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TSURITO-繋げる未来  作者: カバの牢獄
第一章 強く生きたい
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第一章 11 呪縛

「ツリト君。このまま、遠くどこかに逃げちゃわない?」


 ツリトとルリは一緒に普段ネキと暮らしている家から遠く離れた超人の村、エリアワンインの温泉にいた。


 星の形をしているフロンティアの内側に五角形を作るとするとユグドラシルを中心としてできる五つの三角形を右回りに超人の村をエリアワンイン、河童の村をエリアトゥーイン、鬼の村をエリアスリーイン、ワルキューレの村をエリアフォーイン、竜人の村をエリアファイブインとなっている。つまり、何が言いたいかと言うと、地理的にかなり離れているところにいる。


「とりあえずは、安心じゃない?高濃度のオーラの残滓が霧散しているから並大抵の人じゃ来れないんだよね?」

「まあね。でも、ルリが気にしてるのはそんなことじゃないの。カシャちゃんとナスちゃんが帰ったら怒涛の勢いで来ると思うと帰りたくないの」


 ルリはツリトのおっさん座りの太ももの上に座って震えていた。


「そんなに嫌なのか?」

「だって、面倒臭いんだもん。しかも、今日は、置いて来ちゃったからさ」

「だったら、寄り道せずに真っ直ぐ帰れば良かったじゃん」

「それは、ダメ。匂いはツリト君の斬撃で落とすことはできるけど、疲れだけは誤魔化せない。クタクタで帰ったらルリが凄く責められちゃう」

「なるほど。でも、今日は、多分、僕の自由がすぐに無くなるんじゃないかなあ」

「うーん。確かに。今日は予め危険だって知らせてたからツリト君に真っ直ぐかも。よしっ!そうと決まれば帰ろうっ!」

「急に元気だな。でも、僕も、今日は、ゆっくりしたいしなあ。ホントに逃げちゃう?」

「そっかそっか。じゃあ、適当に獣を仕留めてゆっくりしよっか」

「止めておくんなし。いい加減帰って来ておくんなし。二人は我慢の限界にそろそろ達しようとしているでありんす」


 すると、温泉の淵にネキが痺れを切らしてやって来た。


「全く。六十路ともあろう女が情けないでありんす。ちゃっちゃと帰って来てらっしゃい」


 ネキも若干怒っているようだった。


「ネキ。一緒に逃げない?」

「逃げないでありんす。ルリ帰りんしょう」

「げえー。だって、ツリト君」

「帰りたくないっ!」


 ツリトがルリを強く抱きしめて拒否の意思を示した。ツリトはこの七年間でルリとネキとかなり距離を縮めてわがままを平気で言えるほどの関係性を築けていた。


 ネキは顎に人差し指を立てて考える仕草をしばらく作った。


「却下でありんす。帰りんしょう。早く着替えておくんなし」

「「げえー」」

「げえーではありんせん」




「ツリト!大丈夫?」


 ツリトたちが帰って靴を脱いでリビングに向かおうとするとカシャがツリトに抱き着いて来た。どうやら、カシャは待ちきれずに玄関の奥で待っていたみたいだ。


「お、おう」


 カシャはツリトの頭から爪先までしっかり余すところなく両手で触れて怪我の確認をした。


「怪我は・・・、隠してない。でも、凄く体力が消耗してる。こんな遅くまで戦ってたの?」

「お、おう」

「どうして、カシャを置いて行ったの!」


 カシャはツリトに顔を近付けてジト目で睨め付けた。目にはいっぱいの涙を溜めている。握っている手には力が入っていて、心配はしているが怒っているようだった。


