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第17話 新しい生活とアイザックからの手紙


「俺は別に、仲間になるのは構わないけどさ………、一緒に住むってのは無理だと思うぜ……もう男部屋は満員だもん。イオリが使ってる納屋だって、オーロには狭すぎるだろ………」


 イオリ、ヴィシュ、ミオン、……そしてオーロ。4人は祠の外に出て、陽の光を浴びながら今後について話し合っていた。


 ヴィシュとミオンには、『オーロはイオリのことを知っていて、イオリを探して旅をしてきた。イオリの記憶が戻るまで近くで面倒を見たい』と伝えてある。ヴィシュは何かしら勘付いていそうだが、深く詮索はしてこなかった。


 ただし、ヴィシュはオーロが仲間になることに反対こそしていないが、現在ほとほと困っている。もう白弓一家の基地には大人が入り込めるスペースは無いのだ。それに、オーロはただの大人では無い……、身の丈2メートルはある大男なのだ。


 イオリは共有部屋や自分が使っている納屋を思い浮かべ、そこにオーロが居る様子を想像した。


(確かに……あの基地にオーロが居候するのは物理的に無理があるよなぁ………)


 そして、ヴィシュが困っている最大の原因はミオンだ。


 ミオンは頑なにオーロとの共同生活を推し進めようとしている。『場所くらい詰めればなんとかなるでしょ!』とか、『スラムは危険が多いんだから、オーロさんがいた方が安心じゃない!』とか、『ヴィシュがそんなに薄情だと思わなかった!』などと息巻いている。しまいには『じゃあ私が出ていってオーロさんと暮らせばいいのね!』などと言い出す始末である。これにはオーロも驚いて『いや……俺は……あの……イオリと……』と言葉を詰まらせている。



(いやぁ……オーロは俺と一緒にいることが目的だったんだけど……。それにしてもミオンが……怪物のような大男を、あんなに困らせるなんて……)


 イオリも興奮するミオンを見て驚いていた。いつもは静かに一歩引いた位置で様子を伺っている印象だったが……、ヴィシュと話す時は饒舌になるようだ。それにヴィシュが言うには、やはりオーロはミオンの父に似ているらしい。完全に父親の分身として捉えてしまっているのかもしれない。



「あっ! そうだ!」


 4人がそれぞれ着地点を探し出そうとしていると、ヴィシュが閃きの声をあげた。


「簡単だよ! アキナおばちゃんに話してもう1棟借りちゃえば良いんだよ! おばちゃんだって空き家にしとくのは勿体ないって言ってたし! それに正直に言って、正体不明のイオリを引き入れたばかりでオーロを連れて行くのは……流石に仲間たちも反対するかもしれないだろ? もう1棟借りて、そこにイオリとオーロが住むなら誰も反対しないって寸法だ!」


 これはナイスアイデアである。アキナおばちゃんは白弓一家の基地の大家さんで、中庭を共有する食堂の経営者だ。同じく中庭に面した空き家も所有していると言っていた。あの空き家を借りることができれば全て解決だ。オーロを居候させるどころか、自分用の作業部屋も確保できる。イオリは早く工具を並べたいのだ。


 ミオンも一瞬で嬉しそうな顔に早変わりしたが、再び表情を曇らせて『でも……お金はどうするの……?』と呟いた。ミオンも白弓一家の仲間たちも、イオリとヴィシュが大金を持っていることは知らない。イオリとヴィシュはニヤリと笑って同時に言った。


「「それは任せとけ!」」


 4人は善は急げとスラムへ帰ることにした。今日中にアキナおばちゃんと話をつけてしまいたい。今日は狩猟も採集もしていないが、帰りがけに市場で食料を買えば良いし、オーロ用に買った食料だってある。


「では行くか」


 オーロはそう言うと、頭陀袋を肩にかけ、禍々しい矛を背負う。隻腕なのに器用なものだ。最後にヒョイっとミオンを肩に乗せた。


「ひゃっ!」


 ミオンは悲鳴をあげるが、オーロはお構いなしだ。『何度も歩かせる訳にはいかんからな!』と豪快に言い放って歩き出してしまった。ミオンも最初は高さに怖がっていたが、直ぐに慣れたのか嬉しそうに身を委ねていた。話し合いに時間がかかったので、ミオンの足で帰ったら暗くなってしまう。ヴィシュも止めることなくオーロに任せることにしたようだ。




 西のスラムまで戻ると、真っ直ぐに食堂へ行った。一家の面々に会う前にオーロの居場所を確保してしまった方が話は早い。通りにあるオープンテラスではなく、中に入ってアキナおばちゃんを呼ぶ。


「アキナおばちゃん! いるかー!」

「はーい! いま行くよー!」


 アキナおばちゃんは40歳くらいで、とても元気が良い。いかにも下町っ子といった雰囲気で、いつも忙しそうに動き回っている。イオリが挨拶に行った時は『あら! いい男ね!』と言って蒸した芋を1つくれた。人と打ち解けるのが上手いのだろう。イオリは『見習わないとな……』と内心でスラムでのお手本にしようと思った相手だ。


