第一章 10 魂に触れる
「ツリト。今日の本番はかなり危険だにゃ。覚悟するにゃ」
「どんな特徴なの?」
「ツリト君、教えてもいいの?」
「・・・やっぱ、止めとく」
「よろしい」
「飛べ」
ゼウスの詠唱で目的地に全員、瞬間移動をされた。
「さあ、ツリト君、頑張ってね」
「おう」
ルリたちは先ほどのように大きな樹の大きな枝の上に瞬間移動をした。ツリトの目の前には凄く大きい大蛇を八匹お腹のところで融合させて、そして、八つの尾が伸びていた。言ってしまえばヤマタノオロチに近い。ヒノキやら杉やらは生えていない。酒に弱いなどの特徴もない。
「どうしようか。名前は八蛇とでも名付けようか」
八蛇は何の獣を食べたのかは分からないが体のあちらこちらに血が生々しく付いていた。当然、周囲の匂いは臭かった。
「どんなシックスセンスかは知らんがパパッと終わらしてもらうぞ」
ツリトはオーラを纏った。母と父のシックスセンスを使ってオーラの量と質も上げた。そして、先ほどと同じように剣も地面に突き刺した。そして、体を膨らまして河童の拍手をした。ツリトが飛ばしたオーラはツリトから見て左から一、三、五、七の頭で、二、四、六、八の頭を守って弾かれた。
「ふむふむ。対応の速さが厄介ね。一、三、五、七これが物理攻撃を弾くのかな。だとしたら、二、四、六、八がシックスセンスを弾くかな。あの動きの速さよりも速く斬撃を飛ばす必要があるね。全く、こんなにデカくて明らかに人工的に作られているのに、よく速く動くよ」
アシュラは領域型のオーラを消費した。五十メートルほどある八蛇を周りの範囲を指定して無数の斬撃を飛ばした。一、三、五、七の蛇は浅い傷は付いたが深い傷を付けることができなかった。
「うーん。分厚いな。プリティーが手強いって言ってたわけが分かったよ」
ツリトは地面を這って突進して来ている八蛇をの後ろに剣を持って瞬間移動をした。八蛇はすぐに止まると尾で土を掘って砂をツリトに飛ばした。ツリトは空気砲のような斬撃で防いだ。八蛇は尾を軸にして体の向きを変えた。
「うん。厄介ね。これは、一匹ずつ殺らないとね」
ツリトは他者完結型のオーラに変質した。
「これはどうかな?にしし」
ツリトは八つ全てに大きい鋭い斬撃を飛ばした。八蛇はカバーできないとすぐに判断してツリトに突進して来た。八蛇は一、三、五、七の蛇の顔に少し深い傷を付けながら、尚も、進んで来ていた。
「にしし」
ツリトは浮遊して八蛇の真上に移動をした。八蛇は海老のように跳ねてツリトを噛み千切ろうと大きく口を開けて迫って来た。
「さっきので、僕の攻撃が通用することは分かった。だから、この斬撃なら確実に殺れるでしょ?」
ツリトはオーラを先ほどより多く凝縮して大きく鋭い斬撃を飛ばした。その斬撃は左から一番目の蛇の頭を切断した。それを見たツリトは瞬間移動をして切断された蛇の頭に乗った。
「これで、終わりと思っているのか?」
ツリトは自由落下している八蛇、既に七蛇に変わったが、三、五、七を先ほど飛ばした斬撃を曲げて腹、背中、腹の順にジグザグと斬撃を飛ばして切断した。
「さて、終わりだ」
ツリトは体を膨らませて河童の拍手を行った。八蛇の纏っていたオーラが飛ばされた。ツリトはその隙に次々と二、四、六、八の斬撃を曲げて蛇を切断した。
「ふう。中々に強い方だった。でも、僕がこれぐらいの敵を倒せないと思われていたのなら心外だね」
ツリトは三つの円が重なっているベン図の自己完結型かつ他者完結型かつ領域型から、他者完結型かつ領域型の方向にオーラを成長させていた。特性は最終的に他者完結型を大きく成長させる予定だ。そのため、今回、八蛇に余裕で勝てたのは他者完結型をオーラの原子の認識(オーラを効率よく消費できる)がルリとゼウスの予想を超えていたためだった。そして、もう一つ、ルリとゼウスの予想を上回った要素があった。
「ツリト君。いつの間に斬撃を曲げることができるようになってたの?」
ルリが浮遊してツリトに抱き着いて聞いた。
「いや、即興。多分、あれほど凝縮した斬撃を何度も作りながら八蛇をを一匹ずつ斬り刻むのは厳しいと判断したんだ。だから、思いのままに操ることができたならってね」