「今日は、結構、危険な超獣と戦うって言ったよね?カシャは、カシャは、ずっと我慢してたんだよ」


 カシャはいっぱいの涙を目から零した。手は震えていてホントに心配させていたことが分かる。ツリトは心がギュッと締め付けられた。


「ご、ごめん。心配掛けて」


 すると、カシャは手に精一杯の力を込めてツリトを睨んだ。


「悪いと思ってるなら心配掛けないでよっ!」


 ツリトはカシャの涙に、不安に、怒りに、覇気に気圧されて、何も言えなかった。何も言えずに立ち尽くしているとカシャの母カーと父シャークが現れた。


「ツリト君、すまないね」

「いや、そんなことは・・・」


 シャークはツリトに触れて肉体の回復を進めた。


「ツリト君、俺は君が満足するまでやれば良いと思ってる。でもね、もう少し視野を広げてもいいとも思っているんだ」

「何を・・・」

「少しはカシャのことを考えて欲しい」


 カーがカシャの手を握りツリトの前でしゃがんだ。そして、ツリトの手を握ってカシャの胸に手を引き寄せた。


「私ね、毎日、カシャの心に触れてるの。感じて見て」


 ツリトにカシャの記憶が流れて来た。


 毎日、ツリトのことをどれぐらい考えているか。ツリトがエリアフォーアウトに行くことを毎回、どれぐらい強い気持ちで嫌がっているか。ルリにツリトの様子を事細かに聞いてどれぐらい安心しているのか。ツリトが修業でゼウスやルリと戦って傷ができる時どれぐらい心がざわついているのか。例え、すぐに治癒されると知っていても心がどれほど痛むのか。ボロボロの姿を見た時にどれほど悲しいのか。ツリトがカシャの頼みを断る時、どれほど傷ついているのか。


 ありとあらゆる記憶がツリトの中に流れて来て、カシャの思いの強さを知って、ツリトは涙がボロボロと流れて来た。


「ツリト君。心は受動的にしか満たされないよ。主体的に動いて満たされたことも細かく見れば相手から影響を受けているの。だからね、カシャの気持ちに逃げないで。心配してくれている人たちのことをちゃんと見て。失っちゃうのが怖いのかもしれない。でも、ツリト君の意思は徐々にルリとネキに表面化されてる。ホントは甘えたいんだよね?」

「僕はルリやネキやゼウスと一緒にいることは心地良いんだ。僕への愛を強く表に出さないから。それは、僕も、愛を表に出さないで良いってことだから。僕は、僕はね、もう失いたくない。だから、力が欲しかったんだ。守る力が欲しいんだ。それに、父さんは最期に言ったんだ。強く生きろって。ーーーーでも、違ったんだね。父さんが言っていたのは、肉体的にじゃなくて、精神的にってことだったんだね。おかしかったんだ。僕がどんだけ力をつけても心が満たされないから」


 ツリトは泣き崩れた。ずっと父の最期の言葉が耳の残っていた。呪いになっていた。その呪縛が苦しませるものでは確かに無くなった。ツリトの生きる指針となった。


 カシャはツリトの本音を聞けて一緒に泣いてツリトを強く抱きしめた。


 ルリたちはツリトの心のオリジンが氷解して嬉しくてツリトとカシャの涙につられてしまった。


 そんな様子をリビングから静かに立って見て、ナスは泣いていた。ずっと、ツリト君は強いから大丈夫と自分に言い聞かせていたことを後悔した。ツリトが自分を必死に隠していたことに気づかなかった自分が情けなかった。ツリトの内面をちゃんと見れていなかった自分が恥ずかしかった。好意を伝えておいてちゃんとツリトを見れていなくて自分が許せなかった。ナスは泣き崩れた。ソーとナンスはナスを優しく抱きしめた。




