行く。と同時にルリが河童の拍手を行おうとした。ルリとゼウスの距離はもうほんの僅かだった。その時ゼウスとルリの背後で空間が歪んだ。


 まさか、予め空間にワープのために印を刻んでた⁉︎


 ルリはすぐに背中の筋肉を締めてオーラも多めに纏わせた。と同時に河童の拍手を行った。


 ゼウスは背中に星の紋様を刻んでいて歪んだ空間を通じてルリの背中を押した。


 ルリは体勢が崩れたもののしっかりとルリのヌルッとした液体も河童の拍手で飛ばした。


 ゼウスは笑った。久しぶりの緊張感だった。高揚する気持ちを抑えながら上から三番目の合掌を解除して一言詠唱を唱えた。


「止まれ」


 ルリとルリがもたらしたシックスセンスも止まった。


「化け物」


 ルリもまた、気持ちが高揚していた。自分より強い人と戦うのはやはり楽しいものだった。


「ふふっ」


 ゼウスがゆっくりとルリのヌルッとした液体を避けながら近づいた。ルリはゼウスの詠唱時に消費したオーラよりも多いオーラを消費して再びヌルッとした液体を動かした。


「オーラは三つの原子でできている。今は、他者完結型のオーラを消費してるけど、その時に一緒に自己完結型と領域型のオーラは無駄に無くなってる。だからさ」


 ルリはニヤリと口角を上げた。


 ゼウスは驚愕した。一つの分子で二つ以上の型を消費することは不可能とされている。ただでさえ、一つの型を認識するのに集中力を使うのに、それを二つ同時に認識するとなると、至難の業だった。だが、ルリならできなくもないと納得できる。アンチシックスセンスという訳の分からないことを実現しているから。ルリができなくもないと納得できる理由。それはーーーー


「ルリのシックスセンスは俊足と瞬速。後者は造語なんだよね。つまり、何が言いたいかって言うと瞬きよりも速くいろんなことができるんだよね。だから、言ってしまえば、頭の回転も速くできるわけさ。つまり、頭の整理整頓は得意なわけさ」

「フン。余り大したことではない」

「領域展開」「領域展開」


 ルリは慣性が無条件に働く空間の黒い球を作った。


 ゼウスはルリの領域の外側からゼウスの大きさの違う無数の手がただただ生える黒い球を作った。




「ねえ、ネキ。これってゼウスの領域は意味あるの?」

「どう思ってるでありんすか?」

「僕は、ルリのあの領域は簡単には壊せないと思うんだ。領域内で無条件に慣性が働き続けるから球の表面は抵抗を無限大にしてるでしょ?多分、あれは内も外も同様だと思うんだ。だから、ゼウスが外からどんなに殴っても壊せないと思うんだ」

「なるほど。確かに考え方は間違っていないでありんす。ですが、ゼウスを侮ったら行けないでありんすよ。ゼウスは十本の腕、手を部位鍛錬しているでありんす。おまけに、ゼウスには切り札となるシックスセンスがあるでありんす」

「切り札?詠唱、刻印、合掌、変速以外に何があるの?」

「怪腕でありんす。一番単純であり、一番厄介でありんすよ」

「そうか。いつも、簡易領域で出していた腕はそう言うことだったのか」

「正解でありんす。ですから、抵抗無限大でも、ゼウスは領域を破壊できる可能性は十分に高いでありんす」




 ルリはすぐに領域が壊されることを前提で領域展開をしていた。ゼウスが腕をたくさん出現させる簡易領域を何度か見て、ただ、腕をたくさん生やすだけではないだろうと睨んでいた。だから、すぐに勝負を掛けることにした。


「さあ、防御に集中させるよ」

「フン」


 ルリは河童の拍手で飛んでいたヌルッとした液体とそのほかの飛ばしていたヌルッとした液体を一斉にゼウスに曲げながら飛ばした。そのスピードは見る見るうちに上がり、ゼウスも避けることが難しくなって来た。


「やはり、硬いな」


 ゼウスは上から三番目の両手を合わせた。オーラ量が二倍になった。そして、変速でゼウス自身のスピードを上げた。ゼウスは慣性が働く空間のために元々スピードが上がっていたが更に上がった。おまけに、避けるだけではなく詠唱を唱え始めた。