 そんなアキナおばちゃんだが、4人を見て言葉を失っている……。正確には、隻腕の大男を見て、口をパクパクさせている……。


(やっぱり……そうなるよなぁ……)


 イオリはヴィシュに『お前が何とかしてくれ……』の念を送ると、察してくれたのかヴィシュはコクリと頷いてから紹介を始めた。


「おばちゃん! このミオンの親父さんに似ている人はオーロだ。 ミオンの親父さんに似て、とても優しいから怖がらないでくれ。ミオンの親父さんのように片腕を無くしているけど、生活に支障はない。ミオンの親父さんに似て、こんなにミオンが懐いている。ちなみにイオリの知り合いだ。イオリは記憶喪失だけど、オーロがイオリのことを知っているんだ。イオリの記憶が戻るまで、オーロはイオリの手助けをしたいんだ。まるでミオンの親父さんのような優しさだろ? それで……流石に今の部屋はもう限界だから、空き家を貸してくれないか? 金は先払いするから! ミオンの親父さん……、覚えてるだろ? 」


 策士である。昔からスラムで暮らす者同士でしか使えない高度な作戦だ……。ミオンの親父さん作戦で押し通すつもりらしい……。


 アキナおばちゃんはヴィシュの説明を聞くと、再び恐る恐るオーロを見る。


「ああ……確かに似てるわねぇ……、でもヴィシュ! 家賃を先払いって……あんた悪いことしてるんじゃないだろうね!」


「違う! してない! 払うのはイオリとオーロだ!」


「なら良いけど………イオリは納屋を止めて……オーロさん? と一緒に暮らすのかい?」


「いえ、俺もヴィシュみたいに作業部屋が欲しいので……出来れば納屋もそのまま借りたいのですが……」


「うーん……なら良いけど……」



 どうやらアキナおばちゃんは攻略できた。その後、家賃の取り決めや部屋の使い方のルールなどの細かい話になった。こういうことは勢いが大事だ。無理を言って早速入居してしまうことにした。

 オーロは掃除もしていない空き家へ。イオリは納屋に入る。ヴィシュとミオンは共有部屋へ行って仲間達に事前説明だ。4人はそれぞれの部屋へ入っていった。



 夕飯まではまだ時間がある。

 イオリは納屋に入って一息つくと、ずっと気になっていた手紙を読むことにした。オーロから渡されたアイザックからの手紙だ。




 開封しようと思って封蝋に触れると、青白く光って蝋は消えてしまった……。




=============================


 親愛なる転移者へ


 まずは自己紹介から書こうと思う。


 私の名前はアイザック=ウルフ。

 君と同じ、転移者だ。


 1930年にロンドンで生まれ、1964年に転移してきた。転移する前はオックスフォードで物理学を探求していた。正真正銘の地球人だ。


 私は地球で暮らしていた頃、人間関係の構築やコミュニケーションが苦手だった。そして学派間の闘争や研究での足の引っ張り合いに嫌気がさしていた。そんな折に女神の導きによってテラデアに転移した。研究は好きだったから、『精霊が存在する未知の世界』と聞いて飛びついたのだ。


 しかし意気揚々と転移したものの、何もない祠の中で目覚め、餓死寸前まで追い詰められた。そして1人のテラデア人に助けられた。あの苦い経験は私1人で充分だ。君にはスムーズにテラデアでの生活をスタートしてもらいたい。そう思って私の親友オーロに向かってもらうことにした。


 オーロとは会ったかい? さぞ怖かっただろう? だが安心して欲しい。オーロは頼りになる奴だ。偉大なる賢者が保証する。


 私は新たな転移者である君のことを、私のような研究者か……何らかの学問に精通した人物だと予想しているが如何だろう? 少なくとも、オーロのような武人ではない筈だ。この世界には危険も多い。オーロは必ず君の助けになる。


(ごめんなさい………ただのフリーターです………)



 ただし……オーロは考えるより先に手が出るタイプだから取り扱いには注意してくれたまえ。


(え……えぇ……)



 次に、この世界ーーテラデアーーについて、私の研究や考察を元に記しておく。


 既に気付いていると思うが、テラデアから見る天体の位置関係は、地球からみるそれと酷似している。私は転移してきた日の夜に気付き、興奮で全身が震えた。

 つまり、【地球が存在する世界】と【テラデアが存在する世界】は酷似していて、太陽系が在るべき位置に、テラデアを含む恒星系が存在している。

 ただし不可解なこともある。太陽が2つあることだ。【地球が存在する世界】でも恒星が対になっている連星は珍しいことではないが、あのような近い距離を保って存在できるのか……君と同じように……非常に不思議に感じたよ。懐かしい思い出だ。


(既に……気付いて………? 

(転移してきた日の夜に………? 俺は……太陽が2つあること……ヴィシュに自慢しようと……してました…………)

(そもそも……何言ってるのか殆ど分からない………)


 それから私は天体観測を続け、テラデアの公転周期と自転周期が地球と同一であることを突き止めた。ああ、すまない……当時の私は昂っていたのだろう。こんな基礎的なことでも興奮してしまっていたんだ。


(公転周期……? 自転周期………? 聞いたことある………! 思い出せ……俺!)