「面倒臭い」


 ツリトは気持ちを素直にしてちゃんと受け入れる心構えをして、カシャとナスの求愛に応えていたが、両腕を抱かれて自由に動かせずに食事を取れないのは萎えた。


「ツリト。今日は腕が上がらないよね?」

「そうだよ、ツリト君。ほら、ツリト君がナスたちを置いて行った間に捕まえた牛肉だよ」

「「ジッー」」


 こんなふうにツリトを挟んで喧嘩するものだからツリトは大変面倒臭かった。だが、カシャとナスが嬉しそうにしているのは気分が良かった。


「ツリト。ほらっ」

「あっ、ズルッ!?ツリト君も」


 うん。これは強く生きることと違う。これは精神的強さには関係ない。面倒臭いだけだね。


 ツリトは差し出された肉を食べ終えると向かい側に大きな座布団を椅子に乗せたルリの元へ瞬間移動をした。


「これは、違うよね」

「ツリト君。逃げちゃダメだよ。精神的苦痛だよ。あれも。強く生きなきゃね」


 ルリはツリトの手を掴んでヌルッとした液体を付着させた。そして、瞬間移動をさせてツリトを戻すとツリトのオーラを使う時の抵抗を無限大にした。


「頑張ってね。カシャ、ナス」

「ルリ!?」


 ルリは満面の笑みで目の前の切り分けた肉に齧りついた。


「良かったでありんす」

「だね」

「ルリにもあーんやりんしょうか?」

「どっちでも良いかな。ルリはこの八年間で鍛えられたから全然苦じゃない」

「強く生きてるでありんすね。ルリ。ツリトが魂に触れる段階に行ったと聞きんした」

「うん。ルリが体感させた。だから、ソー。そろそろ魂を掴まないとツリト君に負けるよ。鬼神になれたことに胡坐を掻いてるとあっという間に追い抜かされるよ」

「ルリちゃん、良いのよ。子供の成長には勝てるはずないもの。ナンスたちはナンスたちで楽しんでるからさ。それに、ルリちゃんにポジションを奪われて、実はソーは、ホッとしてるんだから」

「おいっ!」


 大人たちは大人たちで場が和んだ。


「そうか。ツリト君の成長速度は速いな」

「カー。天狗の未来予知はどうなってるでありんすか?」

「うん。私はツリト君に設定してるんだけど、年々、明るい未来の数が減ってるの。全部は負担が掛かるから見れてないんだけど、ちょっとね」

「まあ、一つでも残っているなら大丈夫でありんす」

「そうね。それに、今日、良いことがあったから増えてるかもだし」

「そうでありんすね。それに、ホントにヤバくなったらアナザーフロンティアから遣いが来るでありんしょう」

「「「「「アナザーフロンティア?」」」」」

「別世界で未来予知ができる一族がいるでありんす」

「それってツチノコ?」

「まあ、ニアピンでありんす。ルリ。よく、ツチノコの存在を知っておりんしたね」

「伊達に五十路まで独りだったわけじゃないのよ。あちこち探索してた時に十年に一回ぐらい見たことがあるわ」

「さすがね。未来を見ているのはカエルでありんす。天狗と正反対の能力でありんす」

「待って!それって精神が持たないでしょ⁉︎」


 カーは思わず少し叫んでしまった。ツリトたちは目を丸くしてカーを見た。カーはすぐに取り繕って「何でもないの」と言って安心させた。


「天狗の未来は一人の明るい未来しか見ることができないでありんす。ですが、カエルの未来は一人の暗い未来を見るでありんす。しかも、暗い未来は明るい未来よりも多分にありんす」

「カエルって天狗の未来予知よりも正確なの?」

「同等でありんす。天狗は事前情報を一切得ずに未来を見ることが可能でありんすが、カエルは事前情報を得ることで未来を見るでありんす」

「待って。それって私、天狗の方が正確な未来予知ができるんじゃない?」

「カエル一人だったらそうでありんす」

「なるほどね。ツチノコか。こっちの世界の情報をアナザーフロンティアに持ち帰ってるんだね」

「正解でありんす。ツチノコはこっちの世界の過去の情報を全て得ているでありんす」

「そういうことだったのね。ルリが前に、ツチノコを見つけた時、シックスセンスを使わなかったら追いつけなかったんだよね。ツチノコは逃げ足が速くてすり抜けてたから。何しに来たんだろうって思ってたから合点が行ったよ」

「ルリ。よっぽど、暇だったんでありんすね」


 ネキがルリを憐れむようにして見た。それは、同様に他の大人たちも見ていて、ルリは思わず顔を真っ赤に染めた。落ち着こうと思って蜂蜜酒を勢いよく飲み喉に詰まらせて咳き込んだ。それを見た大人たちは堪えきれなくなって吹き出した。


「たったの八年では、まだ、全然足りんせんね」


 ルリは頬を大きく膨らませてネキを睨んだ。


「やっぱり、あーんやりんしょうか?」

「むうーーーーーーーーーー。いいよ」

「ふふふ。ここで、否定しないのが六十路の真骨頂でありんすね」

「ぷかっーーーーーーーーーーー!」



 大人たちが盛り上がっていたのをツリトはカシャとナスの相手をしながら静かに見守っていた。

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