「轟け」


 ゼウスの声が鳴り響いた。その音は逃げる場所がないため領域内で響くものだった。ルリはゼウスが唱える前に自己完結型のオーラも消費した。つまりは耳をアンチシックスセンスで守ったのだ。


「厄介」


 ルリは少しキレた。だから、走り回った。俊足の脚を瞬速で動かしながらッ百体の分身を出し続けた。その数は優に一万人を軽々と超えるものだった。ゼウスは無闇に遠距離攻撃はできないため、近くにいた分身は殴って消していた。


「「「さあ、ゼウス。耐えれるかな?」」」


 ルリたちは立ち止まりヌルッとした液体を身に纏い大きく体を膨らませながら手の甲を背中の後ろで合わせた。


「フン」


 ゼウスは星の紋様を五つ全身を纏えるように体に刻んだ。


「増えろ」


 五つの大きな見えざる手に守られながらゼウスは自身のオーラ量を更に増やした。二倍の二倍だから、四倍だ。ゼウスはもう一度笑った。


「フン」


 ルリたちが叩いたのと外側から領域が破壊されたのは同時だった。


「怪腕は順応する。つまりは、触れると勝手に順応して行く。そのため、どんなものでも大ダメージを食らわせることができる」


 ルリが飛ばした河童の拍手はゼウスの見えざる手によって弾かれた。


「さて、ここからは、このゼウスの独壇場か?」

「ふふっ。楽しい」


 ルリはたくさんの腕に囲まれて笑っていた。分身たちの影に隠れながら初めて領域を破られた悔しさと嬉しさがあった。ルリは今までで一番集中した。口から垂れる涎も忘れるほどに集中して新たな境地に達した。ルリは空間にヌルッととした液体を纏わせた。これは一見今までと同じことをしているようだが、確実に違う。今まではヌルッとした液体を動かしていただけだ。だが、今回は空間に纏わせた。空間に纏わせるとは空間と空間が衝突することができるのだ。


「フン。このゼウス、指導者としての才があるな」


 ルリはゼウスの冗談?であって欲しい言葉に思わず苦笑しながら空間を動かした。ゼウスがいる空間とルリがヌルッとした液体を纏わせている空間を衝突させた。そのため、衝突した空間は縮んで行った。それはバネを縮めているような怖さがあった。


 ゼウスは構わずたくさんの腕に力を入れて、怪腕のシックスセンスを起動させたまま殴りに掛かった。だが、殴りに掛かる前に強い衝撃が掛かって飛ばされた。ゼウスはたくさんの大きな手で包まれてダメージは避けられた。だが、どんどんと揺れが強くなって来ていた。


「ジリ貧だな。飛べ」


 ゼウスは揺れている空間から抜け出した。そして、怪腕のシックスセンスを強めて順応を早めた。


「まあ、さすがにそうなるよね。でも、これはどうかな?」


 ルリは再び空間にヌルッとした液体を纏わせると弓矢のようにして引いてヌルッとした液体をゼウスに飛ばした。その速度は光速よりも速い。本来なら。ゼウスはルリのヌルッとした液体が減速するように変速した。それで、辛うじてゼウスが避けれるほどの速さとなった。


「そろそろ、終わらせるか」


 ゼウスは領域内の腕を伸ばしてルリを本格的に捕まえに行った。ルリは四方八方から迫り来るたくさんの腕にヌルッとした液体を纏いながら走って再び大量の分身を作った。そして、余裕ができた時に空間を利用してヌルッとした液体を飛ばしていた。ゼウスの腕をヌルッとした液体を上手く使って次々に壊していたが依然として優位に立てなかった。だから、ルリはゼウスの前に瞬間移動をした。