 他にも酷似していることは多い。大気組成や環境、生物学的な類似点、人類史……挙げればキリが無いが……決定的な違いがある。精霊の有無だ。そこで私は精霊についての研究に没頭して1つの仮説に到達した。


 そう! 君の想像通りだ。【テラデアとは地球世界に『精霊』という新しい概念を付加して、アップデートした世界】である。



(そう! ………じゃねーよ!)



 ここから先は流石の君でも辿り着けていないと思う。

 精霊についての考察と、テラデアの病魔についてだ。


(何にも……辿り着いてません………、女神さま……本当に俺で……良かったのでしょうか……?)


 まず私は、物理学的アプローチで様々な事象を実験したが……、ことごとく地球の事象とは別物の結果だった。テラデアではエネルギーの動き、そして作用が全く異なるのだ……。

 地球で学んだ物理学はまったく使い物にならず、私は狂喜乱舞した。


(……ん? 狂喜乱舞………?)


 私は古文書を集めて解読し、精霊鉱石を研究し、自らが契約した水の上級精霊ウルフと関わり、さらに精霊契約者である妻に協力を仰ぐことで以下の考察に辿り着いた。


(え……? アイザックさん……精霊と契約……?? できるのか……? ……それより……テラデアで結婚したの!?)


 この世界の全ての事象は精霊が干渉することで実現する。ただし精霊は思念体だから精霊単体では現実に影響を及ぼすことができない。生物と契約したり、物質に宿ったりすることで、世界に影響を及ぼすことができるようになる。


 そして、精霊には3つの形態が存在している。

 精霊の三態……。即ち、生物と契約している【成態】、物質に憑依している【半成態】、完全に活動停止している【シスト】だ。

 

 精霊にとって【成態】が最も活性が高まっている状態だ。その精霊がもつポテンシャルを最大限に行使することができる。これは精霊が意志を持つ生物と契約することで成立した状態だ。だから殆どの場合、思考が発達している人類と契約している。人間がハードウェアで精霊がソフトウェアのような関係だ。ただ、獣や植物……高齢の樹木などと契約することもある。驚くべきことに、個体と契約するだけではなく、種全体と契約した例や、子孫まで含めて契約した例も存在する。この特殊な契約を私は『血縁契約』と呼んでいる。この血縁契約に関しては事例が少ないために原因や理由は解明できていないが、かなり高位の精霊でないと成立しないようだ。


 次に【半成態】だが、これは精霊鉱石に代表される、物質に宿っている状態だ。鉱石以外にも木材や液体に宿ることもある。だが、一般的なのは鉱石だ。精霊が憑依しやすいのだろう。【半成態】の場合、精霊のもつポテンシャルの全てを行使することはできない。これは精霊の力の行使は『思考』や『感情』といった精神活動の影響を受けることに他ならない。しかし、存在がシンプルで扱いやすいためか、古代には【半成態】を利用した様々な技術があった形跡を発見している。


 最後が【シスト】だ。これは未だ私も観測できていない。精霊の活性が極限まで下がり、観測することができない状態だ。だが確実に存在する。存在しなければ説明がつかない事象が多すぎる。そしてこの【シスト】こそ、テラデアが病魔に冒されていることの裏付けとも言える。なぜなら、古文書の読解や考古学的アプローチから推察すると、【シスト】は精霊が最近獲得した形態だからである。病魔から精霊が自己防衛するための形態が【シスト】である。



 そして、現在のテラデアは、精霊の数も、人類の数も少な過ぎるのだ……。本来この世界に存在できる数に遠く及ばない。この世界は精霊が溢れていなくては存続できないのに……だ。


 私が解読した古文書には、確かに精霊郷と呼ばれていた時代の記録が残っていた。そして、研究した結果、古代と現代を比較すると、総人口は30%を下回り、精霊数は10%を下回る……壊滅的な状況だ。そして人類は1000年もの間、まったく進歩をしていない。戦争を繰り返し、確実に終焉へ向かっている。地球では、戦争すら人類を進歩させていたというのに。


 なぜだろうか……?


 なぜ精霊はシストになってしまうのだろうか? 


 答えは簡単だ。

 阻害要因があるからだ。



 人類を戦争へと誘導し、感情を抑制し、古い記録を隠蔽し、文化や科学の発展を阻害する……そういう悪意をもった存在が暗躍している。その存在を私やオーロは『ゼノ』と呼んでいる。そして『ゼノ』は複数体いることが分かっている。


 これがテラデアを蝕む病魔の正体だ。


 以上が私の考察だ。



 私の研究の全ては、この手紙で書き尽くすことはできない。発掘したアーティファクトと共に、妻と娘に託してある。必要ならばラティオテラの研究所を訪れて欲しい。



 オーロは『ゼノ』を追っている。1人でも追い続けるだろう。


 だが、どうかオーロを助けてやって欲しい。そしてテラデアを救って欲しい。





 最後にーーー、


 どうか、君の人生がテラデアで輝きますように




 アイザック=ウルフ


=============================




 どうやら頭の整理に時間がかかりそうである……。




長くなってしまいました(汗

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