第一章 01 別れ
「ツリト。今日の晩御飯はどうだ?」
「美味しいよ。パパ。やっぱり、新鮮な魚は美味しい」
「そっか、そっか」
ツリトとツリトの母と父は川の横で魚を焼いていた。
今にして思えば、僕たちは家でご飯を食べているべきだった。
ツリトは母のツリの太ももの上で座って焼き魚を食べていた。ツリはツリトの頭を優しく撫でた。
「もっと獲っておくべきだったね。リット」
「そうだね。失敗した。ツリトの二歳の誕生日だったから張り切ってたけど、足らなくなるとは思っていなかったよ」
「仕方ないね」
「だね」
「お腹減った」
ツリとリットは笑った。ツリトも一緒に笑った。
この雰囲気をずっと楽しみたかった。でも、
突如、嫌な鳴き声が聞こえた。小さな声。遠くからだ。
「エリアフォーアウトだな」
リットは険しい顔つきをした。
「だね。でも、さすがにここまでは来ないでしょ」
「だね。どうしようもなくなったらゼウスが行くはずだ」
「どうしたの?」
「ツリト。念のため、家に帰ろう。これを食べ終わったら」
リットは真剣な顔をしてツリトに言った。だから、ツリトは何が何だか分からなかったが頷いた。
「ごめんね。ツリト」
ツリはツリトの頭を優しく撫でて謝った。その視線はエリア四アウトに向いていた。
ここで、フロンティアの区域の言い方を少し語ろう。フロンティアは星形の形をしていて、中心にユグドラシルが立っている。エリアフォーアウトは簡単に言うと、星をまず一筆書きをする。上から時計回りに頂点に番号を振る。そして三角の形をした四番目のことをエリアフォーアウトと呼んでいる。そこの区域は危険生物がたくさんいることで知られている。
「止まないねえ」
「だね。ねえ、だんだんと大きくなってない?」
「だね。ワルキューレたちは大丈夫だろうか?」
「多分、まだエリアフォーアウトにいるから対処していないでしょ」
「だろうね。だが、ここまでの超獣の鳴き声は聞いたことがない」
「少し、ゼウスに会いに行く?」
「そうだなあ。この調子だと安心して寝られないだろうしね」
「じゃあ、ツリト。早くお食べ」
「ぼ、うえっ、無茶させるな」
「「つまらしたねえ」」
ツリトは顔を赤くして手足をバタバタさせた。和やかな雰囲気になった。だが、緊張感は強まって行く一方だった。ツリトは父と母が焦っていることを感じ取り急いで焼き魚を食べていた。そんな時だった。
目の前に超獣が現れた。
超獣の見た目はペガサスのようだった。ただ、異様にデカい。目付きはとても悪く唸っていた。
「ひっ⁉」
オーラを纏っていて練度も高い超獣を見てツリトは思わず全身が震えた。ツリはギュッとツリトを抱きしめて立ち上がった。そして、座っていた丸太にツリトを座らせた。
「ここで、安心して待ってて。すぐに解決するからね」
ツリは溢れんばかりの笑顔でツリトを安心させた。リットも笑顔でツリトの頭をポンポンと叩いた。
「ツリト。よく見て置け。力の使い方をね」
ツリとリットは手を繋いでオーラを纏った。二人のオーラは重なってオーラ量が爆発的に増えて練度もかなり上がった。リットの右手に剣が握られた。二人は同時に浮遊するとリットの右手に持っている剣にオーラを集中させた。すると、超獣は大きく顎を上げて肺を膨らませた。ツリとリットは向き合って剣を持つと超獣の首を斬った。青い血が体から溢れた。
「「どうだった?」」
「カッコいい!」
ツリとリットは満足そうにして笑って剣を消した。そして、地面に着地した時、首を切断されたペガサスに禍々しいオーラが纏われた。二人はすぐに振り向いた。項に一筋傷が付いていた。
「「死んでから発動するシックスセンス⁉」」
「パパ、ママ!」
二人はすぐに手を繋いで先ほどと同等のオーラを纏って肩を開いてお互いの右手と左手を叩いてオーラを飛ばして死体のペガサスにぶつけた。だが、ペガサスが纏っていたオーラは飛ばされるどころか揺れもしなかった。
「何事だ⁉」
十本の腕を持つフロンティアの王ゼウスが瞬間移動をしてやって来た。その頃にはツリとリットの項の傷は深くなっていた。ゼウスは状況を理解して二人の体にハートの紋様を刻んだ。
「傷が回復・・・しない?」
ゼウスは死んだペガサスを影の中に入れた。影の中ではたくさんの腕が出現していて死んだペガサスを何度も殴り、何度も手刀、貫き手、ジャブなどなどを食らわせていた。だが、攻撃が全く利いていなかった。
「距離か?飛べ!」
ゼウスは死体のペガサスをエリアフォーアウトに飛ばした。
「パパ、ママ!」
しかし、ツリとリットの項の傷は深くなるばかりで脊髄にまで到達していた。
「ご・・・めんね」「強く・・・生きろ」
「そんな、やだよっ!生きて。ゼウス。他に手はないの!」
ゼウスは刀を一本持っていた。『逆夢』。斬った相手の願いや夢、事象を反転させるコキュートスが作った名刀の一つだ。
「『逆夢』」
ゼウスは二人の首をすり抜けて刀を振った。傷は止まった。二人の首は繋がった。たくさん出血した分の血も体に流れた。ペガサスは跡形もなく消えた。
「パパ、ママ。起きて!ねえ、起きてよ!ねえ、ねえ、ねえっ!」
ツリトが泣いて必死に叫べば叫ぶほど、母と父の体温が下がって行く。
「すまない。ツリト。判断を誤った。このゼウスを恨め」
『逆夢』が振られたのは二人が死んでからだった。ツリトの泣き声だけが川の流れに乗ってどこまでもどこまでも響いた。響き渡った。
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読んで興味を持って頂いた方、僕のもう一つの作品「TSURITOー繋いだ未来」も合わせてお読みください。この作品の世界線であり、少し、時が経った頃の話です。前半、ハーレムが強いですが、こちらも、段々と王道ファンタジー寄りになっています。なってるはず・・・。