「やるじゃん。いつの間に他者完結型のオーラをより深く認識してたの?」
「前々からこの剣のおかげで何となくは認識できてて、最近、ちょっと輪郭を理解できて来ていたんだ」
「なるほど。うん。やるじゃん。どうする、ゼウス?」
ルリはツリトの頭を撫でながら肩にプリティーを乗せたゼウスに聞いた。
「うむ。次だ。更に奥に進もう。と言っても次は少々時間が掛かるがな」
「ゼウス。もう、あれと戦わせるつもり?」
「ああ。どの道、首魁を倒すには成長するしかない」
「止めた方が良いにゃ。僕が、僕がペガサスを死霊操術で降ろすしかにゃかったほどにゃよ」
「確かにあれは強敵。だが、あれはツリトが乗り越えなければならない壁だ。首魁を倒すには」
「ここだ、ツリト。いよいよ危なくなったら間に入る。健闘を祈る」
「ツリト君。無理はしないでね」
「ツリト。成長してにゃ」
「おう」
ゼウスたちはいつも通り高みの見物をするために大きな樹の大きな枝の上に乗った。ツリトの目の前にはたくさんの小さな可愛らしい兎がいた。
「この兎が何になるって言うんだ?」
ツリトは斬撃を空気砲のようにして飛ばして兎を一匹、ひっくり返した。すると、その兎が巨大化して大きな兎人になった。引き締まった体つきに多くな太もも。そして、何よりヤバいのは、手が左右対称にたくさん生えていたことだ。
「何本あるんだ!?百は軽く超えてる・・・千?」
兎人、千手兎人がオーラを纏い膝を曲げた。筋肉が隆々と浮き出た。
「おいおい。あの可愛さはどうしたんだよ」
ツリトは自分のオーラを纏い増量し他者完結型の原子を大きくした。そして、体を膨らますと股下に瞬間移動をして地面と平行に浮遊した。剣を具現して他者完結型にオーラを変質すると河童の拍手をした。
千手兎人のオーラは弾け飛んだ。だが、風圧で少し浮くこともなかった。
それで、十分だった。
ツリトはすぐにオーラを増量させて他者完結型の原子を大きくすると、そのオーラを凝縮して鋭い斬撃を千手兎人の体を左右対称に斬るように飛ばした。ところが、千手兎人は斬った傍からすぐに結合した。
「的がデカいからオーラを弾ききれなかった!?」
完全に千手兎人のオーラは弾き飛ばしたはずだ。だが、弾き飛んでいなかった。つまり、強いオーラをぶつけるだけでは弾ききれないオーラを使った。
オーラの発生源は肛門にある臓器、尻子玉。そして、尻子玉と繋がっているのが心臓にある臓器、心子玉。心子玉は魂が保管されている臓器。そして、動かすことができない。つまり、
「一時的に心子玉にオーラを保管して避難させていた。だとすると、僕の勝利条件は魂を理解しないとダメだと言うこと」
ツリトは浮遊して剣を握って千手兎人の正面に瞬間移動をした。
「にしし。僕は嫌でも成長できちゃうね・・・。でも、今回は裏技を使うよ」
ツリトが決意を固めた時、千手兎人は再びオーラを纏った。そして、千本の手でツリトを覆った。
「その図体で速いのかよ」
ツリトは愚痴りながら瞬間移動をして千手兎人の頭に瞬間移動をした。
「僕の全力をゼロ距離でどれぐらい耐えれる?」
ツリトはオーラを纏った状態の千手兎人にどれほどの深い傷を付けることが試した。
「マジか・・・、浅い傷しか付かないのか」
「ゼウス。ツリト君はどこまでできると思う?」
「おそらく、尻子玉を取り出す戦い方をするだろうが、できずに終わるだろう。だが、良い修業にはなるだろうな」
「にゃあ、そのために、ツリトをここに連れて来たにゃ?」
「うん。ツリト君が強くなろうって言うなら、フロンティアの王になろうって言うなら、避けては通れないことだから」
もう、太陽が沈みそうだった。空が闇に少し染められて星明りが薄く光っていた。
「さあ、もういっちょ」
ツリトはふらつく足に精一杯の力を入れてオーラを纏った。そして、増量と質上げを行ってから剣を具現した。
対する千手兎人は膝を曲げて跳ぶ準備をしていた。辺りの樹は砕けて土地が拓けていた。
ゼウスたちは浮遊してツリトの様子を見ていた。
「結構、他者完結型のオーラの認識が進んでるんだよね。そろそろできるんじゃないかな」