 ゼウスはその内、ルリが瞬間移動をして勝負を決めに来ると踏んでいた。だから、体に刻んだ五つの星の紋様から見えざる手を出して守りを固めていた。


「っ!?」


 ルリは瞬間移動をしてゼウスの目の前に見えない壁があることに気付いた。




「やっぱり、ゼウスの方が上手か」


 ツリトはネキが作った水鏡から領域内の様子を見ていた。


「そうでありんすか?まあ、確かに、そうでありんすね」

「何が言いたいの?」

「ルリがどうして、しんどい環境でずっと戦ってたと思うでありんす?」

「ゼウスの領域を壊す余裕がなかった?」

「ええ。それもあるでありんす」

「ゼウスはルリと真正面から戦って体を貫通させることができるけど、ルリはゼウスの気を逸らさないと体を貫通させる攻撃ができないってこと?」

「まあ、そういうことでありんす。見てておくんなし。凄いものが見られるでありんす」




 ゼウスの前に見えない壁があると感じた時、ルリは簡単に壊せると思った。その判断は実際に正しい。ルリは慣性が働いて威力が増し続けたヌルッとした液体で見えない壁を破った。


「っ!?」


 ゼウスが十本の腕に星の紋様のリストバンドを付けた。


 ヤバい。


 ルリは一瞬で危険を感じた。ゼウスは既に右足を引いて上から五番目、一番下の右腕も引いていた。ルリは敢えて引かずにヌルッとした液体をそのままゼウスのお腹を貫通させようと操った。


 ヌルッとした液体とゼウスの腰の入ったストレートがぶつかった。ゼウスの拳がルリのヌルッとした液体を貫きルリのお腹を一直線に貫きそうになった。ルリは直前で纏っているヌルッとした液体をアンチシックスセンスにして抵抗無限大にした。そして、超人の筋肉、小人族の超人を超える筋密度の筋肉を締めてゼウスの怪腕を受け止めた。


「よもや」


 ゼウスは驚愕した。ゼウスの怪腕での一撃はルリのお腹を腫らせるだけに留まった。ゼウスの怪腕は順応する。つまり、ルリの領域を破壊した時に順応したはずだが今はしていないということ。


「慣性の方に順応してた!?つまり、順応は一つしかできない」


 一瞬の空白の後、ゼウスとルリは動き出した。ゼウスは自身を変速で速く動かしてルリに追加攻撃を食らわそうとした。ルリはお腹の腫れを治癒しながら距離を取った。


「終わりだ」「ルリの勝ちよ」


 ゼウスがルリを殴ろうとした時、ゼウスの領域が破られた。ゼウスは頭をフル回転させた。


 あれか!?


 ゼウスは思い出した。最初、ルリが上空にヌルッとした液体を飛ばしていたことを。ずっと気にしていたが領域展開が嵌り勝利が見えたことで油断していた。また、既に無くなっているとも思っていた。領域の内側だけに気を配るしか普通できないから。


 ルリがゼウスの領域を破ったヌルッとした液体はずっと上で旋回していて勢いを増していた。その速さはゼウスが避けることは不可能と言えるほどの速さだ。ゼウスの背中を貫かんとしたヌルッとした液体は途中で消えた。何のこともない。


 ただ、ゼウスが上から五番目の腕で殴るのを貫き手に変えただけだ。その少しの差で先にゼウスがルリのお腹を貫いたのだ。


 ルリは自身が纏っているヌルッとした液体を抵抗無限大にしていたが、ゼウスは順応していた。ゼウスの順応は切り替えが必要なだけだった。


 ゼウスはすぐにルリにハートの紋様を刻むと傷を治癒した。


「よもやよもや。戦いを楽しみ過ぎたな」

「あと、少しだったのにっ!」

「フン。怪腕をもっと早くに使っていれば、貴様の成長はなかった」


 本気で指導者としての才があると思っているの!?


「分かったわよ。ツリト君は嫌がっていないみたいだし」


 負けは負けだ。ルリは潔くルール通りに従うことに決めた。


「どうだ、ルリ。また、やるか?」

「ルリと?」

「ああ。空間の領域に達したのだ。使い馴れして置きたいだろう?」


 分かっていたことだけど、ゼウスはまだ、本気を出してない。


「むう。ホント、化け物ね。うん。お願い」


 ルリはいつの間にかゼウスに懐柔されていることに気付いた。


 ゼウスが本気を出さずにルリの全力を引き出していたことを。成長を促されていたことを。認めるしかなかった。


 ゼウスは一流の指導者であることを。

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