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第22話 とんでもない試射会(後編)

狩猟のシーンがあるので、念のためにR15に変更させていただきました


「矢……外しちゃってごめんな……」


「いや……、大丈夫……それに……クロスボウさ……必要無かったよな……」



 しばらく時間が経ち、ようやく2人は言葉を絞り出した。


 出発した時は、2人とも華麗にクロスボウでロマリーという狐のような獣を仕留めることを妄想していたのだ。それが、思わぬ大物のソウカクに出くわし、仕留め損ねた……。それを……、オーロは素手で、裏拳と右フックで仕留めてしまった。あまりに衝撃的だった。


 いくらオーロが巨体とは言え、精霊紋無しのいわゆる“名無し”だ。まさか素手で仕留められるなんて考えられなかった。しかもオーロは隻腕だ。



「凄かったな……」


「……うん」



「おい2人とも、そろそろ正気に戻ってくれ」


 オーロにそう言われ、2人はやっとオーロの目を見ることができた。オーロは何事もなかったように、いつも通りの顔だ。むしろ朝の演舞の時の方が迫力があるくらいだ。


「これで土産は獲れたな。充分であろう? ミオンは喜んでくれるだろうな……」


「ああ……、1頭で大人100人が閑猟期を越せるって言われてるからな……」


「……え? そんなに?」


「うん……とんでもないぜ……1日で2頭なんて……」


「仔を逃したのが悔やまれるな……。仔の方が旨いからな」



 話せるようにはなったが、感覚はズレたままである。



「しかし問題がある。どうやって街まで運ぶか?」


「「あっ!」」


 確かにこれは問題である。確か和牛が1頭で700〜1000キロだから、それより大きなソウカク2頭だと2トン以上になる。片手で引き摺っていたのはきっと幻だろう。横で『片腕では1頭しか運べぬ』と言っている奴がいるが、取り敢えず無視だ。



「うーん……人を呼んでこないと無理じゃないか?」


「そうだな……親方に声をかけて工房の職人たちを呼ぶしかないか。工房なら30人はいるし、親方なら他にも人を集められるから……。肉を分けてやれば皆んな助かるしな」


 今季は稀に見る不猟なので、仕事よりはるかに重要だろう。それに、これだけの獲物を運べる人数なんて、フーラ工房以外に伝手は無い。いまから呼びに行けば、陽が落ちる前に獲物を運んで街に戻ることも出来るだろう。ひとまずヴィシュが工房まで走って呼びに行くことになった。



「血抜きなどは済ませておく。よろしく頼む」


「ダメだ! 血の匂いでシェールが寄ってくる! 大人しく見張っててくれ!」


「そうか……、では頼んだぞ」


「おうっ! 行ってくる!」



 ヴィシュが人を呼びに行った後は、オーロと2人で片付けをしながら話して過ごした。話題はアイザックについてが多くなる。


「オーロは食材とか、獣にも詳しいんだな」


「ああ、旅が長いと自然に詳しくなるものだ。それに、食材はアイザックが研究していたからな」


「へー、アイザックさんは美食家だったんだ?」


「いや、アイザックは美食家というよりは偏食が酷かった。野菜も果実も食べない。挽肉を固めて焼いて、パンに挟んだものだけを食べ続けていた。だから好みの肉を探しているうちに詳しくなっていったのだ。あとは……肉にかけるタレが思うように作れなくて食材を研究していた」


(ハンバーガーか……確かにこの世界の食事は旨くないからな……)


 オーロは作業をしながら答えてくれる。片腕なのに器用なものだ。ソウカクに結んだロープを大木の枝に引っ掛けている。


「あとは飲み物にもうるさかった。奴は絶対にコーラとかいう飲み物を作ると言って香辛料を集めていた」


(ハンバーガーとコーラ………確かに黄金の組み合わせだけど………アイザックさんジャンクフード好きなのか………なんかイメージと違うな……っていうか、テラデアでコーラが飲めるのか?)