ツリトが纏うオーラは増量と質上げ、変質をしても最初の頃に比べると半分もない。最後の力を振り絞ってようやく三割ほどだ。
「にしし」
それでもツリトは笑った。確かに急速に成長をしている感覚があるから。
ツリトは大きな鋭い斬撃を飛ばした。同時に千手兎人は跳ぼうとした。だが、ツリトの研ぎ澄まされた斬撃の方が速かった。千手兎人の脚が斬られて纏うオーラが足先まで行くのが途切れた。ツリトはそれを見てオーラを一瞬だけ爆発的に増量した。千手兎人はそれを見てすぐに足に力を入れて踏ん張ってツリトに千本の手を覆うように伸ばしながら近づいた。ツリトは一瞬にして視界が暗く染まるのを見て笑った。
「にしし」
ツリトは瞬間移動をして千手兎人の背後に瞬間移動をすると脚を斬って止まっていた斬撃を再び動かして千手兎人のお尻に飛ばした。千手兎人は手を地面に突き出して振り返ろうとした。だが、それよりも速くツリトの斬撃が届いた。ツリトはお尻に当たった瞬間に斬撃を曲げた。だが、
「ああ、クソ。尻子玉の大きさは変わらないのか」
ツリトはすぐに結合するお尻の中を覗いたが尻子玉が見当たらなかった。ツリトは尻子玉を探すのを諦めた。代わりに内部から壊そうと考えた。ツリトは斬撃を三等分にした。そして、外側に残った二つの斬撃で千手兎人の千本の腕を斬り落とした。既に振り返って膝を曲げて跳ぶ準備をしていた先手兎人は落ちた腕はそのままで千本の腕をすぐに生やした。だが、ツリトは何度も斬撃を飛ばして両腕を斬り落とすと同時に内部に残っていた斬撃で心臓からお尻までを上下にジグザグと斬り刻み続けた。だが、
「ダメだ。魂を認識、熟知しないと」
ツリトはもう、立てなくなった。尻もちを着いて斬撃を動かし続けてはいるが、千手兎人の再生速度には敵わなかった。
「まあ、今日はこんなもんかな」
ルリが瞬間移動でツリトの前に現れた。
「ツリト君。見ててね。今からルリが魂に干渉するとはどういうことか教えてあげる。もう一回斬撃を飛ばせる?」
「う、うん」
「よし、じゃあ、今飛ばしている斬撃を消して、ツリト君の最高の斬撃を飛ばしてね」
ツリトは言われるがままに斬撃を消して、今、できる最高の斬撃を飛ばすことに集中した。
千手兎人はツリトの斬撃が止んでようやく跳ぶ準備ができた。だが、ツリトも準備が整った。
「じゃあ、ツリト君。じっくり味わうために空気砲みたいなので良いよ」
「でも、それじゃあ・・・」
「いいからいいから」
ルリはツリトの手のひらにヌルッとした液体をたっぷり付けた。ツリトは言われるがままに手のひらから空気砲のような斬撃を飛ばした。
「ずっと、力だけは加え続けてね」
ツリトの斬撃がすぐにでも跳ぼうとしていた千手兎人の脚に当たった。すると、千手兎人は止まった。ルリのアンチシックスセンスだ。斬撃は曲がってどんどんとスピードが上がり続けて千手兎人の周りを回った。
「じゃあ、ツリト君。今からあいつに衝撃を与えるよ。ちゃんと感じてね」
「うん」
斬撃が千手兎人の胸に当たり、心臓を貫いた。
ツリトは確かに感じた。千手兎人の魂に触れたことを。本来、誰も触れることができず、動かせることのできない心子玉が破壊されたことを。
「どう?」
「凄い。変な感覚」
「そっかそっか。残りの兎もやっちゃうよ」
ルリは奥の方でジッと見ていた兎たちにヌルッとした液体を掛けた。次々に千手兎人が増えた。百体はいた。だが、その間も斬撃は等加速度運動をしながら威力を増していた。
「じゃあ、ツリト君。いっぱい感じてね」
ツリトが力を加え続けた斬撃はルリのヌルッとした液体に操られて次々に千手兎人の魂に触れて殺して行った。
ツリトはこの魂に触れる変な感覚に、ルリの凄さを改めて知り、茫然として興奮した。
「凄い」
ルリはツリトの頭を撫でて優しい笑顔を向けた。
「当たり前じゃない」
ルリはツリトを持ち上げて浮遊した。血の池ができつつあったから。すると、ゼウスもプリティーを肩に乗せて浮遊してやって来た。
「覚えて置け、ツリト。魂に触れる感覚を。ここからが長いぞ。そして、当然だが、首魁には魂を熟知していないと勝てないぞ」
「うん」