「奴は水の精霊と契約すると、最初にタンサンスイとやらを作って大喜びしていたからな……ヨッと……」


 オーロはそう言うと大木に登り始めた。片腕なのに器用に登るものだ。最も太い枝に登り終えると、ソウカクに結ばれたロープを手繰り寄せて……『フンっ!』 と引き揚げる。想定1000キロ以上の獣を引き揚げるとは……どんな馬鹿力なのだろうか? もう……驚いてリアクションするのが馬鹿らしくなるのでスルーだ。規格外過ぎて反応していたらキリがない。



「じゃあ、コーラは作れるようになったんだ?」


「ああ、作れる。アイザックの妻も娘もコーラが好きでよく飲んでいた」


 オーロは枝にロープを結び、ソウカクは宙吊りになった。そしてオーロは大木から飛び降りて話を続けた。


「タンサンスイは水の精霊の力があれば作れるから、精霊鉱石でも作れると言っていた。ただ、飲んだことがある者にしか作れない。想像力と意思が無くては精霊は上手く力を発揮しないからな」


(なるほど……炭酸水を飲んだことがなければ、どんなものか想像できないもんな……精霊鉱石の種類とか使い方について、もっと調べないとな……精霊についての知識が足りな過ぎる……)


 オーロは腰に差してあった小さな刃物を抜いて、ソウカクの首筋に突き立てた。傷口から血が流れ出る。それを見て『よし……』と満足そうな顔になり、話を続けた。


「イオリがタンサンスイを知っているなら、水の精霊鉱石を使ってコーラを再現できる可能性はある。炭酸水と香辛料と果実を絞った汁を混ぜればコーラが出来る。確か、必要な香辛料や果実の種類はアイザックの書物に残っていると思う」


(なるほど……でも水の精霊鉱石は商人エリアに行った時にディーカさんに売ってしまったな……コーラは飲みたいけど……また鉱石は手に入るだろうか……? コーラの為に買い戻せる金額じゃないけど……)


 オーロは吊るされたソウカクから流れ出る血を辺りに塗りたくっている。


「オーロ……、さっきから何してるんだ?」



「ん……? ああ……もう済んだ。あれがシェールだ。上手く騙されてくれた……」



 そう言ってニヤッと笑うオーロの視線の先には、体長2メートルは有りそうな青白い獣がこちらを見ていた……。シェールは牙を剥いてこちらを威嚇している……。



「……なっ!!!」


(何をしているのかと思ったら………ヴィシュの言いつけを破って血抜きを始めていたんだ……。あまりにも自然な動きでスルーしてた! というか……あの様子は初めから言いつけなんて守る気はなかったんだ!!)


(どうするんだ……? なんとか出来るんだよな………デカいぞ………脚が……6本あるし!)


 シェールはソウカクよりは小さく見えるが、それは体高が低いだけだ。脚の太さや頭の大きさはソウカクの比ではない。素人のイオリから見ても生物として強者であることが分かる。6本の脚と鋭い爪、筋肉の付き方、大きな口と長い牙、そして独特の前傾姿勢……明らかに捕食者の作りだ……。シェールはイオリとオーロ、そして吊るされたソウカクを見て様子を窺っている。狩りの戦略を立てているように見えた……。


(どうすればいいんだよっ……!)


 愕然とするイオリはどうして良いかわからずに、オーロに助けを求めようとシェールから視線を外した……。


 その瞬間……シェールは後脚を伸ばしてイオリ目掛けて飛びついてきた。


 そのスピードはソウカクの比ではなく、恐怖を感じる隙も与えてくれない。そして大きく口を開き、イオリの眼前に鋭い牙と紅い口腔が迫ったところでピタッと静止した。



「今日は大漁だ」


 イオリは咄嗟に瞑ってしまった眼を開くと、オーロがシェールの首を掴んでいる。そして満足そうな表情で、まるで親猫が子猫を咥えて運ぶように、シェールの首の皮と肉を握っていたのだ。



 そしてそのまま地面に叩きつけた……。



 ドンっ! 



 本日3回目のドンっ! ……である。獣が何かに衝突する鈍い音。その音を聞いて、再びイオリは言葉を失った。



 オーロは引き続き、もう1頭のソウカクを大木に吊るしていく。イオリは無言のままオーロの指示でサポートをする。そして仕留めたばかりのシェールも同じように吊るされた。先ほどイオリの眼前で開いていた口腔は閉じられて、代わりに長い舌がダランと垂れている。昔、動物園で見たライオンや虎より大きく、口唇からはみ出た牙は鋭い。オーロに『牙に触れるな、鋭いぞ』と言って注意された。


 3頭の獣はダラダラと血を滴らせている。その血を見て呆然としていると、オーロは『もう獣は来ない。獰猛だが臆病でもある』と言ってイオリを安心させてくれた。


「よく狩りをするのか?」


「いや、たまにだ。金が無くなった時だけな」


「強いんだろうとは思っていたけど……予想の遥か上だったよ……」


「こんなもの……、高位の精霊と契約している奴らでも普通に狩る」



(でも……オーロ……素手じゃん………)



 それからは黙ってヴィシュが戻るのを待った……。



オーロ、強いです…


次話「凱旋」です。引き続きよろしくお願いします。

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